105話 『冒険者って馬鹿ばっか?』
さてさて、火の手がどんどん回っております。
おーっと、ここでゴブリンの王様の家が焼け崩れていく!
なんと! 火はより強まって周囲を燃やし尽くさんとばかりに張り切っているご様子です!
って、実況してる場合かー!
こいつら本当に考えがあるんだろうな!?
ただの思い付きでやったのだとしたら本物の馬鹿だぞ!
ほら、森にまで火が移っちゃってるよ!
そろそろ消せる人いるなら消した方が良いんじゃないでしょーか!
えっ? いなさそうだって?
ということは、もしや……私がやらなきゃダメ?
いやいやいや、確かに周囲を更地にくらいなら出来そうだけど、火は消せないって!
だって水の魔法とかないもん! 悪魔に変態出来た時ならともかく、麒麟にしかならないんじゃ無理無理!
もっと酷い事になるって!
っていうかさ、最初から疑ってたけど本当にこいつら手練れの冒険者なの? 如何にも初心者って感じなんだけど……。
敵もいないし、残党程度なら火を撒くより見回った方が早いでしょうに……。
はぁ、結局私がどうにかしなきゃならないのか……。
むっ? むむっ!? おー!
一人の冒険者がなにやら火が強まっている事に対して「大丈夫か?」って聞いてるぞ!
そうだよそれだよ! お前のその言葉は正解だ!
良かったな君たち! 一人はちゃんとした頭脳を持っている奴がいるみたいだぞ!
「大丈夫だ、問題ない」
っておいー! なにが大丈夫なんだ! 言ってみろ! 一つも大丈夫な要素はないだろ!
もうどうして私がこんなに感情を昂らせなきゃならないんだよ!
くそっ、これも全部こいつらのせいだ。
ホント、どうして水魔法を覚えてないのに火を扱うんだよ……。
「さて、そろそろゴブリンの残党が居たとしても死んでいる頃だろう。街へと戻ろうか」
「そうね。ゴブリンの集落を潰した事を冒険者組合に報告しないといけないわ」
えっ? どゆこと?
それはつまり、私が潰したのに君たちの功績になるって事ですか?
……なんてこった! 私、すごくそんな役回りって事!?
ぐぬぬぅ、ま、まぁ、街に行けばきっと楽しい人生が送れるはず!
今は耐える時だ。そう、今辛い思いさえしとけば後は楽になるはず!
さぁ! 街へと向かおうか!
おっと、その前になんとか火を消しとかないとね。
ふんふんふふーん。
楽しみだなぁ。この世界の街かぁ。どんな感じなんだろう?
日本の都市っぽいのかな? それともヨーロッパとかの街並み?
いや、やっぱりアニメや漫画でよく見る世界かな?
「止まれ! 貴様はどこの国の者だ!」
ふぇ?
あ、あぁ、そういう事ね。門番の兵士に止められちゃったか。
まぁでも適当に旅人とか答えとけば問題ないでしょ!
「私は各地を旅しています。国に属していません」
「ほぅ。では身分を証明する物はあるか?」
身分? 身分って……はっ! そんなものないよ!
だって私が生まれたの迷宮だもん! ってか、モンスターだし!
「身分を証明するものは……ないです」
「そうか。では街に入れることは出来んな。また身分証を手に入れてから来てくれ。ーー次の者! 身分証の提示を!」
まるで厄介払いするかのように私が街へと入る事は許されなかった。
分かっている、確かに身分を証明出来ないのなら怪しいというのは間違いないし、兵士という職業上、怪しい者を街に入れることは出来ないだろう。
でも、それでもだよ。
ーー私は街に入りたかった。
「うわぁぁぁぁ!! 折角火を消すのに苦労したのにぃぃぃ!!」
人間状態で初めて叫んだその声は、辺りへと響き、私は街道を歩く人々から奇怪な者を見るような視線を送られるのだった。




