103話 『感動の再会』
こっそりとひっそりと冒険者達の後をつけて数分後、ようやく女の子達と冒険者のお仲間さんは再会する事が出来た。
ゴブリンはいないと分かっていながらも、ちゃんと弱いこの人達を見守っていた私に是非とも感謝してほしいところではあるけど、今は何も言わないでいてあげよう。
さすがの私も感動の再会に水を差すような真似は出来ないからね。
まぁ、正直な話、どうしてそこまで感動の再会っぽく出来るのか少し謎だけどね?
だって、私がこいつらを助けなかったら結構危うかったし、それで感動の再会を見せられてもねぇ、ま、邪魔はしないけどさ。
さてと、とりあえずこいつらがようやく出会ったということで、今のうちに分裂スキルを解除して元に戻るとしますか!
「それで、どうしてこの集落にはもうゴブリンがいないんだ?」
「確かにそれは俺も気になった所だ。戦闘がなくなるのは良いが、少し不気味じゃないか?」
あーはいはいはい。それ私です! 私がやりました!
良いよね? 私がやったって声出しても大丈夫だよね?
「そうね。そこから説明するべきよね。ゴブリンを全滅させたのはあそこにいる女の子よ」
あ、はい。私が自ら喋るまでもないですか。そうですか。
いや、良いんだけどね? なんとなくこういう時に黙るより自分から話した方が疑われないような気がしたんだけど……。
ま、もう仕方ないね。ここからは話しかけてくれるまで黙って聞くことに専念するし!
私が黙り、ボーッとしながら話を聞いている中、ようやく冒険者達の話し合いは終わった。
内容については、聞き取れた限りだと、主に私についてだった。
ゴブリンが存在しない理由については、簡単に説明しており、私がモンスターに変化して殲滅したと伝えていた。
ただ、殲滅した事に関しては深く話し合っていないものの、私の存在については長く議論していたようだ。
まぁそれも仕方ないと思う。
後から来た冒険者に関してはそれを信じる事は難しいし、先に囚われていた冒険者も一方は信じており、一方は信じていないというのが現状だった。
しかし、そう、例えばーー私が本当にモンスターに変化出来るのかーーという問題についてを後から来た冒険者達に見せれば済む話。
だが、それを冒険者達は許してくれなかった。
なにせ、この世界において人間とモンスターは敵対関係であるのだ。
召喚魔法や、モンスターテイムによって従属させているモンスターならまだしも、野生にいるモンスターは完全に敵だ。
だからこそ、ゴブリンがいなくなって安全になったこの一帯において、私がモンスターに変化する事は許されなかった。
囚われていた冒険者達は例え私が本当にモンスターであったとしても、ゴブリンに殺されるか、私に殺されるかの二択だったが為に変化を止めなかったのだろう。
けれど、今こうして冒険者達が集まったのならば話は別だ。
少しでも不審な行動を取れば即戦闘が始まってしまう。
故に、私はモンスターに変化する事が出来なかった。
勿論、明確に私がモンスターに変化する事を許さない訳ではない。
当然私は話に参加していない訳だし、ただ聞いているだけの立場だが、話の内容から察するに、私がモンスターに変化すれば殺すしかないとの事だ。
どうしてそこまで敵対視出来るのかはモンスターである私からすれば分からない事だけど、さすがに戦闘になるのは助けた手前、面倒だし、私は人間のままを選択する事にした。
「済まない。お待たせしたしまったようだな。彼女達から話を聞き、助けてくれたという事を知った。それについては深く感謝する」
「いえ、別に成り行きで助けただけなので感謝はいりません」
ようやく議論が終わったのか、冒険者達の中から一人の男が私へと話しかけてきた。
一見好意的で、感謝自体はしていることは分かるが、目を見れば私を疑っているのがすぐに分かる。
「では、感謝以外に謝礼を渡せばそれで良いでしょうか? 現状私達に命に釣り合う程の金銭や物は持っておりません。街に行けば倉庫にある程度ありますが、それで宜しければお渡し致します」
ふむ。
ふむふむ。
お金や物かぁ。いらないなぁ。すんごくいらないなぁ。
お金に関しては使うかもしれないけど、別にそこまで欲しいって訳じゃないんだよねぇ……。
あ、ん? 今この人街に行けばって言ったよね?
ってことは、この近くに街があるって事!?
ひゃっほー! これで私の計画である異世界でゆったり過ごすというのに近付くぞ!
よしよし、それじゃ物とかの代わりに街の場所を教えてもらうとしましょう!
「物も要らない。それよりも街の場所を教えて。何日も彷徨っていたから休みたい」
「街の場所……ですか。分かりました。では、お教え致します。ただし、先ほど話を聞いた限りではモンスターに変化出来る特別なスキルをお持ちとの事ですので、それを街中、或いは人間が近くにいる時には使わないという条件を飲んでいただけるのならですが」
「分かった。あのスキルは疲れるし、使わない事にする」
「ありがとうございます。では、街の場所について簡単に説明致します」
この冒険者はある程度頭の回転が早く、考える事が得意なな人だ。
仲間の話があったからこそかもしれないが、モンスターであるかもしれない私に対して、交渉や下手に出て話すという事をしてきている。
それに、モンスターかもしれない私に街を教えるという点においてもきっとある程度考えがあるのだろう。
仮に、私がモンスターだとしても、街には恐らく沢山の冒険者が存在し、対抗する事ができる。
一定の被害が出るし、モンスターを中に入れたと知られたらこの冒険者達の立場も危うくはなるだろうが、そこはモンスターに脅され、洗脳されたとでも言えばあまり問題ではなくなる。
まぁ、私をある程度信用してくれるから教えてくれているだけかもしれないが、最悪街の住人全てと戦う可能性があると思っておくべきだろう。
ま、それもこの冒険者達が私の事を誰かに話したりしなければ有り得ない事だけども。
ーーだって、私街の中でモンスターになるつもりなんてこれっぽっちもないし。




