99話 『私、大活躍!』
ゴブリンの長を文字通り瞬殺した後の掃除は簡単だった。
驚愕し、動きの止まっていたゴブリン達が動き出し、仇を取ろうと私へと襲い掛かってくるが、今の私にとって弱すぎるゴブリン達はなす術もなく私に蹂躙されるだけ。
殺意と敵意を持ち、復讐しようと襲い掛かってくるゴブリン共など、動きも単調で最早自殺しにきているようなものだったのだ。
しかし、中にはまた別の個体が存在した。
復讐など眼中にないのか、殺されることを恐れて私から逃げようとしているのだ。
当然逃げた者も追えば殺すことは容易だが、私は敢えて逃すことにした。
例え逃げ延びたゴブリンがこの先人間を殺そうが、捕まえようが私にとって関係はない。
そう思ってしまう時点でやはり私はある程度モンスター寄りの思考という事になる。
だが、襲い掛かってくる奴には容赦はしない。
麒麟状態になってすぐに殲滅してしまうという選択もあったが、私は人間の姿のまま、スライムとしての力を使ってゴブリン達を殲滅した。
単純にステータス的には相当高いスライムがどの程度戦えるのかどうかの検証であり、頭の片隅には麒麟状態で戦えば人間に被害が出る可能性も考えたが、どちらかと言えば力試しとしてスライムでの戦闘を始めたというのが正しい。
ただ、一つ問題があったとすれば、ゴブリン達があまりにも弱すぎたという事。
迷宮の上の階層に居たモンスター達よりも恐らくは弱く、出会った冒険者達よりも弱いと思えてしまう。
「んー、少しは痛いと思ったけど、全然だなぁ」
わざわざ攻撃を受けてあげても私にかすり傷一つ与えることは叶わず、攻撃したゴブリンは私の中に飲み込まれていく。
ここまでくると出る結論は一つ、余りにもステータス差が大きすぎると最弱であるスライムでも蹂躙出来てしまうという事。
やはりこの世界はステータスこそがおおよそ絶対なのだ。
あーあ、久しぶりに戦えると思ったのに、こんなに弱いなんて思わなかったよ。
まぁゴブリンの長も相当弱そうだったし、取り巻きのゴブリンなんて更に弱いから当たり前なんだけどさー。
もうちょっとどうにかならなかったのかな?
これじゃ外の世界のモンスターが迷宮に入ったら餌にしかならないよ。
……あ、やべ。
人間からスライムに戻ってるわ。
やっぱ集中力を維持するのが今の私への課題かなぁ。
って、あー、ゴブリン達、それは悪手だよ。
おしまいだね。バイバイ。
圧倒的な個体に対して、数で攻めようとも勝ち目はない。
その事を私は迷宮で嫌というほど知った。
だからこそ、私がスライムに戻った時を狙って、ゴブリンが生き残った全員で畳み掛けたとしても、私が負ける事はない。
うーむ、しかしこう見るとゴブリンの顔が近くにあるし気持ち悪いなぁ。
ん……どうしよっかな。勿体ないけど捕食スキル使っちゃおうかな!
それじゃいただきまーす!
もぐもぐもぐ。
うーん、口を動かしても特に意味はなし!
ま、まぁ溶かしてるだけだからそりゃそうなんだけどさ、でもなんていうの、食べる時にちゃんと咀嚼したいじゃん!
だからやめて! 私をそんな目で見ないで!
あーもう! 折角ゴブリンを倒したのに人間たちにヤバい人を見てしまったっていう目で見られてるよ……。
どうすんのよこれ。
とりあえずもう一回人間に戻っとくか! 大丈夫、今ならまだ間に合うはず!
……
…………うーん、ダメですね。
余計怯えられてるわ。もう私がモンスターってバレちゃったかぁ。
って、おっ! ゴブリンが使ってた槍が落ちてる!
私スライムだけど武器とか使えるのかなー?
もし使えるんだったら変態を使わなくてもある程度戦えるようになれるんじゃない?
よし! 試してみよう!
ほっ、やっ、とりゃ!
ふぅ。いい汗かいたぜ。
ふっふっふっ。これは良いことを知ってしまったぞ。
さっき試しに振り回してみたけど、多分槍を普段から使ってるような人から見たらゴミみたいな使い方だろうけども! とにかく私は槍を持って扱えた!
それだけで充分さ! だって、使い方とかは後々知っていけば問題ないし!
いやー、嬉しいなぁ。
これでまだまだ私も強くなれるってことの証明になったよ。
ーーはっ! やばいやばい、人間のことをつい忘れちゃってたよ。助けたんだからとりあえず解放してあげないとね。
あのー、武器を持って喜んでるモンスターですけど、近付いても大丈夫ですか?




