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BattleShip"YAMATO"〜桜舞い散る中で〜

作者: 霜月龍牙

人間五十年

下天のうちを比ぶれば

夢幻の如くなり

一度生を享け

滅せぬもののあるべきか


幸若舞『敦盛』より




海には巨大な軍艦があった。

それは重厚な艦体を持ち、3基のこれまた巨大な主砲塔は砲身を天に向けて沈黙を保っている。

だが、その姿は三年前の凛々しい姿とは打って変わって、今では敗残兵のような雰囲気をかもし出している。

普段はまったく人気のないその軍艦の艦首には、二人の男女が立っていて何か話をしているようだ。


「どうしても‥‥‥行くんだな。」


軍服を着た男は声を搾り出すように言った。

俯いた顔からは表情が読み取れない。


「はい、これが任務ですから。」


同じく軍服を着た少女は、そう言って陰のある笑みを浮かべる。

男はそうか、と呟いて黙ってその場から立ち去ってしまった。

少女はその行為を止めようともせずに、その場に立ちつくして彼を見つめている。

桜の花は、まだ咲かない‥‥‥



「早潮さんっ、来てくれたんですか!?」


戦艦『大和』の艦首から、15、6才くらいの美少女が手を振りながら男を呼んでいた。

少女の身長は150センチ後半と当時としてはかなり背が高く、腰まで伸びた長いストレートの黒髪を赤いリボンでまとめている。


さて、なぜ女性がいることがご法度の軍艦に軍艦に少女が乗っているのか。

少女はこの『大和』の艦魂かんこんだからだ。

艦魂‥‥‥それは古くから船乗りたちの噂となっている艦に宿る魂のことだ。

艦魂たちは皆美しい少女の姿をしており、その船の安全を守ってくれるというらしい。

また、彼女たちの姿は普通の人には見ることができず、彼女たちを見ることができる人は極僅かしかいない。

そして、早潮と呼ばれた男はその数少ない一人だった。


「何言ってるんだ、もちろん来るに決まってるじゃないか。

それに‥‥‥最近は暇だからな。」


早潮は自嘲するような口調で呉の方向を見つめる。

そう、東洋一の造船設備を誇った呉は、数日前の米軍の空襲により壊滅していたのだ。


「すみません、わたしたちがもっとちゃんとやってれば‥‥‥」


大和は悲しそうに俯いた。


「いや、誤解させるような言い方をして悪かった‥‥‥お前たちはいつもよくやってくれていたよ。」


早潮は大和の頭を撫でる。

彼女はその感触に気持ちよさそうに表情を緩める。


「早潮さん‥‥‥」


大和がそう言ったきり、二人は言葉を発しなかった。

どの位時間が経ったのであろうか、大和は意を決したように早潮に話しかける。


「‥‥‥早潮さんは、わたしたちが初めて出会ったときのことを覚えていますか?」


「ん?ああ、よく覚えているよ。あれは確か‥‥‥」


早潮は過去の記憶をたどり始める。

それはまだ戦争が始まる前のこと‥‥‥



昭和15年8月8日。

普段は鉄と火と怒号で満たされているその建物は、今日に限ってやけに荘厳で厳粛な空気に包まれていた。

工具や足場で雑然としていた内部は綺麗に片付けられ、船渠の奥の方に設置された式台には飾りつけがなされている。

そして、その建物の中心には圧倒的な威容を誇る、船の形をしたた巨大な鉄塊があった。

そう、ここは帝國の最終兵器である『一号艦』が建造されている呉造船所の第四船渠だ。


さて、式台から少し離れたところに立っているのは、溶接部第三班の班長である早潮はやしお 勇気ゆうき技師である。

彼は東大を卒業したエリートでありながら、その温厚な人柄によって部下からの信頼が厚いことで有名である。


その彼は、普段とは違う空気に内心戸惑っていた。

周りにいるのは彼の愛する部下ではなく、呉海軍工廠の部長や課長クラスといった普段見慣れない者ばかりだ。

さらに、式台には呉鎮守府長官や造船所長など普段はお目にかかれない雲の上の人が大勢いる。

そして、そこには『常磐』の艦長で皇族の久邇宮くにのみや大佐が、天皇陛下の名代として臨席していた。


「これより、仮称『一号艦』の命名を行う。」


いよいよ命名式が始まる。

居並ぶ関係者たちは一様に黙って、一言一句聞き逃さないようにする。

呉鎮守府司令長官の日比野ひびの 正治まさはる中将が壇上に上がり、海軍大臣の吉田よしだ 善吾ぜんごの代理として命名書を読み上げる。

早潮たち造船官は耳をそばだててそれを聴いている。


「命名書。軍艦‥‥‥昭和12年11月4日その工を起し、いまやその成るを告げ、ここに命名する。

昭和15年8月8日、海軍大臣吉田善吾。」


日比野は「命名書」を読み終えると、それを砂川工廠長に渡す。


(ちょっ、おま‥‥‥艦名は何だよ!そこが一番大事じゃないか!)


早潮は肝心の艦名が聞けなかったことに不満を募らせる。

周囲の関係者たちもどうやら艦名だけは聞こえなかったらしいのか、しきりに首をかしげている。


「おい、いま艦名をなんて言ったか聞こえたか?」


「俺は『亜細亜』と言っているように思ったが‥‥‥」


早潮は、すぐ近くにいた二人の造船官たちが会話をしているのを盗み聞きすることにした。

どうやら、片方の男がどうやら艦名を聞いていたらしい。


「なるほど、さすが超戦艦のことはある。その分名前も大きいのだな。」


「では、二番艦は『東亜』というところか。」


二人はそう言って小さく笑いあっていた。


(さすがに『亜細亜』はないんじゃ‥‥‥後で彼女に聞けばいいか。)


彼がそう思ったとき、周りの造船官たちが急に慌しそうに動き始めた。

どうやら「進水用意」の号令が掛かったらしい。

『一号艦』は作業員たちによって慌しく、それでいて慎重に進水準備が進められていく。

早潮も、持ち場である第一主砲塔のバーベット付近に待機する。


と、その時。

船渠の扉が開くとともに、外の光が差し込む。

扉が完全に開ききった瞬間、曳船が動き出して『一号艦』を船渠の外に引っ張る。


唐突に「支綱切断」の声がかかり、式台上の支綱が金斧で切断された。

すると、船渠の扉の近くにあったギロチンを支えていた綱が緩み、鋭くとがった刃先が艦首のともづなを切断する。


その瞬間、『一号艦』の艦首上にまばゆい光が迸った。

光はやがて収束していき、そこには人型の影が現れる。

そう、それは彼が幾度となく見てきた艦魂の誕生の瞬間であった。

早潮は真っ先に少女に駆け寄った。



少女は光の中にいた。

周りを見てもそこにはただ光があるだけであった。


‥‥‥ここは?


少女は自分に問いかける。

すると、猛烈な勢いで頭の中に情報の波が押し寄せてきた。


ここはく‥‥


くれ‥‥‥呉


呉‥‥い‥‥しょう


呉かいぐんこうしょう


『呉海軍工廠』


‥‥‥わたしは?


少女は頭の中に押し寄せてくる情報の波に翻弄されながらも、再び自問する。


わたしはや‥‥と


‥‥まと‥‥‥やまと


大和‥‥‥戦艦、『大和』


すると、少女は周りの世界が広がっていく感覚に襲われた。

少女は目を開ける。

そこは一面が白の世界だった。


これは‥‥‥?


彼女はその風景に疑問を覚える。


「これは『一号艦』の進水を秘匿するための煙幕だよ。」


少女は、どうやら自分の疑問を声に出していたようだ。

彼女のすぐ近くまでたどり着いた早潮がそれに答える。


「あなたは?」


少女は驚いたように目を丸くして早潮を見つめる。


「ああ、俺は早潮 勇気だ。一応ここの造船技師をやっている。よろしく。」


「‥‥‥わたしの名前は『大和』っていいます。早潮さん、よろしくお願いします。」


早潮が差し出した手を大和が握る。

彼はなんて細い手なんだろう、と思った。

彼女が負うべき運命に比べて‥‥‥


「それにしても、お前の名前は『大和』かぁ‥‥‥何だか男っぽい名前だな。」


「‥‥‥男っぽいって言わないでください。」


大和はむっとした顔で早潮を睨む。


「はいはい、分かったよ。じゃあ君は大和撫子のようだ、ってことでいいか?」


早潮はそう言って大和の頭を撫でた。


「!?」


大和は突然の感触に戸惑ったが、やがて気持ちよさそうに目を細める。


(大きくて、優しい手だ‥‥‥)


大和はふとそう思った。

そして、生まれて初めての笑みを浮かべて彼女は頷いた。

桜は、煙に隠れながらも青々とした葉を茂らせていた‥‥‥



「そうか、あれからもう五年以上も経ったのか‥‥‥時が過ぎるもの早いものだな。」


早潮は懐かしそうな顔をする。


「そうですね‥‥‥早潮さんはわたしが海軍に引き渡された時のことを覚えていますか?」


大和はニッコリしながら早潮の恥ずかしい思い出を語る。


「お前っ、まだあれを覚えていたのか!?」


早潮は珍しく顔を真っ赤にしながら動揺する。


「もちろんですよ。だって、早潮さんがあんなに泣きじゃくっていたのを見るなんて、あれが最初で最後ですもの。」


大和はクスクス笑いながら言う。


「だっ、だから思い出すなって!」


「でも、あの時は嬉しかったです。

だって、わたしのことをこんなにも想ってくれる人がいるなんて、思いもしなかったんですから‥‥‥」


大和はなぜか悲しそうに俯く。


「大和、いったいどうしたんだ?」


「‥‥‥あの、早潮さん。大事なお話があるんです。」


早潮が大和の顔を覗き込もうとすると、彼女は決意に満ちた目で彼を真っ直ぐ見ていた。



次の日から早潮は一度も大和の前に姿を現さなかった。

その間に「菊水作戦」も本決まりになり、『大和』以下第二艦隊の各艦は出港準備に追われることとなった。


それから数日後。

燃料・弾薬の積み込みを完了した大和は、いよいよ徳山から出港することとなった。

大和は本土の見納めにと、徳山の燃料基地に来ていた。

もしかすると早潮に会えるかもしれない、という微かな希望もあった。


だが、結局時間になっても彼は現れなかった。

大和は名残惜しそうに自艦に帰ろうとすると、早潮が息を切らせながら走ってきた。


「はぁっ、はぁっ、どうやら間に合ったみたいだな。」


「早潮さんっ!!」


大和は思わず彼に抱きついた。

早潮は少しよろめきながらも、彼女をしっかり抱きとめる。

やがて、二人は名残惜しそうに離れた。


「‥‥‥大和、これを持っていけ。」


早潮はそう言って懐からお守りを取り出した。


「これって‥‥‥金刀比羅宮のお守りじゃないですか!?」


金刀比羅宮とは航海安全を祈願する神社で、香川県の山奥にある。

彼は瀬戸内海を渡ってわざわざ行ってきたのだ。


「お前のために貰ったんだ。持っていけ。」


彼は大和の手にそれを握らせる。


「早潮さん‥‥‥」


大和はじっとお守りを見つめる。

その目には涙が浮かんでいた。


「ほら、泣くな。そのお守りがある限り、俺たちはまた会えるさ。」


早潮は大和の涙を拭ってあげる。


「はい‥‥‥そうですね。」


そう言うと大和は微笑んだ。

それはまるで、儚い桜の花のように‥‥‥


「うんうん、お前は笑っている方が可愛いぞ。」


早潮はその不吉な考えを振り払うと、大和の頭を優しく撫でる。


「はっ、早潮さん!からかわないでくださいよ‥‥‥」


大和は頬を赤くしながら俯いた。


「‥‥‥ほら、もう時間だ。行ってこい。」


早潮はそう言って大和の頭から手をどける。

大和は一瞬残念そうな顔をしたが、すぐに表情を引き締めた。


「はいっ、行ってきます!!」


大和は彼に見事な敬礼をすると、光に包まれてそこから消えてしまった。

その時、先ほどまで大和がいた場所に桜の花びらが舞い落ちた。

早潮はそれを大事そうに自分の手帳に挟んで、その場を立ち去っていった。

それが、彼が見た大和の最後であった。

桜は、まだ八分咲きだった‥‥‥



ようやく桜が満開になったとき、早潮は先月の空襲で破壊された呉の第四船渠で大和沈没の知らせを聞いた‥‥‥



大和沈没から数年たったある春の日の朝。

第四船渠から程近い彼の自宅は、奇跡的に爆撃から生き残っていた。

庭の桜は既に花を散らせており、青々しい葉っぱが太陽の光を受けて輝いている。

そんな朝を、彼は自宅の戸を誰かが叩く音で目を覚ました。


「ったく、いったい誰だよこんな時間によぉ。」


早潮はそう呟きながら玄関に向かう。


(なんだ‥‥‥、なぜか胸騒ぎがする。)


早潮はなぜか緊張しながらドアを開ける。

そこには麦藁帽子を目深に被った白い服の少女がたっていた。


「あの‥‥‥あなたは早潮さんですか?」


早潮はどこか懐かしい声だな、と思った。

だが、声の主が思い出せない。


「ああ、そうだが‥‥‥お前はいったい誰なんだ?」


早潮は不思議と鼓動が早くなっていくのをを感じた。

唾を飲み込もうとすると、口の中がカラカラなのに気づく。


「もう忘れちゃったんですか?

早潮さんがくれたあのお守のお陰で、わたしはちゃんと帰ってこれたのに‥‥‥

それなのに、わたしの事を忘れられてるなんて悲しいです。」


少女は悲しそうに言って麦藁帽子を取った。

早潮はその姿に思わず息を呑んだ。

彼のその様子を見て少女はイタズラに成功した子供のように彼に笑いかける。


「ただいま‥‥‥早潮さん。」


それは紛れもなく沖縄の海に沈んだ彼女の姿だった。


霜月「ども、霜月です。『カナタの幻想』本編を期待していた方、まことに申し訳ないです(そんな方がいるのかどうか‥‥‥)。霜月は忙しいと言っておきながら、こんなモノを書いていました。」


加賀「まあ、作者にしては上出来であろう。ひとまず短編を完成させたのだからな。ところで、外伝でも何でもない違う作品の私たちを、いきなりここに出しておいて大丈夫なのか?」


霜月「いいんじゃないですか?これを読んで『カナタの幻想』本編に興味を持ってくださる方もいらっしゃるかもしれないし。(本当は大和と早潮のキャラがいまいち定まっていなかっただけですが‥‥‥)」


加賀「ふむ‥‥‥作者には後で根性を叩きなおしてもらう必要があるみたいだな。」


土佐「わたし大和ちゃんに会ってみたいな〜!!」


霜月「大丈夫です。彼女を『カナタの幻想』本編で出す予定ですから(あと何ヶ月掛かるかわからないけど‥‥‥)。」


加賀「ふむ‥‥‥何やら作者の心の声が聞こえたが、まあいいだろう。ところで、これは実話なのか?」


霜月「いちおう実話を基にしていますが、基本的にはフィクションです。」


土佐「作者〜、早く大和ちゃんにあいたいよ〜」


加賀「姉上、世の中にはできる事とできない事があるんだ。」


霜月「何か地味に傷つくんですが‥‥‥」


土佐「そうだね、作者がそんなに早く書けるわけないもんね‥‥‥わかった、わたし我慢する。」


加賀「うむ、それでこそ姉上だ!」


霜月「なんか、僕が作品を書き上げられないと思われてるようなんですけど!!」


加賀「違うのか?」


土佐「違うの?」


霜月「違います!!今は部活の行事ラッシュだから更新が遅くなったんですよ!!」


加賀「まあ、確かにほぼ一日おきに本番があるのはキツイと思うが、帝國軍人はそれくらいでは音を上げんぞ!」


霜月「うぅっ、でも‥‥‥」


土佐「がんばれっ、作者さんっ!」


加賀「ほら、姉上だって応援しているではないか。貴様も根性を男なら見せてみろ!」


霜月「よぉーしっ、なんだかやる気が出てきました!という訳で、来週から執筆を頑張るぞ!!」


加賀「‥‥‥貴様、今なんと言った?」


霜月「えっ?だって今週はまだ部活の本番が2回もありますし、日曜には僕の大好きな歌手のトークライブに行く予定が‥‥‥」


加賀「‥‥‥どうやら貴様に少しでも期待した私が間違っていたようだな。くたばれっ、人間のクズめ!!」


霜月「ひでぶっ!!!」


土佐「あ〜あ、作者が飛んで行っちゃった。」


加賀「読者諸君、こんな作者ではあるがどうか許してくれないか?もし、感想・意見があるなら遠慮せずに送って欲しいぞ。」


土佐「次はいつ投稿するのかな‥‥‥?」


加賀「多分、一ヵ月後だろうな‥‥‥」


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― 新着の感想 ―
[一言] はじめまして、檜山英といいます。 読ませていただきました。本作をいきなり読ませていただきましたが、こちらは作者様の書かれている作品の外伝なのでしょうか? でも、そうだとしても話はきちんとわか…
2009/04/09 22:55 退会済み
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