【クリスマス特別編】 双子姉弟の事情 ~君の騎士~
メリー・クリスマス! 皆さんは、クリスマス・イヴは楽しく過ごされたのでしょうか?
今日はクリスマスということで、短編の特別編を投稿致します。
このお話は、別に本文を読んでいなくても、大丈夫な内容にはなっています。
しかし4部に分かれており、その最終部分である4部目は、本文を読んでいないと、人物像が分かりにくいとは思いますが。
完全に無関係には無理でした。本文から見れば、無くてもいいお話となっています。
登場人物一覧を見るだけでも、分かるようなお話にしました。(一覧には載っていない人物も、この短編には登場しています。)
宜しければ、本文『君の騎士』の方もご覧ください。
※読まれる前の補足説明:『夕月』という名前の読みですが、フリガナがないものは、『ゆづき』と読んで下さい。フリガナがあるものは、その読み方で読んで下さい。
分かりにくいと思いますが、読み方の違いには意味があります。よろしくお願いします。(本編も同様です。)
これはまだ、北城家が欧米に暮らしていた頃のお話。
夕月パパこと『北城悠一郎』氏は、司法関係の仕事に就く為の勉強をしに、欧米で下積み時代を過ごしていた。
大学卒業後直ぐに、『名坂森学苑』で後輩だった『四条 見百合』と結婚して、そのまま欧米に渡ったのだ。
2人は恋愛結婚だったので、とても仲が良かった。
欧米に住んで暫くしてから、2人の間に子供が生まれた。男女の双子だった。
女の子の方が数分早く生まれたので、姉弟の双子である。
双子の顔は母にそっくりで、とても愛らしい子供だった。
父である雄一郎は、中々のイケメン紳士である。反対に母である見百合は、幼顔の可愛らしい感じの女性であった。
2人の年齢は2歳しか違わなかったが、雄一郎も年齢より若く見えるにも関わらず、見百合は更に若く見える為、年齢が離れているように見えることもあった。
姉弟の双子は顔はそっくりであったけど、性格は真逆なほど違っていた。要するに、二卵性双生児である。
姉は明快突撃タイプで、弟は実直真面目タイプである。
簡単に言えば、姉は何でも楽しみながら自分から攻撃するタイプである。
そして弟は、誠実さと真面目さで対応する慎重タイプなのだ。
しかし、双子というものは特別の繋がりがあり、不思議と考えも想いも行動も似てくるものだ。二卵性双生児でも。
この姉弟も、真逆の性格でありながら、双子の特性からか、似た部分がかなり見られた。よく似た性格にみえる程に。
だからか、姉弟の双子を見分けることが難しかった。この双子の両親以外は。
しかも、姉弟の双子は頻繁に入れ替わり、其々に成り切りって一緒に遊んでいた。
だから誰も、双子が入れ替わっているなんて、気が付きもしなかった。唯でさえ、見分けられていないのに。
2人演技は中々のレベルで、そう簡単に見分けられない段階であった。
流石に、姉弟の両親が一時的には騙されても、暫く見分けられないほど気が付かない、ということはないのだが。
よくホクロとか痣とかで、見分けられるというけれど、2人にそういう外見上の違いは、全くなかった。
身体の隅々まで探せば、ホクロも見付かるかもしれないだろうが、残念ながら2人には、誰でも見えるところには、そういう特徴がなかったりする。
つまりホクロや痣など、顔や手などの見える箇所にはなく、外見では見分けられないということだ。
では、両親はどうやって見分けているのか?それこそ、親の感だろうか?いや、それもあるかもしれないが。
性格も似たように思えるが、真逆の性格なので、細かい部分での違いがある。両親は、そういう部分を見逃さず、咄嗟に見つけているのである。
入れ替わりなどして、両親は怒らないのだろうか?
母である見百合は、怒ると言うよりも諭すように言い聞かせる。見百合は、お嬢様育ちに近い状態で育てられたので、おっとりしていて滅多に怒ることがない。
これに対して、父である悠一郎は、ケガをするような事をした時、何かやってはいけない事や悪い事をした時など、怒る時にはしっかり叱る人でもある。
その代わり普段は温厚で、入れ替わりぐらいでは苦笑いして、見守る程度だ。
しかし、姉弟の子供達には、母の諭すような語り口調や、母が含みのある笑い顔をした方が、余程厄介で怖いと知っていた。
だからいつも母にだけは、如何にして見付からないようにするか、2人にとっては余程の重大であったけれど。
母である見百合は、姉である『夕月』には女の子らしく、弟である『葉月』には男の子らしく、常に分けて育てようとした。
母は所謂お嬢様育ちで、そういう環境で育っていたので、それが当たり前だったのである。其れこそが正しいと、母親に教わっていた。
しかし、夕月は抑えられたりするほど、好奇心が出て来て、男女に関係なく挑戦してみたいと思う子供だった。女の子だからで諦めるのは、絶対に嫌だった。
母に反抗したいとは思っていないが、自分の事は自分で決めたいと思っていた。
逆に、葉月は誠実だし真面目だしで、夕月とは異なり、遣りたい事と遣らない事が分かれていた。何にでも無理して挑戦しようとは思わない。
ただ、夕月の気持ちには常に同調し、協力したいと強く願う。
このような理由で、2人の入れ替わり演技が始まったである。
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物心ついた頃になると、母が「女の子だから、男の子とは別の遊びをしましょうね。」と、夕月の外出を拒みだした。
どうやら、葉月と欧米の男の子達と遊ぶのが、母には抵抗があるようだった。
逆に葉月は男の子だから、外遊びをするのが当たり前という考えで、許された。
勿論、外国人の友達は男子ばかりでなく、女子も混じっていたのだが、男子と一緒に遊ぶ女子は、母にとって問題外のようであった。
最初は夕月も大人しく従っていたが、本来の性格から我慢出来なくなってくる。
葉月も初めこそは、1人で仕方なく遊びに行っていたが、何時も一緒の双子の姉が居なくて、段々と寂しくなる。ある日、姉が弟の部屋に何かを隠し持ってきた。
「ねぇ、葉月。お願いがあるのですけれど。」
「何?夕月のお願いなら何でも聞くけど。」
2人は本来、双子ならではなのか、一言も話さずに意思が通じることも多い。
相手が何を思っているのか、何を考えているか、何を求めているか、お互いに目を合わせただけで分かってしまう。
偶に、目を合わすどころか顔を見ずに、分かることもあるぐらいだ。
そんな2人が会話をするのは、理解出来ないからではなく、敢えて会話がしたいと思った時だ。この時もそうだった。
何もかも、会話なしで済ませるのは、余りにも味気なく寂しいと思っている、からでもあったけど…。
それに男女の違いも段々出てきて、会話で確認したいことも増えている。
葉月も何と無く、夕月が言いたい事は分かっていた。でも敢えて聞くのだ。その時の思っている事が、同じかどうかを。念いが既に違うからこそ。
夕月も同じく、葉月が察していることは理解しているが、敢えて『お願い』として話し掛ける。想いも異なるからこそ。
「私と入れ替わりを致しませんこと?」
「…その鬘、どうやって手に入れたの?」
「うふふ。内緒ですわ。…というよりも、御分かりでしょう?」
夕月は、自分の部屋から黒髪の鬘を2つ持ってきた。夕月の部屋は、葉月の部屋の隣だ。2人には、別々の部屋が与えられている。
双子と言えど、男女で同じ部屋は駄目だからと、勿論母が部屋分けをしたからだ。
だけど、その後2人の会話が増えた。結果的には良かったのだろう。
鬘は、髪が短い物と長いもの2つ用意されていた。現在、夕月の髪は女の子らしいロングヘアで、葉月の髪は男の子らしいショートヘアだ。
入れ替わると言うのだから、夕月がショートヘアの鬘を、葉月がロングヘアの鬘を被るのだろう。
葉月は心の中で溜息を吐いた。はあ~、あの人面白がっているよね。協力してくれるのは嬉しいけど…。
あの人とは、近所に住んでいる、変わり者だと言われているおばあさんだ。
変わり者だけど、余所者である自分達家族に、何故か親切にしてくれる人だ。
頑固な人だけど、葉月達子供の話も聞いてくれる。最近は夕月が愚痴を零していたようだし。知れば知るほど、夕月と話が合う人だったし。
割と面白い事とか好きな人だし。間違いないよね。はあ~。葉月の頭の中は、ため息で一杯になりそうだ。
葉月の心の声が聞こえてはいないだろうが、考えていることは分かっているとばかりに、姉がにっこり笑う。
双子だからお互いの事はよく分かっている。入れ替われば、本人に成り切る必要もあるが、2人にとっては簡単だろう。
「それが夕月の望みなら、僕は構わないよ。」
「ありがとうございます、葉月。大好きですわ。」
「僕も夕月が一番好きだよ。」
夕月が、嬉しそうに葉月に抱き着く。葉月もにっこり微笑んで、夕月を受け止める。まだ4歳、もうじき5歳の頃だった。
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「もうすぐ、クリスマスだね。」
「ええ。そうですわね。」
2人が入れ替わりを始めてから、もうすぐ初めてのクリスマスが来る。欧米でのクリスマスは、家族で一緒に過ごす。だから、今日は入れ替わる必要がない。
葉月は、夕月と一緒に過ごすことが出来て、とても嬉しかった。
この気持ちが、姉として慕っているだけでなく、1人の女の子として好きだということも。
夕月も理解していた。葉月が、自分を姉としてだけでなく、恋愛感情を持って見ていることも。
彼女自身は、弟として双子の片割れとして、大好きだった。特別な想いは同じだけど、想いの中身は全く違う。
それでも、双子としてでも、こんなに理解し合える相手は居ないと。だから、今はまだ、それでもいいと思っている。
家族で過ごすクリスマスは、2人にとって毎年楽しみだった。プレゼントも両親からだけでなく、この国の知り合いからも沢山貰った。
父方の祖父母からも航空便で、プレゼントが送られてきた。母がよく話す厳格な人、まだ会ったことが一度もない『四条のお祖母様』からも。
外国人の友人とも、子供だから大した物ではないが、プレゼントも交換した。
家族でお祝いした後、2人で葉月の部屋に行く。プレゼント交換をする為だ。
そういう時、相手が何をプレゼントするか大体分かるから、被らなくて便利だ。
夕月は、母と一緒に作った手作りのお菓子を。葉月は、父と一緒に買って来た、可愛い飾りのついたヘアゴムを。其々受け取り、封を開ける。
「葉月、ありがとうございます。このヘアゴム、大事に使いますね。」
「こちらこそ、ありがとう。夕月の作ったお菓子、美味しいよ。」
葉月は、夕月が似合う色のヘアゴムを選んだ。夕月は髪を伸ばしているので、髪を結うヘアゴムがいいと思った。
夕月の髪に映える色を買うのは、簡単だ。何と言っても、自分と顔がそっくりなのだから。後は色の好みだけど、双子だからよく知っている。
夕月も、葉月の好みのお菓子はよく知っている。お菓子の好みは少し違うけど、いつもおやつの時間は、一緒に過ごしているから。
そのぐらいは母も許してくれる。少しの時間なら、お互いの部屋の行き来も許されているし。長居しなければ、咎められることもない。
そしてクリスマスは特別だった。家族で過ごすことになるクリスマスだから、両親も2人で過ごす時間を大事にしている。
だから自分達子供も、何時もより長く2人で過ごすことができる。この日だけは。
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「もうすぐ、クリスマスね!」
「そうだね…。」
未香子の言葉に、ホンの少し昔を思い出した。まだ海外に住んでいた頃の事を。
無性に懐かしい。葉月は、今頃どうしているだろうか?
「今年も一緒にケーキ作ろうね。」
「ふっ、そうだね。未香子は1人で作るのは、禁止されているからね。」
「もう!夕月の意地悪!」
ぷくっと膨れた頬をして、拗ねている顔が可愛い。私は笑いながら、彼女の頬をツンツンと指先で突くと、未香子がプッと噴き出す。
「もう!」と文句を言いながら、私が悪戯しても、結局はすぐ許してくれる。
可愛い私の大好きで大切な女の子。
今ももう12月。まだ冬休みにならないけど、もうすぐ今年もクリスマスが来る。
冬休みには、弟の葉月も、未香子のお兄さんも帰省する。日本では家族だけで祝うものではないから、またこの4人で祝うことになるだろう。
私の想いはもう決まっているけれど、葉月はもうそろそろ決意するべきだ。
未香子のお兄さんである『朔斗』さんとも、はっきりさせる事柄がある。
もう私達は、いい加減に変わらなければならない時期だろう。
ただ、あと少し、まだこのままで居たい気はする。どうするのかは、結局は未香子次第なのかもしれない。
どうか、そのままの君で居て。想いが変わっても、在りのままの君で居て。
私はどこに居ても、ずっと君を見守るから…。
『クリスマス特別編』は、如何でしたでしょうか?
本文の方には出ないお話としてますが、執筆しようと思っている過去のお話よりも、更に前のお話になるので、書こうと思っていませんでした。
そういう設定自体なかったので。
でもこうしてお話にしてみると、書いてよかったなあと思っています。
本文では似たような表現も出て来るかもしれませんが、このお話自体を本文に書き加えることはない、と思います。
気分はもうすぐクリスマスなのに、お話が追いつく訳もないので、こういう形で別の短編として願いを叶えました。
この次は、お正月用の短編を投稿予定としています。(その間に、本文の続きも投稿したいとは思います。)
お忙しい中、読んで頂き、ありがとうございました。
※お話の進行は、第三者(筆者)視点で統一していますが、最終部分のみ、夕月視点となりました。