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第四十九話 『バイオレンスドラゴン』

 スケベジジイのデートの約束が迫っているため、試合が開始される。ボールを持った俺は当初の作戦通り、ボールを回す。すぐに俺のところにボールが返ってくる。再び回す。また返ってくる。


 お前ら察っしろよ! どうしてどれだけボール回しても俺のところに返してくるんだよ! なに、バスケやったことないの? バスケ部なのに。


 「くっ、やはりルシファーが入ってから戦術が変わったぞ。さっきはボールを彼女に見立てた自滅部隊だったのに、今はこちらが対応できないスピードでのパス回しで、フォーメーションを崩そうとしてくる」


 自分たちの攻撃が勝手に誤解している相手に効いているとわかると、俺に変なあだ名ばかりつけていた味方がぐっと親指を立ててくる。俺はそれに歯を見せて笑うと、中指を立てた。頼む、一回お亡くなりになってください!


 どれだけパスを回しても、結局俺のところに戻ってくるなら思いっきり投げてしまえばいい。俺は思い切り振りかぶると、力の限り投げてみる。


 俺の渾身の一投は見事な軌道を描き、ゴールへ向かって一直線。この場にスカウトマンが来てたら、もしかしたら将来はプロ野球界に進んだかもしれない。そんな一投。だがそのボールの行く先には


 ——相手のキャプテンの頭があった。


 バスケットボールってドッジボール用のボールなんかと違って、結構重たい。だから結構痛かったと思うんだよね。ボールが鈍い音を立ててぶつかると、キャプテンは膝から崩れ落ちた。


 あっまずい! わざとじゃなかったんだけどな……


 「ごめん、大丈夫か?」


 俺が倒れたキャプテンに近づいていくと、キャプテンに駆け寄っていた相手チームが戦々恐々とした様子で俺を見てきた。


 「やっぱりルシファーって呼ばれてるだけあって、やることが悪魔のようにえげつない」


 「いや俺は別にそんなつもりは……」


 弁明を試みようとする俺の肩を味方が叩いてきた。振り向くと俺に変なあだ名をつけるイカれたあいつがいた。


 「味方、敵双方のキャプテンを倒してしまうとはさすがです。やっぱりルシファー様は違いますね」


 笑顔は太陽のごとく輝き、俺に握手を求めることまでしてくる。その差し出された手を掴むと、俺は全身の力を込めて握ってやった。


 「痛い、痛い、痛い、折れちゃいますって、ルシファー様!」


 苦しむ味方を俺は満面の笑みで見下ろす。はっはっは、いつもシャーペン握りしめてるから握力だけは強いんだよ! こいつのせいで、うちのキャプテンが自滅したことまで俺の責任みたいになってるじゃないか。


 どうやら敵は味方の中にいるらしい。まずはそいつらを成敗してからじゃないと試合どころじゃない!


「おらあ! まずは俺に文句があるやつから出てこい」


 俺の挑発に他の味方は目を白黒させている。あれ? おかしいのはこのイカれたやつだけだったのか?


 「うわ、ついにルシファーが本性を現したぞ。味方にまで嚙みつき始めやがった!」


 「ち、違うぞ! これはまず身内の清掃から始めようと思ってだな……」


 再び試合が硬直状態に陥った。その時俺たちの耳にブザーの鳴り響く音が聞こえてきた。


 しまった! また試合を中断してしまった。きっとまた、とっとと始めろってスケベジジイに言われるんだろうな……


 「すまんが、試合はここまでじゃ。今からわしはデート♪」


 ブザーを置くと、ジジイはスキップをしながら体育館の出口へと向かう。あのジジイ、審判を放棄しやがった!


 ところで話は変わるが、こんな話は知っているだろうか? 敵対するものどうしを協力させるには、互いに共通の敵を作ればいいということを。


 それが今のこの状況だった。


 「こっっっっの、エロジジイィィィ!」


 「へっ!?」


 ついに自分がエロジジイだと理解したらしいジジイが振り向こうとするが、それを俺の渾身のドロップキックがさえぎる。


 「確保だ!」


 きりもみしながら、床を転がったエロジジイを今度は俺の指示を受けた相手高校の選手たちが、どこから持ってきたのかは分からないがロープで縛り上げた。エロジジイによる被害を未然に防いだ俺と相手チームは互いにハイタッチを交わし合う。


 心地よい音と手のひらの痛みが俺たちに青春を感じさせる。


 「やるじゃねえか!」


 「そっちこそな!」


 互いに握手を交わし合う俺と相手は、まるでスポ根マンガの感動的な和解のシーンに見えなくもない。そんな青春の一ページは女性の悲鳴で遮られた。


 「かっ会長ぉぉ!」


 見ると、体育館の入り口に和紙を丸めて広げたような顔をしたおばさんが立っていた。なんだこの人?


 「あのどうかされましたか?」


 俺が尋ねると、おばさんは手をわなわなと震わせながら俺を見る。その首には来客用の名札が吊り下げられている。名前は井上マユミ。


 「どうかされたから悲鳴をあげたのよ。あなたたち高校バスケットボール界の会長になんてことを……」


 突きつけられた事実に、試合をしていたメンバーは一人残らず凍りつく。すると味方の一人がすっと手を挙げる。


 まさか、自首するつもりか! やめるんだ、これだけ人数がいれば誰が主犯かばれることはないのだから!


 天井に向けられていた手は人差し指以外握りしめられ、なぜか俺に向けられた。


 「この人にやれって言われました」


 は? えええぇぇぇ! 唖然とする俺を残して、他の選手はみんなで頷いていた。








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