第四十八話 『後先考えずに行動することってあるよね』
無理矢理ユニフォームに着替えさせられた俺がコートに立つ。
どうしよう。いくら練習試合でキャプテンが味方である補欠を全員倒してしまったと言っても、素人の俺が出ていいものだろうか。なんだか真面目にやってる相手に申し訳ないな。
俺の気分と一緒で重たい足をなんとか引きずって歩いていると、相手校の選手が俺を凝視していることに気がついた。
俺なんかが出てきて怒ってるのかな……。相手のキャプテンがこれまで以上に真剣な表情で俺を見る。
「さてはお前が旭高校バスケ部の本当のキャプテンだな。いつもは観客など一人もいない旭高校に、今日は可愛い女の子が応援のために四人も来ているのがその証拠だろう」
あ、バスケ部って日頃応援に誰も来てくれてなかったんだ。俺は悲しい現実を知ってしまった。まあうちの高校は相手校のキャプテンみたいに爽やかなやつはいなくて、全員筋肉ダルマみたいなやつしかいないから仕方ないかもしれないな。
さてここからどうしよう。どうしようというのは相手校のキャプテンの誤解を解くのは面倒だし、今からやることになりそうなバスケの試合も面倒だから、どうやって乗り切ろうかということだ。
ひとまず試しに俺がキャプテンだという誤解を解きにかかってみよう。
「俺は別にキャプテンじゃない! 勝手に持ち上げられただけだ!」
「今更騙されないぞ! 今日の旭高校がいつもと違うことには気がついているんだ。いつもとの最大の違いは君がいることだよ、ルシファーくん!」
俺はルシファーじゃねえぇという言葉が喉元までせり上がってきたが、それをすんでのところで飲み込む。そうだ、誤解を解くんじゃなくて、いっそのこと誤解させたままにしちゃえ! バスケの試合の方はパスでボールをひたすら味方に回すぐらいならできないことはない。
そうと決めた俺の行動は早い。まずは相手の誤解を確信に変えてやろう。右手で口元を隠すと、左手を大げさに広げたポーズに構える。
「クックック、そうだよくわかったな! 俺はルシファー! バスケ部の本当のキャプテンだ!」
「くっ、やはりそうか」
「今更気づいても遅いぞ。俺が出てきたからには、ここから先は一方的な蹂躙だと思え」
はっはっは……ははは……は……は……はあ?
あれ、なんか勢いでいろいろ言っちゃったけど、俺がやりたいことってなんだっけ。落ち着け俺。俺がやるべきなのは相手高校に俺が旭高校のキャプテンだと誤解させたままでいることだ。そうだな、うん。
……ところで、この作戦何のメリットがあるんだ? 今更ながら自分の大きなミスに気づいてしまった。
「竜、中学生に戻ったようなセリフ言うなんてどうしたの」
梓の声が体育館に響き渡る。ぎゃあぁぁぁ! あいつ俺に黒歴史があることをばらしやがったよ! ああ、もう誤解とかどうでもいいや。どうやって今のリードを保ったまま勝つかだけを考えよう。
予想外の暴露を受け、やや放心状態の俺に味方のメンバーの一人が近づいてくる。
「キャプテン提案があるのですが?」
「ああ、やっぱり俺キャプテンのままなんだ……それで提案ってなんだ?」
「やはりバスケ界の頂点を目指すという意味であだ名はルシファーじゃなくて『魔王』と呼ぶのはいかがでしょうか?」
「なんでお前まで俺をバスケ部扱いしてるんだよ! それに提案ってそっちかよ! ニックネームって普通愛称だからな。休日に街を歩いてて後ろから『あ、魔王だ。おーい魔王、魔王』って呼ばれて振り向くやついるか? 多分魔王って呼んだ本人でさえ恥ずかしくなるぐらいの通行人が振り向くぞ。頼むから呼ばれて嬉しくなくてもいいから、普通に振り向けるやつにしてくれ」
「じゃあ小島竜から連想して……あっスモールドラゴンはどうですか?」
スモールドラゴン? それただのトカゲじゃないの?
「なんで小島竜の『小』と『竜』をとってくるんだよ」
「そうですか、ではドラゴンアイランドはいかがでしょうか?」
「いつ俺がとってくる漢字が不満だって言ったんだ! 次は『島』と『竜』をくっつけただけじゃないか!」
俺が言い返すと、俺のニックネームを(勝手に)考えていたやつが顔をしかめる。
「うへえぇぇ、キャプテンって結構面倒くさいですね」
面倒なのはお前じゃあぁぁぁ! ニックネームも一周回ってキャプテンに戻ってるじゃないか! 今までのやり取りはなんだったんだ!
俺たちのくだらないやり取りで時間が過ぎていく。そんな様子に堪忍袋の緒が切れたのか、審判のスケベジジイは叫んだ。
「小僧ども、とっとと試合を始めるんじゃ! わしはこの後外で待たせてるマユミちゃんとデートなんじゃ!」
まじかよ、ジジイ。さっきからちらちら外見てると思ったらデートだ!?
選手全員が見つめる先に、ブザーを構えた変態魔王がいた。




