第四十七話 『選手交代』
「貴様ら無事に帰れると思うなよ、フシュー」
「ここが貴様らの墓場だ」
試合時間が残り二分となり、旭高校の威嚇とチンピラ具合は完全にアウトなところまで来ていた。
おいおい、マジで審判この試合止めた方がいいんじゃないのか? 最初は喜んでいた俺も旭高校バスケ部が次に何をやらかすかハラハラしていた。
「おい、審判! 一回レフェリーストップかなんか挟んだ方がいいんじゃないのか?」
「そうだ、頼む! 審判、試合を止めてくれ!」
俺の提案に相手高校の選手が懇願するように叫ぶが、審判は微動だにしない。
あのジジイ、まだ外の女子高生見てやがるな。俺と相手選手がこれだけ叫んでも聞こえないってことは耳が遠いのか?
俺は立ち上がって声を大にして叫ぶ。
「スケベジジイ、いい加減試合を止めろ!」
「誰がスケベジジイじゃ!」
おいおい悪口だけは聞こえるのかよ。だけど肝心な試合を止めてくれっていう部分が聞かれてないぞ! エロジジイめ、急に番犬ガオガオみたいに反応しやがって。
どうやったら試合が止められるか考えていた俺の耳に、何かがぶつかる鈍い音が聞こえてきた。音源を探るようにそちらを見る。そこには自分のチームのベンチをなぎ倒して倒れ込む、とんがり頭の旭高校キャプテンの姿があった。
「大丈夫か!」
俺が席を立ち駆け寄ると、さすがにブザーが鳴らされ試合は一時中断される。背に手を当てゆっくりと抱え起こすと、キャプテンはなんとか目を開けた。
「小島か……あとは頼んだぞ」
まるで遺言を残すかのようにただ一言発すると、キャプテンはゆっくりと目を閉じる。
「おいおいおい、何があとは頼んだぞだ! 不吉なメッセージ残して自分は寝るんじゃねえよ!」
俺はキャプテンの体を大きく揺すると、キャプテンは俺しか気づかないくらい薄く目を開ける……が再び閉じた。
ん? 今確かに目を開けたよな……は! こいつ、この辛い現実から逃げようとしてるな! そうはさせるか!
鈍器を使ってでもいいからキャプテンを起こしてやろうと考えていた俺の周りが急に薄暗くなる。首を巡らすと、試合で暴れていた旭高校バスケ部の生き残りが俺を囲んでいた。
「えっとね……俺は君たちのキャプテンを起こしてあげようとしているだけで……」
だがそんな俺の考えはどうでもいいというように、俺を囲む一人がゆるゆると首を振る。
「キャプテンは意識を失うという人間の限界まで戦い抜きました」
「こいつはただ眠ったふりをしてるだけで、本当は……」
「だから今度は小島さんの番です。さあユニフォームを着てください! ……いえ、ルシファー様!」
お願いだから、俺の話を聞いて! ……今俺にユニフォームを着ろといったか、こいつ。何考えてんだ、補欠ならベンチに……
そう思って旭高校のベンチを見る。が——
そうだ、さっきうちのキャプテンが全員なぎ倒して気絶させてるじゃないか! だけど俺はバスケなんて学校の授業でしかやったことないんだ。絶対出ないぞ!
「旭高校は選手交代じゃ! 交代選手は小島竜!」
スケベジジイが高らかに俺の意思を無視して、交代を告げてくる。その瞳はイタズラが成功した子供のような輝きに満ちていた。




