第四十六話 『大喜びの黒魔術部』
ブザーの合図とともにジャンプボールが開始される。俺が応援している旭高校と相手高校との試合がいよいよスタートした。
ボールが投げあげられるのと同時に飛び上がる両選手。ボールは少し身長が高い相手高校に取られるかのように見えた。が——
「ガルルルルッ」
相手校の選手の目の前には虎がいた。歯をむき出し、目尻を吊り上げて旭高校の選手は威嚇する。そのファウルになりかねない威嚇により、相手選手が怯んだ隙に旭高校がボールを奪う。そしてそのままゴールへ。試合開始十秒が経たないうちに、あっという間に点数が追加された。その後の試合も旭高校のペースで進んで行く。
今日の旭高校は気合十分……というよりは獣になっていた。口から吐く息は荒く、相手選手を見る目は親の仇を見るかのよう。
「な、なんなんだよ。今日の旭高校は。練習試合なのにこのやる気は! お前ら練習試合でそんなやる気出したことなかっただろ」
試合の様子を見ていた俺は内心小躍りしそうだった。梓の予想は外れ、俺と黒魔術部の思惑通りにことが進んでいるからだ。黒魔術部の三人など、肩を寄せ合って嬉し泣きをしていた。
「やりましたね、ルシファー様! 我々の努力の成果が実ったのです!」
まあ試合が順調なのはロリ魔術師たちのおかげだからな。今日くらいはルシファーと呼ばれてやるか。それにしても相手選手に教えてあげたいことがある。今日の旭高校バスケ部のすごさの源はやる気ではなく、狂気だということを!
だが何事もやりすぎはよくない。それを今日俺たちは学んだ。異変が起きたのは最後の第四クオーターが始まった直後だった。
ボールを持った相手校のキャプテンは練習試合ということに加え、大差をつけられているにもかかわらず、諦めることなく味方を鼓舞し続けていた。ああ、スポーツマンの鑑だな……
「まずは一本! 確実に取りに行くぞ!」
ドリブルをしながら油断なく辺りを見渡すキャプテン。すぐに旭高校のディフェンスの穴を見つけ、そこに切り込もうとする。その瞬間空気を切り裂くような叫び声が体育館に響き渡った。
「俺のアリサに触るんじゃねえ! とっとと、その汗ばんだ手を離しやがれ!」
まるで浮気現場で聞こえてきそうな言葉。それゆえに相手高校のキャプテンも反応が遅れてしまった。
「なんだ? 近くで人の彼女に手を出そうとしてる男でもいるのか? バカなやつだな……ってええ!」
迫り来るのは目に光を灯さない状態で走ってくる旭高校の選手。状況に脳の理解が追いつかないキャプテンは、試合中だということも忘れて説得に入る。
「おい君、気は確かか! これはボールであって人じゃない……」
「うるせえぇぇ! ボールは俺の彼女だあぁぁ!」
絶叫とともに旭高校の選手はボールを思い切りはたく。
あいつボールのこと彼女とか言っておいて、思い切り叩きやがった! お前それDVだよ!
俺は急にきな臭くなってきた試合の様子に不安を覚えながら、ロリ魔術師を見た。
「ロリ魔術師、なんかこれまずくないか?」
だが不安に満たされつつある俺とは対照的に、ロリ魔術師はケロッとした顔で答える。
「何を言ってるのですかルシファー様! このぐらいただの副作用ですよ」
この会話に梓も入ってくる。
「いやいや、さすがにそろそろまずいよ。病院だったら副作用が強すぎて、薬の投与をやめてる頃だよ」
「確かにな。だけど……」
旭高校の選手はすでに猛獣と化している。確かにまずい。バスケのルールをあまり知らない俺が見てもヤバイ試合だとわかるのだ。だからこそ、だからこそ……なんで審判止めないんだよ!
口を半開きにしたままボールの行方を追うのは、おじいちゃん審判。ブザーを持つ手が震えている。その視線がボールから外れ、どこかを見つめていた。
やっぱりおじいちゃんにバスケの審判は厳しいだろ……あのおじいちゃん、さっきからどこ見てるんだ?
俺は注意深くその視線を追っていく。視線の先にあったのは外の景色。透き通るような青空のもと、花壇に植えられた花々が風に揺られている。その奥で遊ぶ数人の女子高生。審判の顔は彼女らを見て、だらしなく緩んでいた。
ただのエロジジイじゃねえか! そっち見てないで、ちゃんとボールと選手を見ろ! さっきから相手高校の選手が助けを求めるように何度も見てるぞ! 気づけえぇぇぇ!
試合時間は残り二分。いよいよ試合は決着を迎えようとしていた。




