第四十三話 『出会いは脱臼治療とともに』
俺が脱臼治療のために連れてこられたのは、二年三組だった。今年の二年生が何らかの分野で秀でたものから二年一組になっていることからすると、三組は極めて平均的なクラス。秀才はいないが、やばいやつもいないはずだ。
教室の入り口に立った梓は中に向かって呼びかけた。
「ごめん、脱臼した人連れてきたんだけど頼める?」
あ、もう名前も呼ばないんだ。クラスの人たちも慣れているようで、中では伝言ゲームのように誰かを呼ぶ声がしてきた。
「お待たせしました」
そう言って出てきたのは茶髪のロングヘアの女の子。
「ああ、お前! さっきの」
そいつは俺を廊下で突き飛ばしたやつだった。脱臼治療してくれる人ってこの人のことかよ! 女の子の方も俺を見ると、口に手をあて驚きを表す。
「あ! さっき私にぶつかろうとした人!」
「竜、そんなチンピラみたいなことしようとしたの?」
「違うわ! 俺は落ちそうだったシャープペンシルを拾おうとしただけだよ。まあ、あんな床に突き刺さるようなシャーペン拾わなくて良かったけど……危うく手に穴が空くところだったからな」
教室の入り口でギャーギャーわめいている俺たちを登校してきた生徒が、不審そうな目で見てくる。
は! まずい。このままだと変人のレッテルを貼られて、大学への推薦が雲の彼方へと飛び去ってしまう。俺はひとまず用件を済ますことにした。
「それより脱臼を治してくれるって本当か?」
「はい、そうですよ」
「へえ。それは自分がよく脱臼するから、自分で治してるうちに人のも治せるようになった感じなのか?」
「んん、ちょっと違いますね。私の場合はよく人を突き飛ばして脱臼させちゃうので、この技を身につけたんです。ほら治療費とか請求されたら嫌ですし……」
まさかの脱臼被害者が俺だけじゃないことが判明。脱臼させられた人たちを集めたら、被害者の会かなんか作れるんじゃないのか!?
「まあ、いいや。ともかく頼むよ」
「分かりました」
そう言うと、女の子は左手を俺の肩にあて、脱臼した俺の腕を右手で掴むと一気に押し上げた。
「せいっ」
「あがっ」
ガコンという嫌な音を立て、俺の腕ははまった。ゆっくりと動かして動作テストを行うが、結果は完璧だった。
「おお、さすが脱臼治療のプロは違うな。元通りだよ」
「また脱臼したら、いつでも来てくださいね」
「いや、できれば遠慮したいな……」
やんわりとお断りを入れていると、そこへ三組の担任である男の先生がやってきた。
「おーい、お前ら。そろそろ予鈴が鳴るから教室入れ。特に小島と高梨は生徒会の役員なんだからな、その辺意識しろよ」
それだけ言うと、先生は教室に入っていく。え? 今俺以外に生徒会がいるみたいなこと言ってたような……
「そう言えば小島くんと梓ちゃんは有名人だから私も知ってたけど、きっと二人は私のこと知らないよね。それじゃ一応自己紹介ということで。二年三組、高梨由美です。生徒会では書記をやってて、主に脱臼治療をやってます。よろしくね」
いやもう脱臼治療とか書記全然関係ないじゃん! こうして俺の知り合いに変人が一名追加された。




