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第三十九話 『クリーナー販売を阻止せよ!』

 「それで俺は今から始まる社員との話し合いに参加して何をすればいいんだ?」


 夏樹のパンダのシャンくんをクリーナーとして売り出したいという会社に向かう道を俺と夏樹は歩いている。


 「どうにかしてクリーナーとしてではなく、きちんとぬいぐるみとして売り出されるようにして欲しいんだ」


 日頃落ち着いている夏樹が、今は前のめりになって力説してくる。ああ、なんだ。クリーナーは嫌だけど、ぬいぐるみとしてならいいわけね。確かにこの前夏樹はぬいぐるみとは愛でるものであって、道具ではないっていう名言を残してたからな……。


 ぽかぽかの陽気の中を歩いていると、間も無く会社に着く。


 「ここだよ」


 夏樹はスマホの地図を閉じて俺に教えてくれたのだが、俺はというと呆然としていた。俺たちの目の前にはどれだけ見上げようとも全てを見ることができない高層ビルが建っていた。全面がガラス張りのため、太陽の光を浴びてキラキラと輝いている。


 世界を市場に活躍しているおもちゃメーカー「トイざます」の本社だった。


 「夏樹のシャンくんを商品化したいって言ってたのは、トイざますなのか?」


 「そうだよ」


 夏樹はあっけらかんと答えるが、こいつは自分のぬいぐるみがすごいことになりかけていることに気づいているのだろうか?


 「じゃあ、入ろうか」


 夏樹の掛け声で、俺は突然大企業に訪問することになって緊張している体を動かしていく。ひとまずラフな私服じゃなくて、制服で来て良かったぁ。


 受付けを済ませた俺たちは、冷房の効いた応接室に通される。一分と待たされることなく、担当らしい大人の男の人がやってきた。


 「本当はこちらから出向くべきなのに、わざわざご足労いただき、ありがとうざます」


 ざ、ざます? なんだろう、語尾に「ざます」を付けるのは会社へのリスペクトなのか、それともこの人はやや女性成分が多めの男性なのだろうか。目上の大人なので、友達にするように気軽につっこむこともできない。


 「いえいえ、せっかくの機会ですから会社の方にも来てみたかったんです」


 夏樹は爽やかスマイルを顔に貼り付けて、愛想よく対応している。きっと内心はシャンくんがぬいぐるみじゃなくて、クリーナーとして販売されそうになっていることに(はらわた)が煮えくり返っているんだろうな。


 だがそんな裏の事情を知らない担当さんは、夏樹を持ち上げにかかる。


 「いやー本当に夏樹さんのアイデアは素晴らしいざます! 我々開発部の面々も久しぶりに熱が入りましたよ。それで今日なんですが、販売前の最終確認と言いますか、そういうものを一緒にお願いできればと思いまして。試作品の方をとって参りますので、少々お待ち下さい」


 俺たちに軽く頭を下げると、応接室を出て行った。それを確認すると、俺たちはすぐさま向き合った。


 「おおい! 夏樹がクリーナーとして販売されるのを阻止してほしいって言うから、てっきりまだ企画段階ぐらいなのかと思ったら、なんかガッツリ試作品まで出来上がってるじゃん!」


 夏樹の方はガタガタと震え始めていた。


 「ぼ、僕だってまさかこんな早くに販売までこぎつけるとは思っていなかったんだよ」


 「何はともあれ、ひとまず試作品とやらを見てみるか」


 俺の提案に夏樹は首肯する。どうやら俺たちの作戦は敵の三歩後ろくらいのものだったらしい。


 さて、どうしよう……

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