第三十六話 『黒魔術部』
「メインの活動はタロットカード等を使った占い。その他黒魔術の歴史を学ぶことを通して、西洋の宗教についての考え方等を学んでいく。ふぅん、結構真面目な感じの活動内容じゃないか」
俺は歩きながら黒魔術部の申請書類にある活動内容の欄を読んで、そう呟いた。部員は三人。全員女の子らしい。梓はなぜだか黒魔術部の場所を知ってるらしく、俺に先立って道案内をしてくれていた。俺は書類を見たまま、梓についていく。
「黒魔術って、魔女狩りとかのあれ?」
梓が振り向きざまに尋ねてくる。お! よく知ってるな。
「そうだよ。だけど魔女狩り時代の考え方を、わざわざ女子高生が集まって部活動として行うとは思えない。きっとこの書類に書いてある通りだろ。……あ、そういえば会長に視察理由を聞くのを忘れてた」
俺が自分のミスに気付いたのと梓が黒魔術部に着いたのは同時だった。
「着いたよ!」
梓の明るい声で、俺は書類に落としていた視線を上げる。旭高校には旧体育館と新体育館という二つの体育館がある。俺の前にあるのは旧体育館の入り口だった。
「あれ? ここが黒魔術部の活動場所? ここってバスケ部が使ってなかったっけ?」
そもそもタロットカードや黒魔術の歴史を学ぶのに、こんな広い場所がいるのか? 俺の胸の中に暗雲が広がる。俺の疑問には、梓が苦笑いしながら答えてくれた。
「そうだったんだけど、バスケ部が善意で譲ってくれたらしいよ」
らしいということは、きっと噂だろう。その噂に「善意」という言葉が付いている時点で、もう嫌な予感しかしない。だけど、ここまでわざわざ来たのだ。何も見ずに帰るというのは、何だか怖気づいたみたいで嫌だった。扉に手をかけ、俺は一気に引き開ける。
「すいません、生徒会の者で視察に来たんですけど……」
明るい夕日に照らされている外に対して、中は薄暗かった。唯一と言っていい光は青白い炎。暗闇に慣れていない俺たちの目は、タロットカードをしているはずの女子生徒を発見することができない。
「いったいどこに……」
扉を開けたのはいいものの、足がすくんでそれ以上中に入ることができない俺たちは首だけを入れて中を見渡す。
やべえ、めちゃくちゃ帰りたい! なんならもう黒魔術部は廃部ってことでいいんじゃないの? あ、でも廃部にして呪われたりしたら嫌だな……
そんなふうに悩む俺と梓の視界に何か白い仮面がぼーっと暗闇に浮かんできた。白地に逆三角形の黒目。口は弧を描き、頬には赤い雫が垂れている。仮面は一つ出てきたと思ったら、あっという間に三つに増える。
「「ひえぇぇぇぇ!!!」」
俺と梓の情けない悲鳴が重なった。梓が俺の腕をがっちりとホールドしている。
待って、痛い、痛い! 梓、怖くて力の加減ができていないせいか、俺の腕の肉をつまんでるよ! だけど怖いのは梓だけじゃない。俺も無意識のうちに、梓の腕を掴んでいた。
そんな俺たちに構うことなく、中の様子は変わっていく。暗闇で何か動いたかと思うと、淡いオレンジ色の照明が灯る。白い仮面をつけ、黒いローブをつけた三人が体育館に立っていた。彼ら三人の足元には星を逆さにした逆五芒星が白いペンキのようなもので描かれている。
それを見た瞬間、黒魔術部の部員が何をしたかを察した俺は恐怖も忘れて彼らに詰め寄る。
「学校のものに勝手に落書きしてんじゃねえぇぇ!」
「え! 怒るポイントってそこなの?」
梓が何か言っていたようだが、俺の耳には入らない。だが俺の怒りの声も黒魔術部の面々には届いていないようだった。仮面をつけたやつの一人がさっと両腕を上げると、残りの二人もそれにならう。そして唱え始めた。
「ルシファー、リヴァイアサン、サタン、ベルフェゴール……うんたらかんたら、我らが捧げる供物を糧に我々の前に顕現せよ!」
おい! 悪魔の名前、後半ごまかしやがった! そんなんじゃ悪魔も自分が呼ばれたか分からないから、きっと来ないぞ! それに供物って言ったな。何を捧げてるんだ?
俺が脱力した視線を逆五芒星の中心に向けると、そこにあったのは一つのハチミツ。
いや、来るわけないじゃん! こいつら悪魔とカブトムシを間違えてるんじゃないのか? 俺が悪魔だったら、こんなしょぼい供物で呼び出されそうになったら、そいつら多分呪っちゃうよ!
やがて儀式は終わりに近づく。黒魔術部の三人が両手を降ろすと、一人が疲れ切った様子で荒い息を吐きながら話し始めた。たったワンフレーズで息が切れるとか、肺活量弱すぎるだろ。
「我らの願いは聞き届けられた! 大悪魔ルシファー様が現世に降臨した!」
高校生にしては幼い声で喚いてたかと思うと、小さな手で指を差す。その指先にいたのは……なぜか俺。
なめるな! 俺はそんな安い供物で呼び出されねえよ!
「「「ああ、ルシファー様」」」
「やめろおぉぉぉぉ!!!」
土下座する黒魔術部に対して、俺の叫び声が体育館に響き渡った。




