第三十四話 『俺が落ちた(落とされた)理由』
『この世界は今人手不足なんだ……』
人手不足? プレイヤー不足の間違いなんじゃないのか? 訝しげな視線を俺は女神に送る。
『プレイヤーがどんどんと減ってね。それに伴って、運営の人数もどんどん削減されていったんだ。そのせいで先ほど説明した飛行機も運転できる者が一人しかいないんだ。だからそちらの女性プレイヤーを送り出した後に君が来て、すごく焦ったんだ。繰り返すようだが、なにせ飛行機の免許を持っているのは一人なのだから』
そこで女神は一旦言葉を切る。
まあプレイヤーも運営側の人数も少ないのも理解した。だけどそれと俺がここにいるのとどうつながるんだ? っは! まさか……
『だから私が君を飛行機に乗せて、送り届けようと思ったんだ。ラジコンの飛行機はやったことあったから、その感覚でいけるかなって思って……』
「…………」
アホか! 車の無免許運転は聞いたことあるけど、飛行機の無免許運転? きっとこの女神は試しにやってみようっていう感じの軽いノリでやったのだろう。俺は実験用のネズミやモルモットじゃないんだぞ!
というかあと少しで隕石攻撃による自爆じゃなくて、飛行機による自爆テロになってたのか……危ねえ。そうなってたらゲームが始まる前にゲームオーバーになってたんじゃないか? きっとこの青い草原も踏みしめることができなかっただろう。俺は生きている幸せを実感し、ピョンピョンと草原を跳ねる。やがて足が疲れてきたため、俺は立ち止まり、女神の方へ振り向く。
「プレイヤーが増えれば、運営側の人間も増えるのか?」
『おそらく……』
「そうか。なら俺の周りのやつに少し声をかけてみるよ」
『それは本当か?』
「ああ……たぶん」
『ありがとう! お礼にいいものを君に贈ろう!』
いいもの? それはありがたい。
女神の手のひらで光の玉が現れたかと思うと、あっという間に大きくなる。そしてそれを……俺に笑顔で投げつけてきた。光の玉はみるみる形を変えると、一匹の巨大なワシのようなモンスターとなる。
『レベル百のモンスターだ。特別なやつで経験値が通常の十倍もらえるというレアなものだ。倒せたら、お礼に受け取ってくれたまえ』
おおい! セーブできない世界のくせに、経験値なんて意味ないだろ! それにお礼のプレゼントのはずなのに、なんで「倒せたら」っていう条件付きなんだ!
必死で逃走を始めながら、俺は首だけ回してワシ型モンスターの方に向ける。オレンジの光が集まり出し、キャラクター名が浮かび上がる。キャラクター名は……
「運営の怒り」
ただの八つ当たりじゃないか! やっぱりこのゲーム嫌だあぁぁ!
「あ、梓助けてえぇぇ!」
梓は俺の叫びに応えるように、魔法の杖から巨大な火の玉を出すと、ボーリングの玉を投げる要領で投げる。鞭のような動きと速さで動く梓の腕。杖から放たれた火の玉は先ほどの「ピョン吉」同様、すぐに「運営の怒り」を焼き尽くす。だがモンスターと同じように、視界が暗転したのは俺も同じだった。
暗転するのと同じタイミングで、急激に俺を襲う鳩尾を中心とした痛み。それを感じたのを境に俺の視界は真っ暗になる。やげて鈍い音がしたかと思うと、俺の視界に光が差した。どうやらヘッドギアが外れたらしい。
だけど腹部の痛みはまだ続いている。ゲームから脱出できたのに、何で……
痛みに耐えながらも視線を動かすと、腹部にその答えはあった。俺の鳩尾に突き刺さる、梓の拳。どうやら梓はゲームの中だけではなく、現実でも攻撃をしていたらしい。俺たちの周りは散らかっていた。辺りを見回していた俺の視線が一点で止まる。
それを見た瞬間俺は梓のヘッドギアを無理やり外した。
「ああ、もう。何するの、竜! 今ちょうど『運営の怒り』を倒してゲットした経験値を武器に注いでたのに……ってなんで指差して固まってるの?」
俺の指先を目で追う梓。その先を見て梓も壊れたパソコンのごとくフリーズした。俺たちの視線の先には梓のお父さんが大事にしている鎧を着た武士の人形が立っていた。
足元に真ん中から折れた刀を添えて
「いやあぁぁぁ!」
梓の絶叫が響き渡る。この後部屋の片付けと、いかにして先ほどの事実を隠すかを考えるための会議が夜遅くまで続いた。




