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第三十二話 『チュートリアル』

 『新規プレイヤーへの武器はランダムに配布されています。たとえ同じような見た目の武器でも、全く同じ性能の武器はこの世界に存在しません』


 そんな女神のチュートリアルも吹きすさぶ風と後ろから迫り来るピョン吉による轟音によって、俺の耳には断片的にしか入ってこない。


 し……ん……だ……ような…め


 死んだような目?


 おのれ女神め、この()に及んでもまだ俺をばかにするつもりか!


 「女神め、あとで本当に覚えとけよ!」


 日頃鍛えていない俺の肺はすでにSOSを叫んでいる。そのためそれだけ言うのが精一杯だった。


 『チュートリアルというのはゆっくり進むものです。早く武器の説明をしないからといって悪態(あくたい)をつくとは。そんなふうに慌てていると、これからの冒険で危険な目にあいますよ』


 意思疎通ができない野球のバッテリーのように、的外れな言葉のキャッチボールをする俺と女神。


 今まさに危険な目にあってるんだよ! ああ、もうらちがあかない。ピョン吉の顔はかなり近くまで迫っていた。


 俺は腰に装備されていた剣を振り向きざまに抜き去り、ピョン吉を切りつける。剣先が相手の鼻先をかすめた。突然の攻撃に驚いたのか、ピョン吉は急ブレーキをかけて止まった。


 効いたか? チュートリアルに現れる敵キャラクターだ。見た目はいかついが、そんなに手強くはないのだろう。


 止まっていたピョン吉が頭を上に盛大に逸らし、そして……


 っブエックション!


 大きくくしゃみをした。え? 俺の今の攻撃ってその程度なの? 完全にティッシュで作ったこよりで、鼻の穴刺激された人間の反応じゃん……


 首を大きく(めぐ)らしたピョン吉は、次こそ獲物である俺を仕留めるべく、力強く地面を蹴り出した。


 敵意を剥きだしにして、迫ってくるピョン吉。俺はこの時一つの境地に達していた。


 ああ、きっと倒される前のボーリングのピンってこんな気分なんだろうな。


 俺は覚悟を決めて、目を閉じる。これで、これで……やっとこのクソゲーから抜け出せる!


 だが俺の願いは叶わなかった。突如後ろから燃え盛る炎の玉がものすごい勢いで、通過していった。それは俺のコートの端を焦がしていったかと思うと、ピョン吉をあっという間に包み込む。悲鳴をあげる間も無く、絶命したピョン吉はドスンという重たい音を立てて、地面に沈んだ。


 「ピョン吉ー!」


 俺は自分を救ってくれるはずだった存在の名前を叫ぶと、ピョン吉と同じように膝から崩れ落ちた。くそ、どこのどいつがピョン吉を……。救世主を失ってしまった俺は悲しみにくれる。両手を地面についてうなだれていた俺の視界に影が差した。


 「竜、危ないところだったね。助けに来たよ!」


 やっぱり梓、お前かあぁぁぁ! 俺は立ち上がり、梓の方を向くと剣を構え直した。


 さあ、ピョン吉の弔合戦(とむらいがっせん)の始まりだ!


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