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第三十一話『ゲームスタート!』

 黒い影はどんどん迫ってくる。さっきまで黒い点にしか見えなかったのに、今はぼんやりとだが輪郭も見えていた。


 きっと梓だろう。よかった、無事に合流できたみたいだ。


 「おーい、梓。こっちだ」


 両手をメガホンのように口に添えて俺が叫ぶと、影はさらにスピードを増す。全くそんなに急がなくても、俺はこの世界のことなんて分からないんだから、どこにも行かないんだけどな。それにしても……


 んん?  梓ってあんなに毛深かったっけ? 俺は目を細めて見る。目が悪いのは本当に困る。やがてそれは俺がはっきりと視認できる距離に到達した。


 イノシシとサイが合体したような見た目。鋭い目つきに、リンゴなら一瞬で串刺しにできそうな角と牙。そして口からはものすごく荒い息を吐き出している。


 うわぁ、梓は斬新なキャラクターを使って、プレイしてるんだな……ってそんなわけねえ!


 猛烈な勢いで突っ込んできたそいつを俺は横っ飛びでかわす。あまりのスピードに盛大に土埃が舞い上がった。


 「ちょ、ちょちょちょちょちょ……」


 突然の状況に俺の歯の根が噛み合わない。おかげで歯がガチガチと鳴るだけで、言葉ではなく音として口から漏れる。


 こいつ怒り狂った梓じゃなくて、やっぱり敵キャラクターだよな!?


 だけど、だけど……まだチュートリアルも終わってないのに攻撃してくるってどういうことだあぁぁぁ!


 説明を求めるようにして女神を見る。


 『くっくくくく、あは、あはははは!あーお腹痛い』


 腹を抱えて爆笑していた。お前覚えとけよ。現実に戻ったら、俺のお年玉と貯金をはたいてでもこのゲームを壊してやる!


 は!


 俺は殺気を感じて、先ほど突っ込んできた敵キャラクターを見る。反転したそいつは俺に狙いを定め、後ろ足を突っ込む前の闘牛のように蹴り上げて攻撃準備を整えていた。そいつの前にオレンジ色の光が集まったかと思うと、文字がポップアップ広告のようにして出てくる。どうやらこんな感じでキャラクター名が表示されるらしい。さてこいつはなんて名前なんだ……


 

 [ピョン吉]


 嘘つけえぇぇぇ! こいつのどこにピョン吉要素があるんだよ! やっぱりこのゲーム作ったWANTEDぉ、頭おかしいだろ!


 だがそんな悪態をついても、ピョン吉には少しのダメージも入らない。二度目の突進は少し反応が遅れてしまったために、飛んでかわす暇がなく、俺は全力で走り始めた。そんな危機迫る俺に女神の柔らかい声が届く。


 『それではチュートリアルを始めます』


 なんてタイミングで大事なチュートリアルを始めるんだ! 俺は走りながらキッと睨みつけるが、女神は端末片手にニヤニヤと笑っていた。



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