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第三十話 『ゲームの世界』

 ここはどこだ? 霞がかかったようにぼんやりとしていた視界が、徐々にはっきりしだす。腰には剣を差しているらしく、先ほどから金具に当たって、ガチャガチャとやかましい。


 風圧ではためくコートが空気を含んで上へ膨らんでいた。


 え……上?


 俺の意識は急に覚醒する。コートが上に膨らんでいるということは、風は下から吹いているということになる。俺はゆっくりと、ひっくり返るオセロのように体を反転させる。


  うわぁ、俺落下中じゃん。眼下には青い草原が広がっている。


 だが所詮ゲームだ。きっと何かしらの方法で着地して、そこからチュートリアルが始まるのだろう。だけど……ちょっと落下スピード早すぎない? これ本当に着地できるんだよね? 


 先にゲームに入っているはずの梓は見当たらないから、どうすればいいのか聞くこともできない。ぐんぐんと迫ってくる草原。そしてついにその時は訪れた。


 ズドオォォォォン


 派手な衝突音を辺りに撒き散らしながら、俺は着地、もとい落下した。あっという間に俺の HPバーは減っていき、残り三割程度までになる。


 いってえ。めちゃくちゃ痛いんだから、そりゃHP減るよな! 痛みに転げ回る俺の耳が女性AIのような声を拾う。


 『自身の隕石攻撃により自爆。残りの日雇いポイントは残り約三十です』


 誰が隕石攻撃だ! それにこのHPってヒットポイントの略じゃなくて、日雇いポイントの略なの? かっこ悪! 


 ってか日雇いポイントってなんだ? 俺は先ほど女性の声が聞こえた方を振り向く。そこには金髪碧眼の美女が豪華なドレスを身にまとって、俺を上空から見下ろしていた。まるで女神だ。


 『日雇いポイントとはその日のゲーム内での体力のことです。このゲームはセーブが出来ません。ゆえに日雇いです』


 は? 明らかに装備からして冒険する雰囲気を醸し出してるのに、セーブができない? クソゲーじゃねえか!


 俺の心の声が聞こえているのか、女神は顔をしかめる。


 『まったく。五年ぶりに昨日新規のプレイヤーが来て、今日はその子が新しいプレイヤーを連れてきてくれたと思って喜んでいましたが、私の世界をクソゲーとは言ってくれますね。昨日の子は何一つ文句を言わずにずっと遊んでいましたよ』


 「へえ、そりゃどうも」


 そりゃ、梓は何も考えてないから文句なんて出ないだろう。んん……あれ? 今この女神、「ずっと」遊んでたって言ったよな?


 「女神さん、すいませんが昨日来たプレイヤーって何時頃ログインしてました?」


 アクセス履歴を調べているのか、女神は端末を取り出し操作しだす。いやいや五年間誰もログインしてないんだから、すぐに調べられるでしょう。やがて終わったらしく、女神は俺の方に向き直る。


 「昨日の夜八時から、今日の午前四時までです」


 あんにゃろぉぉぉぉぉ! あのひどいクマは週末課題に挑んだ努力の証じゃなくて、このクソゲーに時間をつぎ込んだ副作用じゃねえか!


 俺が地団駄を踏んでいると、遠くから黒い影が迫ってきた。


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