第二十七話 『お願い』
「雪菜ちゃん」
俺は一旦箸を置き、背筋を正すと真剣な顔で雪菜ちゃんを見る。雪菜ちゃんも俺の真剣な様子に気が付いたのであろう。食事の手を休めて、俺の方を向いてくれた。
「竜なんでそんな急に真剣な顔を……っは! まさか雪菜に……」
くそ、気づかれたか! 野生動物は勘がいいというがさすがというべきか。俺は獲物を狙うハンターのごとく、梓の次の行動を待つ。
「まさか雪菜に交際を申し込むつもり? それはダメだよ!」
その言葉を境に雪菜ちゃんが箸を落とし、コロコロとテーブルを転がっていく。顔をやや赤くしながら、上目遣いで俺の方を見た。はい? 交際? 高校生が五歳児に? 俺はそんな救えないような性癖は持ってない!
「竜兄……リョリコンなの?」
「違うよ、雪菜ちゃん。あとロリコンね。確かに可愛いとは思うけど……」
俺は予想外の方向に話が進んだことで慌てるも、どうにか軌道修正しようと考える。勘弁してくれ、警察のお世話なんかになりたくない! ふと何か冷たいものを感じて、梓の方に目を向ける。そこには業火を背負う、般若がいた。
梓めっちゃ怒ってるじゃん!
「姉の前で妹を口説くとか、竜はどういう思考回路をしてるのかな?」
梓がにっこりと笑いながら、聞いてくる。ヒエェェェ! お願いだから笑う時は目に光を灯して笑って! そもそもお前が話ふってきたんじゃないか!
「ち、違うんだ梓。俺は雪菜ちゃんのことは……」
そこで雪菜ちゃんがテーブルに身を乗り出して、聞いてくる。さっきまでの素晴らしいテーブルマナーはどこにかに消え去っていた。
「竜兄、雪菜のこと好きじゃないの?」
「いや、好きなんだけどね……っておい。梓は一旦手に持ってる包丁を置いてくるんだ!」
勘違いで魚みたいに三枚におろされてたまるか! 何? 最近の幼稚園児って、この年でもう付き合うってことに興味があるのか? きっと昼ドラの見過ぎだよ!
「俺は梓のことで雪菜ちゃんに提案があるんだよ」
「なーんだ」
「つまらないの」
梓と雪菜ちゃんの熱が急に冷める。水をかけられた焚き火なみの鎮火の早さだった。
「それで何?」
クールモードに戻った雪菜ちゃんが俺に聞いてくる。
「雪菜ちゃんが起きたら、幼稚園に行く前に梓を……」
「無理」
まだ最後まで言ってないじゃん! くそ、先を読まれたか!
「あず姉は竜兄じゃないと起きないから無理」
「ふふん、残念でした。あとご飯終わったら、課題見て!」
なんで上から目線なんだ、こいつは。課題か。普通は金曜日と土曜日に頑張って、それでもダメなら聞いてくると思ってたんだが……こんな早いとはな。
だけど笑う梓の目の下には、まだ薄くはなったがはっきりとクマが残っている。
まあ、幼馴染だからな。俺は梓の課題を見てやることにした。




