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第二十話 『夏樹の部活(後編)』

 「竜……今度こそぬいぐるみの魅力に気づいてくれたんだね」

 

 夏樹が涙ぐみながら、俺を見てくる。そんなわけねーだろ。こっちは今にも発狂しそうなんだよ! 


 なんだよ、これ。本当なら今頃、参考書を持っていたはずの手はぬいぐるみを握っている。すると梓が持つ、うさぎが近づいてきた。


 「やあ、カメくん。あっちで鍋をやっているのだけど行かないかい?」


 「やだよ。お前、絶対俺を具材にするつもりだろ」


 そこへパンダのシャンくんを連れた夏樹もやってきた。昼ごはんの時に汚れたせいで、ただの薄汚れたクマみたいになっている。


 「こらこら喧嘩はやめて……」


 「どうせ煮るなら、このパンダだろ。汚れも落ちて一石二鳥だ」


 「なんだと!」


 そのままギャーギャーと喚き続ける。ぬいぐるみを持っているだけで、いつもの俺たちと変わりはなかった。


 意外にこの部活楽しいかもしれない! 


 そんな俺の思考を現実に引き戻す人物がいた。ついついぬいぐるみに夢中になっていたが、俺は視線を感じて振り向く。そこには俺と梓、そしてぬいぐるみ同好会の様子を扉越しに見つめる、女子生徒の姿があった。


 わめいている俺たちのところへ、長く伸ばした黒髪をポニーテールにまとめた女子が近づいてきた。生徒会長の水谷楓(みずたにかえで)だ。


 「『ぬいぐるみ同好会』の部長はいるか?」


 「あ、僕です」


 夏樹が右手にはめていたパペットを取り外し、左手に握っていたぬいぐるみを机に置くと、会長に駆け寄って行く。会長は慣れているのか、この教室を変な目で見ることなく、夏樹とも普通に話していた。


 すごいな。適応力が高いというか、心がものすごく広い人なんだろう。この人の心の広さは力士が優勝した時に使う大杯ぐらいの大きさだ。俺のはおちょこぐらいかもしれない。さすが生徒会長を務めるだけある。


 「いきなり来てしまってすまない。部活の予算に関する書類で、部長のサインが必要なところがあったのに忘れていたんだ。書いてもらえるかい?」


「もちろんです。言ってもらえれば、こちらから出向きましたのに」


 夏樹が会長からプリントを受け取ると、すらすらと記入していく。夏樹が記入している間、ぬいぐるみ同好会の女子生徒の視線は会長に釘付けだった。学校で一、二を争う美貌に加え、女性にしては少し高めの身長も合わさって、さながらモデルのようだ。同性に憧れられる女性という言葉がぴったりくる。


 やがて夏樹が記入を終えたプリント渡すと、会長は確認していく。確認を終えた会長が俺の方を見た。何だ? 俺何も悪いことしてないと思うんだけどな。


 「小島竜、君に提案がある」


 「提案?」


 何だろう? よくわからないけど、面倒くさいにおいがする。俺の中でアラームが鳴り響いていた。



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