第十九話 『夏樹の部活(前編)』
放課後。今日の授業は五時間目までだったので、六限目まである日よりも早く帰ることができた。図書館で勉強して過ごすか、もしくは真っ直ぐ自宅に帰って勉強しようか、俺は思い悩む。
だがどちらにしても、今日の残りの時間は有意義に使えそうだ。自分の持ち物をカバンにしまい終えたタイミングで夏樹がやってきた。
「じゃあ僕は部活に行ってくるよ」
夏樹が俺と梓に手を振りながら、教室を出て行こうとする。その肩を俺はガシッとつかんだ。
「夏樹、いつの前に部活なんて始めてたんだ? 水くさいな、教えてくれてもいいのに」
「そうだよ! どうして一人で面白そうなこと始めてんの。私たちにも見せて!」
なんだよ、こいつ。趣味でモフモフしたもの作ってるだけの変なやつかと思ってたけど、ちゃんと部活もやってたのか。確か一年生の前半は何もやってなかったはずだから、始めたとしたら去年の九月以降だろう。
俺と梓はニヤニヤしながら夏樹を見つめる。これは付いて行って、少し楽しみを分けてもらおう! どれだけ嫌がられようと、ついて行ってやる!
「ああ、そういえば言ってなかったね。よかったら見に来ない?」
意外にもあっさりと承諾された俺と梓は首をかしげながらも、夏樹の後を追っていった。
結論から言おう。来なけりゃよかった。
来たのは放課後に空いていた教室。夏樹が入っていた部活は「ぬいぐるみ同好会」というものだった。俺の目に狂いがなければ、目の前では数人の高校生がぬいぐるみを持って遊んでいる。
何ここ? シルバニアファミリー? 夏樹以外が女子生徒であることが、まだ救いだった。
「小島君と熊谷さんだっけ? よければどうぞ」
部員であるらしい女の子が俺たちに向かって、うさぎとカメのぬいぐるみを渡そうとしてくる。いやいや、どうぞじゃないよ! 遊んでたまるか!
だが梓は違った。
「わーありがとう! このうさぎかわいいね」
「ありがとう。そのうさぎとカメ私が作ったの。まだまだ夏樹君には敵わないんだけどね」
入室一分で馴染み出す梓に俺は呆然とすることしかできない。馴染むの早すぎるだろ。いつの間にかぬいぐるみを手にしていないのは、俺一人になっていた。
異常な空間なはずなのに、俺マイノリティー!
叫び出したい気持ちをぐっとこらえる。
何? 俺がおかしいのか?
これは邪な思いで友人の部活を見に来た報いなのだろうか。だが来てしまったものは仕方がない。 俺は部屋を見渡す。郷に入ったら郷に従えという言葉があるじゃないか。
そう思い直すと俺は震える手でカメのぬいぐるみを受け取った。




