第十八話 『裁判(後編)』
「根拠は一つ」
梓が神妙な面持ちで、右手の人差し指を立てる。被告人とは思えない、厳かな雰囲気で話し出す。
「私は音の出るスナックではなく、静かに食べられるドーナッツを選んだ」
重々しい口調で話すから何を言い出すかと思えば、そんなことかよ! 今の言葉でメロンパン以外を食べたことを認めた発言をした梓だったが、本人はそれに気づいた様子もない。
「周りに迷惑はかけていないのだから、死刑は重すぎると?」
俺の確認に梓はコクリと頷く。いつもは感情的にしゃべるから論理はめちゃくちゃだったが、今だけは筋が通っていた。その言葉に夏樹が頷く。
「実際僕たちは今の今まで、昼休憩が始まる前までに、梓ちゃんがドーナッツを食べていたことには気がつかなかった。なら罪は嘘をついたことだけじゃないかな? それにこれで死刑なら、この前の七並べで梓ちゃんに嘘をついた竜と白百合先生も死刑になってしまう」
この前の七並べのことを出されたのは痛い。
梓にいたっては「え……白百合先生?」と遠い目をしている。ああ、知らなければ幸せだったのにな。
「おい、あいつらさっきから『死刑』だとか『情状酌量』だとか、なんか社会的なテーマで話し合ってるぞ」
「ああ、馬鹿ばっかりが集まってるクラスだと思ってたけど、やっぱりジョーカーがいるところは違うな」
本当の会話の中身を知らないクラスメイトの会話が聞こえてくる。恥ずかしいからやめて! あとジョーカーって呼ぶのも!
「うう、まさか白百合先生まで私を騙していたなんて……」
「まあ、綺麗な花にはトゲがあるっていうからね」
「あの人の場合、トゲというよりは毒だけどな」
「「「「あはははははっ」」」」
あれ? 笑い声が一人増えてる気がする。俺はそっと後ろを振り返った。
「なんで先生がここに?」
俺がうめき声をあげると、白百合先生は笑顔で答えてくれる。
「五限目は私が担当する数学だからな」
そうだった。いつもならとっくに食べ終わっている時間だから、すっかり警戒がおろそかになっていた。先生は俺たち三人を順番に見ていく。ヘビに睨まれたカエルということわざを体験していた時間だった。
「よし、今度私の仕事を手伝ってもらうことにしよう。拒否権がないのはわかるよな?」
先生の笑顔に俺たちはコクコクと頷く。俺たち三人への判決は鶴の一声で決まった。




