第十七話 『裁判(前編)』
梓はメロンパンを口に頬張り、頬をパンパンに膨らませている。冬眠前に食べ物をかき集めているリスみたいだ。
「梓ちゃん、お昼ご飯メロンパン二個だけで足りるの?」
「うん。結構お腹いっぱいになるんだよ!」
まあ、確かにな。お米と違って腹もちはよくないけど、十分その時のお腹を満たすことはできる。だが、それは普通の女の子についての話だ。
年がら年中落ち着きのないクマみたいに動き回り、スイッチが切れないラジオのように喋る梓は本当にメロンパン二個で足りるのだろうか? そこで俺は尋ねてみる。
「梓、このメンツなんだから別に猫かぶる必要はないんだぞ」
「失礼な! 本当にこれで足りてるんだってば」
梓はガタッと机を揺らしながら反論する。揺れた机から何かが出てきた。口の開いた袋だ。袋の表には「一口ドーナッツ詰め合わせ」と書かれていた。
俺はそれを拾い上げ、そっと机の上に乗せてやった。梓と夏樹の目が袋に吸い寄せられる。梓にいたっては冷や汗を流しているようにも見えた。これはさすがに梓がかわいそうだったか。だから俺はすぐに楽にしてやることにした。
「死刑」
「え! 情状酌量どころか、被告人の弁解の機会もないの?」
俺の宣告に夏樹弁護士が驚きの声を上げる。俺と夏樹の言葉を皮切りに、梓についての裁判が本人の意思を無視して、勝手に開始される。
「当たり前だろ。被告人はついさっき嘘をつき、その直後に証拠が出てきた」
俺の言葉に夏樹弁護士は反論の余地を探そうと頭を抱える。夏樹あきらめろ。お前が入ってしまったのは出口のない迷路なんだから。
だがここですっと天井へ向けて伸びる手が上がった。
「被告人、発言を許可する」
「はは、ありがたき幸せ!」
梓は俺に向かって頭を下げる。ってか、こいつ状況わかってないだろ。急に時代劇要素を入れてきたところから見ても、それは間違いなさそうだ。
「私はジョージョーシャンソンを求めます」
ジョージョーシャンソン? 新手の音楽ジャンルみたいなこと言いやがったぞ、こいつ。たぶん本当はさっき夏樹が言った「情状酌量」と言いたかったんだろう。
英語できなくて、日本語カタコトってさすがにまずいぞ、梓!
「いったいそれは何を根拠に言ってるの?」
夏樹が手を顔の前で組み、梓に疑わしげな視線を向ける。いつの間にか弁護人がいなくなり、裁判官が二人に増えていた。




