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第十四話 『潤んだ目』

 ドクン、ドクン。俺の心臓は高鳴っていた。横をちらりと見ると、そこには梓がいた。


 「竜……」


 梓が潤んだ目で俺を見上げてくる。その手は固く握り締められていた。そうだよな。女の子の梓がもう決意を固めてるんだ。男の俺が決断を下さなくてどうする。


 俺は一度息を吐き出し、深く大きく息を吸うと、一息に言い切った。


 「すいません、二名分の遅刻届をいただけますでしょうか?」


 「お願いします」


 俺と梓は頭を下げる。屈辱だ! 


 梓を起こした際に、誰かに窓を閉められたせいで遅刻扱いになった俺は、梓と一緒に事務室に来ていた。俺たち二人に頭を下げられたおじさんは、ぽかんと口を開けている。


 そりゃ、そうだよな。めちゃくちゃ朝早くに来てたと思った男子生徒が遅刻してるんだから。


 「朝わしは小島君を見た気がしたんじゃが……」


 「それは自分です。各教室の開錠もきちんと済ませてあります」


 「それならなぜ……ああ」


 おじさんは不意に納得したという顔で頷く。あれ? 俺はまだ理由を説明してないんだけどな。


 「青春を大事にするのもいいことだが、学校の時間も守らないとね。今度からは頼むよ」


 おじさんは柔らかく笑いながら、俺たちに向かって二枚の遅刻届を差し出してくる。最悪だ! 誤解にも限度ってものがある。どうにか説明して誤解を解こうとする俺の襟首を梓がつかむ。


 「竜、急がないと一限目が始まっちゃうよ!」


 本当だ、だけど、だけど。逡巡する俺は梓に引っ張られながらも、おじさんに向かって手を伸ばし続けた。


 頼む、説明だけさせてくれ!


 その後教室に戻り、一限から四限までをなんとか乗り越えた俺は机に突っ伏していた。ちなみに白百合先生は今日午後出勤のため、まだ遅刻届は渡せてはいない。本当にあの先生、よく休んでるな!


 ようやく昼休みだと、休憩する俺の前では二匹の動物が話し合っている。


 「っていう感じでね、朝から事務のおじさんに誤解されちゃったの!」


 「おお! それは良かったね」


 俺は遅刻のショックで幻覚を見ているのだろうか? いや違う。夏樹がパンダのシャンくんを、梓がクマのチャッピーをそれぞれ持って、ぬいぐるみ劇場を繰り広げていた。二人はキラキラとした瞳で、俺は死んだ魚のような瞳でそれを見つめる。


 が、高校生にもなってぬいぐるみで楽しそうに遊べる二人に、俺はあきれを通り越して感心していた。


 「悪い。俺十分だけ眠らせてくれ」


 そう言う俺にチャッピーが近づいてくる。


 「オッケー、じゃあ竜が起きたら昼ごはんにしよう!」


 俺はその言葉に頷くと、静かに眠りに落ちていった。

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