遺跡の再調査
「アルマ、貴族の坊ちゃんが来ているが噂の転生者だぞ。やっと会えるな」
「そっか、カーノルディンでお兄さんと一緒にいた子だよね。私と同郷なら色々話を聞きたいけどね」
「私もこのまま、ご一緒して良いのでしょうか?」
「もちろん問題無い。まぁ、向こうさんは、アナに助けられたと思って組合を訪ねたらしい。もうリサが説明をしているだろうが、おまえ達2人に助けられたのが正解だろうからな」
「分かりました。では誤解を解くためにもご一緒させていただきます」
「誤解じゃないよ。アナも活躍したでしょ? マジックサインは必要だったわけだし」
「そ、そんな私なんて……全てアルマさんの活躍があったからです」
実験場からさほど距離は無く、直ぐに魔術師組合のホールに着いた。
3人は受付嬢に案内されて客人の部屋に入る。
中には無表情でこちらを睨みつけている冒険者の男が立っており、その横には髪はプラチナブロンド、瞳は青く天使のような少年がこちらに気が付くと礼儀正しく挨拶をした。
「ちょっとまて、なぜ憑依人形がいるのだ。しかも傷を負っているようだが、どういうことだ?」
冒険者の男が警戒して背中の大剣に手を掛けながら訝しげに問いかけた。
この男はカーノルディンの戦で単独で悪魔に向かっていった冒険者で少年を助けた男だ。
「ああー、ネビル。違うのよ、ごめんなさいねー。怪しい訳じゃ無いのよ」
リサがカーノルディンでの出来事を掻い摘み説明をした。
「そうなのか。失礼した」
「連れの者が失礼しました。申し訳ありません! そして、カーノルディンでは窮地をお救いくださり、ありがとうございました」
「あまりに突拍子もない話だからねー、色々噂が立っているけど真実はそんな感じ。但しアルマの存在は公にして欲しくないの」
「ええ、分かりました。今の状況ではその方が良いでしょうね」
少年が深々とお辞儀をした。
以前に見たこの世界のお辞儀と少し違うような気がするが寧ろ丁寧に感じる。
この人物が噂に聞いた転生者のレオ・ランズフォードだった。
「はじめまして……。ではなく、戦場でお目に掛かりましたよね」
「はい、実はアナ様とリサ様は存じていましたが、アルマ様の事は今日この魔術師組合で知ったばかりなのです。大変失礼いたしました」
「いえいえ、私はイレギュラー過ぎるというか、あの時は存在自体が見え無いのだから、仕方ないですよ」
レオとは前回の戦における悪魔の事や復興状況について話をした。
まだまだ襲撃に備えて気が抜けない状態であるが、あれ以来、悪魔達は姿を見せていない。また敵の目的については調査中との事だった。
「実は当家では、現在悪魔の本拠地になっているリストーニアから距離が近いという事もありまして、現在コントリバリーの議会と協力して悪魔の調査を進めています。今日リサ様のパーティをお尋ねしたのは、お礼だけではなく依頼も兼ねて参ったのです」
少年なのに気味が悪いくらい落ち着いて話をするレオは、淡々と大人達に向かって依頼について話を続けた。
「カーノルディンで悪魔達が最後に向かった場所、あの広場には古代遺跡があったのですが、アナ様の爆裂魔法で地面が抉れた為に地下から新たに遺跡が見つかったのです。もしかするとその遺跡に何かあるのではないかと私達は見て調査を続けています」
「へぇー、遺跡かー。でも、最近遺跡で良い思いしてないのよねぇ」
「エルファの森の遺跡の状況については議会でも報告されています。あの遺跡は古代の大戦においてハイエルフの軍事拠点だった場所です。カーノルディンの遺跡と同時期の物らしく、リサ様達が悪魔と遭遇した事も考慮すると何か因果関係があるのではないかと見ています」
「確かにねー。なぜかゴーレムと悪魔が守護していたように思えたのよね。まぁ、詳しく調べてみないと分からないけどね。えーと、レオさん、それにしてもまだ子供なのに詳しいのね」
「実は私は転生者でして、生まれてまだ11年ですが、2歳の頃からこの世界の勉強をしていますし、前世の分もいれるとそれなりに年を重ねていると思います」
「へぇ! それじゃ、あなた本当に転生者なのね! どんな前世だったの? ああ、あとギフトは持っているの?」
「おいおい、リサ! 失礼だろ!」
前に乗り出して質問をしているリサにダリオが突っ込んだ。
「実は前世の記憶は年を重ねる度に所々思い出しているのですが、断片的で未だ殆どが良く分からないのです。一般的な知識以外にも魔族や魔物の知識はあるのですが、なぜそのようなことを覚えているのか分からないのです。それから、ギフトはまだ分かりません、成人になってから現れる事もあるようですが」
(転生者っていうから同郷かと思ったけど異世界の話だったのね。じゃあ、こっちの話は特にしなくても良いかな……)
「話を戻しますと、依頼内容はエルファの森の再調査です。現在遺跡がどうなっているのか詳細を掴んできて欲しいのです。もちろん組合を通して正式に依頼させて頂きます。私達はリサ様達のパーティの戦力を目の当たりにしましたし、調査依頼の特別階級もお持ちと聞きました。そして、リサ様達はこのネビルと同じくあのリストーニア撤退戦の十傑だとお聞きしています」
「ああ、あれはまぁ、偶然そうなっちゃったのよ。恥ずかしいから、やめて……。まぁ、なるほどねぇ。ちょっと相談してもいいかしら? ダリオ、エレノア、アルマちょっとミーティングするからこっちに来て」
4人は部屋の隅に集まって小声で話を始めた。
アルマとエレノアは、リサとダリオに判断を任せて傍観している。
ダリオは危険だから辞めろといっているが、リサはアルマがいるならもっと近づけるという意見で割れていた。
「ねぇ、2人とも。さっきアナと新しい魔術の実験をしていたのだけど、完全に気配が消える魔術が出来たのよ。今回の依頼で使えないかな?」
「ほら、アルマだって気配を消せる術があるなら大丈夫だって! 名指し依頼の報酬を逃すなんて許せないわ!」
「うーむ。それなら最悪は……ある程度の距離から途中はアルマ一人で潜入して貰う事もあるかもしれないぞ?」
「まぁ、危険な所は私がやるよ。何かあってもこの人形を失うだけなら大丈夫だと思うし」
リサは報酬面で断れないでいるようだったが、結局ダリオが折れて意見が纏まった。アルマとしてはとにかく両腕が付いている人形を手に入れたいので悪い話では無い。
「よし、契約成立ね!」
話が纏まると少年と従者は、次の約束があるとのことで組合ホールを出て行った。
翌日、組合から正式に依頼を請けたリサは報酬額を見て朝からご機嫌だった。皆依頼の準備の為に買い物をしたり荷物をまとめたりしている。
そんな最中にアナがパーティの倉庫を訪ねて来た。
「アルマさん、リサさん、今日はご挨拶に来ました」
「あら、アナ。急にどうしたの?」
「実はカーノルディンの一件以来、真剣に考えていた事なのですが……自分の未熟さと命の儚さを改めて感じまして。これからも冒険者を続けていけるのかどうか一度故郷に帰ってよく考えてみようと思ったんです」
「えっ? それじゃあ、冒険者を辞めちゃうの?」
「いえ、まだ辞める訳じゃないです。組合も席を置いたままですし、一度休暇を取って……といっても故郷に戻れば実家の手伝いをする事になると思いますが。とにかく、少し考える時間が欲しいだけなんですが……」
問題が解決したとはいっても霊体を奪われ死と直面した事実は精神的にも厳しかったのだろう。
残念だが冒険者を辞める考えに至るのは仕方ない事かもしれない。
しかし何よりアルマにとってせっかく出来た友達だ。
「いつか、ここに戻って来てほしいな。良かったら、また魔術の実験をしよう」
「はい……」