この世界の魔法
カーノルディンの襲撃から2週間が経った。
街は依然として厳戒態勢のままだが、城壁や街の復旧はコントリバリーからの援助もあり大急ぎで行われている。
アンデッドの軍勢を率いる悪魔。彼らが本拠地としているリストーニアには相当な数の軍勢がいるとされており調査部隊等が常に監視しているが、その全貌はまだ良く分かっていない。
そして、コントリバリーに向かって来た巨人とオークの軍勢については、陽動作戦時に小競り合いがあっただけで本格的な戦闘にはならずに敵軍は撤退した。
悪魔達との不可解な連携を調べる為に、組合の掲示板では複数の調査依頼が貼り出されていた。
アルマの存在はこの街の上級議会にのみ報告されているが、2人の組合長の考えにより公にはしないことになった。
悪魔と戦争状態に入って人々が敵対種族に過敏になっている中で、人でも亜人でも無い存在を公表する事で起こる無用な混乱を避ける為である。
これはアルマの存在を知る数人の冒険者達にも徹底して指示された。
そしてコントリバリー冒険者組合ホールの居酒屋区画では、一日の仕事を終えた冒険者が酒席の話題として『魔族の狙いは何だったのか』という謎に皆が持論を披露する光景がよく見られる様になっていた。
その中で時折囁かれているアナ・ケトリーという魔術師の話。
実力はコントリバリーで最高峰に位置するのでは無いか、いやそれは間違いでカーノルディンの熟練の魔術師に見間違えたのだろうという噂。
それからもう一つはボロボロの憑依人形がいつも街を闊歩しているが、ついにマナ切れを起こさない人形をエルフ達が開発したのではないかという噂など不確かな情報が交錯していた。
ここコントリバリーに落ち着いたアルマは生活の基盤を少しずつ築いている途中だった。
寝泊まりは、宿を借りるとどうにも人形の格好が目立ってしまうので、リサ達に相談しパーティの拠点として使っている倉庫や竜の厩舎になっている建物の2階を間借りすることになった。
一間アパート暮らし経験者にとっては、かなり快適な建物だ。それにこの世界のインフラは思っていたよりしっかりしている。上下水もあるし電気が無い代わりに魔石による照明や多数の魔導具の恩恵を受けて人々の生活は豊かだった。
それ以外には、都市の出入りをする際に身分証明が出来ないと面倒事が多い。冒険者として登録することが出来ないか組合長のもとにアルマはリサと相談することにした。
特異な存在ということで断られると思ったが、組合長はこれから激しくなるかもしれない魔族との戦闘に力を貸して欲しいと好意的に迎え入れてくれた。
「ところで冒険者の階級については知っているだろう? 見習いから始めるのが通例だが君の能力は理解している」
「オルビス組合長。アルマはカーノルディンの戦闘においても、個人で戦況を左右するような力の持ち主です。見習い冒険者のように行動に制限が付いてしまっては……」
「そうだな、本来冒険者は自由に仕事を請けられるもの。見習い制度はその者の命を守る為にある制度だ。既に強き者には必要ない。希に実力のある者が冒険者になる時には過去に例はあったことだ。アルマ、君には試験免除で上級冒険者の身分証を発行するが、条件付きにさせてもらう」
「条件ですか?」
「うむ。我々、人の国家に協力してもらいたい。つまりは、この国の防衛に関する依頼は出来るだけ請けてもらうという事だ」
「良いじゃない、アルマ! どうせここを拠点にするつもりだったんでしょ? それに一緒に仕事が出来るなら超助かるわ」
「まぁね、リサがそう言うなら……そんなに縛られる条件でもないか。それに、いつまでもこんな身体じゃ嫌だからお金も稼がないとね」
「おっし、じゃ決定ねー」
冒険者組合の身分証があれば組合がある街なら何処でも入れる。
自由に仕事を請ける事も出来て、この世界の国家においてパスポートの様な物だ。
アルマはリサとアナの紹介で魔術師組合にも登録する事になったが、本来の目的はロンバルド組合長と約束した魔法を学習する話を進めたい為だった。しかし結局は個人授業では無く魔術師組合が主催する勉強会に参加することになった。
但し、ロンバルドの意向で他の受講者とは違う部屋で特別に授業を受ける事になっている。
(まぁ。人形が授業を受けていたらさすがにね……)
この勉強会にはアナとハンスも参加している。
アルマの人形姿は時折魔術師達に見られてはいるが、ここは魔術を司る場所というだけあって特に大きな騒ぎになる事は無い。
アナとハンスはカーノルディンの戦いの後はアルマを慕っており懇意な間柄になったが、得にアナとは行動を共にすることが多くなった。
コントリバリーではあの事件以来、エルフの魔法を使って見習い冒険者を不用意に霊体で送ることは無くなった。
こちらの世界から召喚の呼び出しに対して、向こう世界側では未だに答えてくれる様だが、はたして今回のアナとハンスの様な事案がどの様に理解されたのかこちら側から分からないとの事。
前世と同じようにアルマは魔術に夢中になり日々理解を深めていた。
この世界の魔術を扱う上で、基本となる発動方法は主に2つ。1つは精霊の力を使った魔法。人形に憑依している時に精霊の力が使える状態ならいつでも発動できる。
しかし、通常は精霊魔法を使うとマナを消費してしまうので回数に限界がある。
アルマは自分の限界までマナを使ったことがないので、どれくらい1日に発動できるのか分かっていない。
本来は精霊魔法の種類や魔法威力等でマナの消費は随分と違う。
そしてもう1つは魔法陣を使って魔法を発動させる方法。予め書いておいた魔法陣に魔力を注ぎ込むことで発動するのだが、これも基本的にマナを消費することになる。
魔術師の基本スキル『マジックサイン』は魔法陣を書き溜めておくスキルで、これを使って魔術を発動させる。
この時、魔法詠唱を行う者がいるが、それは術のイメージを明確にして魔術発動の失敗を防いだり威力を安定させたりする効果がある。
またスキル等とは別に魔術を使う方法として巻物がある。
特殊な羊皮紙に魔力を込めて魔法陣を書いた物で、使い切りになるがマナを流し込むことで魔術を発動できる。
どんなに複雑で高度な魔術でもマナの消費は僅かで、魔法が使えない一般人でも発動させることが可能だ。
これを使い、戦士職の冒険者が補助アイテムとして魔術を発動したり、生活の場面では建築や土木作業の工事に魔術が使われたりしている。
巻物を作る為には魔術師が自分のマナを消費して一気呵成に書き込む必要がある為に大量生産することは出来ないし、基本的に高度な魔術の巻物制作は極めて難しい。
アルマは自分で魔法陣の巻物制作を試してみると制限無く書けてしまう事が分かった。リサ達と相談して、これについては秘密にしておく事になった。巻物は高額で取引されているので厄介事に巻き込まれない為だ。
ちなみにアナ達が書くような魔法陣では売り物にはならない。アルマは魔術師組合の勉強会の他にロンバルド組合長の許可を貰い図書館の出入りをしていた。
そこは全国民に開放されているような施設では無く、組合の魔術師であっても許可を得ている者だけが入ることが出来る場所。
アルマはアナも一緒に勉強できるように承諾を貰っていた。
図書館に入り浸るとは前世と同じ行動パターンになっていたが、勉強会や図書館にはアナと一緒に通っている。
(前世で考えたら同じ趣味の友達なんて皆無だったし、学友がいることは正直に嬉しいな……といっても魔術はこの世界においては実用的で大真面目な事柄。しかも美術やデザインではなく、実際に使う為に存在しているのが嬉しすぎる!)
魔術師組合の図書館は木彫の装飾が施されている高価そうな机に本が1冊か2冊それぞれ鎖で繋げられている。
そんな物々しい机が所狭しと並べられており壁際には本棚も2つ程あるが、それらも棚に鎖で繋げられていた。
何度も通わないと読み進めることが出来ないがアルマはそれらを片端から読んでおり、この世界の魔術について更に知識が広がっていた。
その他魔術以外に得た知識はこの世界の歴史について。
コントリバリー周辺の記録は歴史書に記されていた。2,000年前に大きな戦があり、人、エルフ、ドワーフ、ハーフリングなどの人族連合と悪魔、魔族との戦争が勃発した。
その時に人族連合の拠点となったのが城塞都市コントリバリー付近だったらしく、それが元となって多種族国家が誕生したらしい。その他の同盟国は、北のリストーニアと西のロアルリースとあるのだが、リストーニアは残念ながら悪魔に滅ぼされてしまった。人族はこの3国以外とは殆ど国交が無いなど、それぞれ種族によって領域がある様だ。
当然ながら地図を見たかったが、簡単な領域を示した物がいくつか存在しているだけだった。
図書館に所蔵してある本は、これまでの街の発展と歴史については詳しく書かれているのだが、興味があった2,000年前の大戦がなぜ起こったのか、どうやって終結したのか、そういった事について未だには資料が見つからなかった。
今まさに戦っている悪魔について何か攻略のヒントが得られるか期待をしたのだが、有益な情報は何も無かった。
ロアルリース王国には教育機関として魔術学院があり、体系的に魔術の勉強が出来るらしい。また魔術学院の付属図書館は相当数の本があるらしいので、そこではこの図書館よりも魔術と歴史について、更に理解を深めることが出来るかも知れない。
アルマはこの世界の魔術を知ってからずっと胸中に暖めていた事があった。
それは前世の作品がこの世界で魔術として意味を持つかどうかという実験を行う事。
魔法陣の描き方は多様で流派の系統まで存在している。つまり一つの魔術の結果を出す為に様々な書き方があり創意工夫出来るということ。
初歩的な魔術はどれも同じようになってしまうのだが、複雑な魔法陣は創造的で美術作品の様に見える。だからこそ前世の作品がこの世界で魔術として成り立つか試して見たかった。
人気が無く場所が開けている良い実験場を探して、今日は都市郊外の川縁まで来ていた。アルマは人形の為に街中の散策は魔術師と一緒に歩いていないと、どうしても目立ってしまう。従ってこの実験にはアナも付き添って貰っていた。
「アルマさん、魔術の実験っていうのは……も、もしかしてアルマさんのいた世界の魔術を使うのですか?」
「あ、うん、そういうのも考えているね」
「あの、なんというか……。もし、あんな複雑で高度な魔術を発動したら、この程度の広場で大丈夫かなと思って……。城壁の外で実験した方がいいような気がするんです」
「えっ! そうなの? そんなやばそうだった?」
「あんな複雑な術式は私には理解出来ないですが、何か起こったら周辺に民家もありますから……」
「ああ……。まぁ、そうだよね。でも今日は複雑な魔術ではなく、前世で作った単純な魔法陣をいくつか使ってみようと思っているよ」
「そうですか……分かりました。では、私もお手伝いします!」
まずはこの世界の魔術の基礎、4大元素を使った実験から始める。
こういう時にマジックサインは書いておいた魔法陣を出し入れして発動を繰り返せるので便利で実用的なスキルだ。
4大元素を表す記号は前世の世界にも存在していた。しかし、この世界で勉強してみると意味が同じでも記号が異なる等の違いも多いので、前世仕様の描き方で魔法陣がどんな作用を起こすか実験をしてみる。
アナは興味深く魔法陣を眺めていた。最初の実験は基礎的な魔法陣を使い、火の元素魔法を発動出来るか試してみる。
前世仕様の火の表し方を使い、こちらの世界の書き方に倣った魔法陣を使って囲む。上方に力場を導く記号を付け加えて最後に円で括る。
このような実利の為に魔法を使う世界では不可欠な法則が幾つかある。円の括りは始まりと終わりを表し、コントロールする魔法としては必ず書かなくてはならない。
早速発動してみると問題無く炎の柱が勢いよく噴き上がった。
「やったよ! 成功したね」
「アルマさん! ということは記憶の中で見えた、あちらの世界の魔法陣は……」
「うんうん、今日の実験の目的はそれだからね。今日持って来ている作品が幾つかあるから試すよ」
予め用意していた前世のデザインであり美術作品、つまりお手製の魔法陣をマジックサインで確認する。
最初に使う魔法陣の作品名は『儚く消える影』という作品だ。
これを作っていた頃は、変わり者というレッテルを貼られて、世間の冷たい風を感じていた。
意味合いとしては誰からも干渉されたく無い。そうした孤独な自分をシンボルや記号で描いた作品だった。
こういった精神的な意味を込めた作品が、もし魔術として成立した場合にどういう効果を出すか──。
周辺に誰もいない事を確認してアナに一瞥してからマジックサインで魔法陣を呼び出し発動させる。
通常であればこれで問題無く魔術は効果を現す筈だが、周辺には特に変化が感じられなかった。
「そっかー。何にも起こらないかぁ」
しかしアナの様子がおかしい。
「あ、あれ、えっと。アルマさん、何処に行っちゃったんですか!」
「あれ? アナ、もしかして私が見えないの?」
「…………」
アナが返事をしない、声が届いてないようだ。試しに大声を出してみても、その場で飛び跳ねたりしても全然気が付かない。
アナは落ち着かない様子で周辺を探し始めた。
アルマは自分の身体を確かめて見るが、消えたりはしていない。
どういう作用が働いているのか分からないが、とにかくアナはアルマの姿を認識出来ないようだ。
魔法の効果について、いろいろ実験をして見ることにした。地面に置いてある石を拾って、川に向かって投げてみる。
「ドブン」と音を立てて水の中に落ちたのでさすがにアナは音に気が付いたが、石が沈んだ辺りを見て眉間に皺を寄せていた。
こうなると悪戯心が出てくる物だ。アナの後ろに回り込み、長い髪を掻き上げてみる。
「ひゃ! アルマさん、そこにいるのですか!」
悪戯が成功したが慄然とした姿が可愛そうになってきたのでマナの供給を止めて魔術を解除してみる。
アナは安堵した表情を浮かべた。
「アルマさん!」
「いやー、ごめんごめん。姿が見えなかったのね?」
「はい、もう全然、気配すら分かりませんでした。姿を隠蔽する魔術だったのでしょうか?」
「そうなるのかな……。もし魔術として成立つとしても、何が起こるか発動しないと分からないね……。でもさ、これ良いかも。姿と気配、音も消したし、隠れたい時とか使えるかもね」
「視認や音、さらには気配までを同時に隠蔽するなんて……これが異世界の魔法なのですね。アルマさんは凄いです!」
「いやいや、偶然だよ。次はどうなるか分からないから。あっそうだ、次の実験なんだけど、うーん、そうだなぁ。なんていうか弱っている生物とかいないかなぁ」
「弱っている生物ですか? うーん、難しいですね。市場まで行けば、まだ生きている活きの悪い魚やエビを売っているお店があるかもしれませんが」
実験場からそう遠くない、城壁付近の市場で魚を扱っているお店を訪ねることにした。
もっとも多く売られていたのは養殖の鯉で、その中まだ息がある2匹購入して急いで実験場に戻り、鯉を川に入れてみる。
確かにまだ息はあるようだが2匹とも横向きに浮いてしまい泳ぐことが出来ない。
「本当は食べ物だけど、目的がそうじゃ無くなると急に可愛そうになってくるよね……」
「そんなものですかね」
そんな話をしながらマジックサインを準備する。
次に使う『萎靡の再起』は、気が落ち込んだ時や憤りを感じた苦しい時に精神的な復活を切に願い制作した作品だった。
治癒のユニコーンや再生と復活の孔雀など、絵的に格好良いシンボルが多かったのでTシャツにもした。
魔術として発動した場合、これだけ治療系のシンボルを使っているので対象が瀕死の状態で実験をしてみようと思っていた。
ちなみに、これ位の記号やシンボルを描くとなると魔法陣の書き込みには相当なマナを使うので、並の魔術師では描けない贅沢な魔法陣ということになる。
仮に実験が成功したら、なかなか高度な魔術に属するだろう。
「よし、じゃあいくよ」
まず1匹に向けて魔術を発動してみる。
すると、ぷかぷかと浮いていた鯉は、真昼でもはっきりと分かると程に眩しく輝き出した後に直ぐさま元気に泳ぎ出して、水中から勢いよくジャンプして何処かにいなくなってしまった。
「成功しましたね、アルマさん!」
「うわー。元気良く泳いでいったね! なんていうか自分が作った魔法陣が使えるなんて、もう嬉しすぎるよ!」
嬉しくて拍手したいが隻腕だったのでアナにハイタッチの姿勢を見せたが、当然通じる訳も無くアナは出した手を不思議そうに見つめている。
「あのね、アナも同じように手を出して。こうやるのよ。こう!」
「は、はい!」
無理矢理ハイタッチをさせて、次の実験に移ることにした。
ここまでの実験の結果について、アナは当然だという様子で感心しているが一体何の根拠で信用しているのか全く分からない。
もう一つの実験は羊皮紙の巻物に描いた魔法陣を他人が発動できるかどうか。早速用意していた巻物を背負い袋から取り出してアナに渡す。
「これを鯉に使ってみてもらえる?」
先ほど成功した作品『萎靡の再起』をアナは丁寧に広げて、まだ腹を向けて浮いている鯉に向かって発動させてみる。
すると鯉は先程と同じ様に一頻り輝きを放ち元気よく泳ぎ始めた。
「こちらも成功ですね。アルマさん。人間に使ったら凄い効果があるのでしょうね」
「あー、人間にねぇ……もうちょっと動物とかで実験しないと怖いかなぁ……。じゃあ、次は今日最後の実験をしてみようか」
次に実験する『朋友の繋属』は、これも精神的な表現の作品だ。
一人ぼっちの自分に理解者が欲しいという願望の表れで、いつか友達が出来たら渡したいと思い作った作品。
内容はソウルメイト等というオカルトチックな言葉に憧れて、友達との気持ち──もっというと魂が繋がっている事を表現した物。
どんなに魔法陣に没頭してもこの世界ではただ勤勉に思われるだけで、誰からも奇異の目で見られる事は無いが、アルマは自分にとって初めて趣味に付き合ってくれる存在、つまり大切な友達だと一方的に思っている人物を対象にこの魔術を試して見たかった。
期待している効果は自分とアナの仲がもっと深まるなら良いと思っているし、その他にも啀み合いや争いを収める等の効果があれば十分実用的な魔術だ。
「アナ、私達に魔術を使うからちょっと近寄ってくれてもいい?」
「えっ? は、はい、分かりました」
アナは魔術の実験対象になっていることを少し怖がっているようで、躊躇しながらも恐る恐る近寄ってくる。
向かい合い手が届く距離まで近づいた所で、マジックサインから『朋友の繋属』を発動させてみる。
2人は魔法効果範囲に入っている証に輝きに包まれた。
「アルマさん、これは何の魔術なのでしょうか?」
「何と言われても、実はどうなるか分からない魔法の実験だったんだよね、危険はないと思うんだけど……。アナ、何か変化は感じない?」
「どうでしょうか、何か変わったとは思えないですね」
「うーん、そっか……これは失敗だったかもしれないね」
発動しても何も効果を発揮しない魔術も当然ながらあるだろう。
他にも作品は数多くあるし、少しずつ確認していく必要がある。
そんな事を思いながら羊皮紙の巻物を準備していた所、川縁の実験場にダリオが現れた。
「アルマ、おまえに来客が来たぞ。というかアナに間違えてなのだが……。カーノルディンの貴族だ。今リサが対応しているが、どうする?」
「えっ貴族? 何だろう。分かった、すぐに行くよ。じゃ、今日の実験は終わりね」
前世の作品が魔法として使える事が分かっただけでも大きな収穫だった。これはもしかすると突き詰めていったらアルマ流なんていう魔法陣が確立できるかもしれない。などと考えアルマは愉悦の笑みを浮かべていたが、人形なので外見では分からない。
直ぐに周辺を片付けて撤収を始めた。
「あ、そうだアナ。この巻物なんだけど、良かったらあげるよ」
今回実験した3種類の巻物をそれぞれ一つアナに手渡した。
元々3番目に実験した『朋友の繋属』はプレゼント用の作品で彼女に貰ってもらいたい。
「え! そ、そんな高価な羊皮紙の巻物にアルマさんの魔術。これってすごい価値ですよ。本当に良いのでしょうか」
「いやいや、元々実験が成功して使える物だと分かったら、付き合って貰ったお礼として渡そうと思っていたからさ。まぁ、一応使えるみたいだし、貰っておいてよ」
「アルマさんの魔術……。ありがとうございます。大切にして本当に必要な時は使わせてもらいます」
3人は来客が来ているという魔術師組合ホールに向かった。