表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/25

北の集落

 カーノルディンの冒険者組合ホールの居酒屋ではジュリ・シェルダンがいつも通り一人で食事をとっていた。

 彼女はレンジャーとしての手腕は高い評価を受けている。

 リストーニアの撤退時においてもその名を馳せ冒険者の中でも一目置かれる存在だった。

 そこへ背中に大剣を背負い全身黒尽くめの装備をした冒険者がズカズカと大きな足音を立てて彼女に近付いて来た。

「おい、ジュリ! この貼り紙はなんだ?」

「おやぁ、あんたから話し掛けて来るなんて珍しいじゃないか、ネビル」

「こんな、非正規の依頼を冒険者に対して行って大丈夫なのか?」

「ああ。それかい? 組合は何も言ってきやしないよ。むしろ協力的さ、黙認しているねぇ」

「それより、あんた。あの貴族の専属になった訳じゃ無いんだろ?」

「ああ、専属では無い。贔屓にはしてもらっているが」

「そうかい、それは良かったよ。じゃあ、あんたも参戦できるわけだねぇ」

「なっ! それは……まだ決めてはない……この無報酬で悪魔から国を奪還等という依頼に人が集まるのか? 作戦に疑問も多いぞ」

「さぁ、分からないけどねぇ。英雄のお嬢ちゃんの名前と、蛮族の援軍の情報を使えば、集まるかもしれないよ」

「蛮族の援軍だと? 奴らが協力するのか?」

「ああ、そうさ。表向きは蛮族っていうと体裁が悪いからねぇ。貼り紙には英雄のお嬢ちゃんが連れて来る援軍とだけにしておくのさ。そこに義勇兵を募るんだよ」

「あの少女の魔術師か……なるほど。そして蛮族……本当に実現するのだろうな?」

「こうやって、あんたも興味を持って聞きに来たんだ。みんな考えている事は同じ様なもんさ。これからコントリバリーにも大々的に貼り紙やら説明会をするつもりなんだけどねぇ。あんた、手伝ってくれないかい?」





 コントリバリーの魔術師組合ホールでは、勉強会を終えたブレダとセイジが見習いの魔術師向けの仕事を探しながら立ち話をしていた。

 そこへハンスが入ってくる。

「あら、ハンスじゃない。勉強会に来ないなんて珍しいわね。どうしたの?」

「やあ、ブレダ、セイジ。実はある人に会っていたのさ、君達にも話したいと思っていた件なんだ」

「人に会っていた? 一体誰に?」

「ジュリ・シェルダンさんだよ。カーノルディンの冒険者さ、知っているかい?」

「ああ、名前は知っているな」

「有名な女性レンジャーね。なんでまたそんな人に?」

「2人とも、これを見て欲しいんだ」

 ハンスは背負い袋から丸めた貼り紙を取り出して2人に見せた。

「えーっと、どれどれ……」

「なっ!」

「カーノルディン、トレステッドの救世主、暴風の竜巻姫、英雄アナ・ケトリーが悪魔討伐の義勇兵を募集する。だって?!」

「なっ、アナが?! 暴風の竜巻姫!?」

「これは一体どういう事なの!?」

「ここ最近は知っての通り冒険者の間ではアナは大魔術師って噂が流れているだろう? まぁ、俺たちは事情を理解している訳だが」

「ああ、俺も知り合いだと言ったら何人も紹介してくれと言われたよ」

「でも、これじゃあ、アルマさん達の事を内緒にするのが難しくなってしまうじゃない?」

「そうだけど、義勇兵なんてものを集めるには象徴が必要だって事らしい」

「うーむ、なるほど。見習い冒険者も使いようか……」

「募集主は、ジュリ・シェルダン、ネビル・ニーランドになっているわね」

「2人とも名のある冒険者だな」

「ああ、そういう事だよ。今ジュリさんの方はコントリバリーに滞在していてね、色々話を聞いて来たのさ」

「アナはリサさん達と遠征に行くと言っていたよね?」

「それは本当だ。どうやら蛮族の国に行って、悪魔討伐の手練れ達を連れて来る事になっているらしい」

「蛮族か……エレノアさんが言っていた事だな……」

「その蛮族の部隊と義勇兵を募って、リストーニアを奪還出来ないか作戦を立てているらしいんだよ」

「なんてことだ……そんな大きな計画にアナが象徴になるなんてな……」

「ところで、これは非正規の募集依頼よね? 冒険者組合や魔術師組合からはお咎めはないのかしら?」

「両組合は黙認しているそうだけど、これからロンバルド組合長のご意見を伺おうと思ってここに来た。面会の約束は取ってある、良かったら君達も来ないか?」

「ああ、それじゃあ。一緒に面会させてもらおう」


 3人は受付嬢に組合長室へ案内をしてもらった。

「ほう、3人の見習い冒険者が来たのだな。と言っても君達はリサ達の事情を知っている数少ない冒険者だ。件の貼り紙について話をするには丁度良いだろうな」

「ロンバルド様、蛮族の事はもうご存知だったのでしょうか?」

「知っているとも。今回リサ達が行なっている遠征は、元々はリストーニアの王妃陛下が立てた計画なのだ。蛮族と共に悪魔を討つ準備は既にされていた」

「そうなのですか! それなら義勇兵を集める上で更に希望が持てますね」

「ふむ、議会は兵を出すことに未だに消極的だ。しかし、義勇兵は個人の自由。冒険者や非正規の傭兵達も気持ちが向けば参加は可能。妙案だろうな」

「そうですか。でも、やはりコントリバリーの兵は出せないのですね……」

「努力はしているが政治や権益が絡み、なかなか前に進むことが出来んのだ。私個人の勝手は許されないのでな。残念ながら今出来る事は精々貼り紙を黙認すること位だ」

「僕はジュリさん達の義勇兵集めを手伝うつもりです。アナも関わっていますし」

「そうだな、ジュリ・シェルダン達に協力してやって欲しい。アナには気の毒だが象徴になってもらった方が上手くいくかも知れんな」

 話が終わり3人はロンバルドの部屋を後にした。

「ブレダ、セイジも義勇兵の募集に協力してくれないか?」

「ああ、いいぜ。リサさん達にはお世話になっているし、俺たちは戦闘で役に立てそうも無いからな」

「まったくさ、それにしてもアナが遠征から帰って来たらビックリしそうだね」





「ひ、ひぇ、ひぃぇっくっしょん!!」

「うわっ! ちょっと、こっちにクシャミしないでよー」

「す、すいません! アルマさん」

「なんだー、アナ? 噂でもされたのか?」

「あはは、なんだろうね。急に寒気がしちゃって」

「また戦いがある。体調は整えておけよ」


 蛮族の都奪還から1週間が過ぎた。

 悪魔達は人間の建造物に興味が無かった様で街の中は特に破壊された形跡は無かったが、寧ろアルマ達の大立ち回りで沢山の被害が出ていた。

 現在、防壁の修理を優先的に行っており街の中の戦闘の跡はそのままの状態になっていた。

 無事だった中心地の一画にある客人用の建物ではサグナとアグナ、そしてアルマ達が食事を取りながら話し合いをしていた。

「ああー、なんかさ。私が色々壊しちゃったから申し訳無いな。木亀も動けなくなってしまったし」

「アルマさん、何をおっしゃいますか。我らの都をついに取り戻したのです。これくらい直ぐに復旧出来ますよ」

「それにしても、なんで巨人がいたんだろうね……」

「ええ、私達も悪魔と共闘されるとは予想外です。少し離れた森に縄張りを持つ者達はいるのですが、うまく敵対しない様に共存して来たんです……」

「そういえばさ、ケアネイでは悪魔達の狙いって何か分かっていたの?」

「悪魔の狙いですか? 種族として人間と敵対するのが自然というそれだけの事かと思っていましたが」

「ああ、まぁ確かにそうだよね。実はこっちでもさ、正直あいつらの狙いがよく分かってないんだよね。ただ、リストーニアでは何やら大悪魔の復活を図っていたらしいんだけど」

「ええ、王妃陛下がそう言っていたわ。サミル団長、何かご存知ですか?」

「はい、リストーニアに封印されている者は、過去の大戦時に暴れた大悪魔だそうで、それを守護する目的で英雄があの場所に国を起こしたと言われています」

「なるほど、それがリストーニアを用意周到に奪った理由という訳か」

「あ、そういえば。こっちにさ、古い遺跡とか無い?」

「古い遺跡ですか? ええ、あります。私達の最後の集落になったあの場所に。実はあの集落は私たちの国の中で最も古い場所なのです」

「それってやっぱり調査とかしたりしているのかな?」

「いえ、神聖な場所とされていて。大巫女様の許可が無ければ入る事は出来ません」

「そっか、私達の方は街に何回か悪魔と巨人達の襲撃があったのよ。その目的がもしかしたら遺跡と関係しているんじゃ無いかって……それで今調査中だったの。もしかしたらと思ったけど、ここにも遺跡があったのね」

「大巫女様に許可をもらって遺跡を調べる事って出来ないかな?」

「えっ! 聖域を、ですか……本来はケアネイの民以外は立ち入れない場所ですが──でも、アルマさんのお願いなら大巫女様もお許しくださるかも知れません」

「ここまで遠征している訳だし、この際遺跡を調べさせてもらえる様にお願いして見ましょう。それに大巫女様とも今後の話を直接しないと行けませんからね」

「はい。分かりました。直ぐに使いの者を出します」

 数日後、遺跡調査の許可は得られたが大巫女の立会いの下に行われる事になった。

 聖域という事だけあり大勢での立ち入りは控える事となり、アルマ、リサ、エレノア、アナが許可を貰い、ダキとネイアもアルマの僕の精霊という事で入る事を許された。

 遺跡は北の集落内で人々が寝かされていた倉庫の裏手に位置する場所だった。通常は立ち入りが禁止されている場所だけあり、辺りは静まり返っている。

 サグナとアグナの案内によりアルマ達が遺跡の場所に到着すると、既に神輿から降りた大巫女が一同を待ち構えていた。

 大巫女の真っ白な衣装は他の蛮族とは違い何の装飾もされていない。

 唯一の飾りは頭に付けている金属製の髪飾りで、磨き上げられた宝石が美しく輝いていた。

「大巫女様。この度は聖域にも関わらず調査を受け入れて下さりありがとうございます」

「私達は皆さんに少しでも恩返しをしなければいけません。聖域など国が無くなっては何も意味が無いもの。禁忌など本来は民族を守る為にあるべき物ですから」

 アルマ達は双子と大巫女により聖域の中へと案内される。

 大巫女をここまで担いで来た者達は聖域には入れない様で彼女を見送っていた。

「大巫女様、お体の具合はもう良いのですか?」

「ええ、王女殿下ありがとうございます。お陰様でこの通り散歩位は問題ありません」

 大巫女は双子の手を借りてヨタヨタと覚束ない足取りで聖域の中を進んだ。

 聖域の遺跡は古さを感じるが今まで見た遺跡の中ではもっとも原型を留め美しい状態で保たれていた。

 一面には良く手入れをされた芝生の中に石材が散らばっている場所が見受けられ、幾つか石の建造物の跡があった。

 その中で目に付くのは辛うじて残っている元々はアーチ型であった神殿と思われる建造物の跡があり、僅かに石柱や壁が崩れず残っていた。


「ケアネイの文化は木造建築だと思っていましたが、ここは石の遺跡なのですね」

「ええ、我々の先祖は石を使っていた様ですが、短で取れる資源に生活を合わせて、この様な文明の変化が起こったのかも知れません」

「なるほどねー。聖域として守られていただけあって、結構綺麗だね」

「大巫女様。なぜここが聖域として守られて来たのでしょうか?」

「あまりに長い期間ここを守護し管理するとだけ伝えられて来ました。歴史上何度かこの辺りまで悪魔に攻め込まれたこともあり、混乱の中で詳しい慣習の意味は失われてしまったのです。今は大巫女が行う形式的な儀式だけが残っています」

「儀式ですか? それはどの様な?」

「それは、年に一度、この森で生息している魔物を狩り。そこから取れた魔石を向こうにある井戸跡に入れるという物です」

「井戸? それを見せていただいてもよろしいでしょうか?」

「ええ、もちろん。こちらです」

 アーチ状の建物の裏手には石造りの古びた井戸があり、円形状の井戸側の上には後から蛮族が作ったのであろう木製の立派な蓋が設けられている。大巫女は井戸の側まで来ると蓋を外した。

「この井戸です。儀式は今から3ヶ月程前に行っています」

 全員が井戸を覗き込む。

 リストーニアの魔術師達は千里眼などを使って井戸の底を調べ始めた。

「中は草一本生えてないわね……。魔石は確かに僅かだけど残っていますね。効力が無くなれば魔石は消滅しますが、逆に魔力を使う事が無ければ自然に消滅するまで何年か掛かる物です。3ヶ月前の儀式を執り行った時には、以前の魔石は消滅しているのでしょうか?」

「ええ、この井戸に魔石を落とすと必ず1年後には無くなっています。我々の信仰する炎の神へと通じる地脈があるなどいわれていますが、何故かは分かりません」

「ほほう。魔力を使う何かが井戸にあると?」

「ネイア、ダキ。貴方達は遺跡に住んでいたんでしょう? 何かわかる事はない?」

「アルマ様、このアーチ状の跡ですが、私達の森の地下遺跡の入り口も随分昔はその様な作りだったと聞いております」

 それを聞いて皆がアーチ状の建物を調べ始める。

 アーチ状の建物は床面が既に無くなっているのか、周辺と同じ様に芝生になっていた。

 聖域として管理されている為に掃除も行き届いており、枯葉も殆ど見られずまるで美しい庭園の様だ。

「あはは、アルマ様! きっとここだぁー!」

 笑顔の少女はアーチ状の建物の下に生えていた芝生と土を、土魔術を使って掘り返した。

「こ、こら、ダキ! 乱暴にしちゃ駄目だよ!」

 アルマの制止は既に遅く、ダキは一瞬にして大量の土を建物の外に吹き飛ばした。

 ダキはアルマの指示に気が付いて慌てて魔術を解除する。

 しかしその場所をよく見ると、排除された土から底に下へ続く階段と思われる石肌が見えていた。

「これは!」

「大巫女様、もっと掘り起こしますけど良いですね?」

「はい、構いません」

 引き続きダキは土を掘り起こした。

 大量の土が投げ出されて大きな山を築いていく、その様子を皆が固唾を呑んで見守っていた。

 直ぐにダキは全ての土を地上に運び終わった。

「あーあ、土だらけになっちゃった。ネイアー、また洗ってくれ」

「仕方ない、そこに立ちなさい」

 建物だと思われたアーチ状の遺跡は地下へと続く長い階段の入り口だった。

 その先には大きな石造りの門があり、手前脇には開閉起動に使われるのであろう石の台座が設置されていた。

 エルファの森の遺跡と同じ様に魔法的な鍵が掛けられている事が分かる。

「なんという事でしょう……この様な石門が地下にあったとは……」

「面白くなってきたねー。後は鍵の解除が必要そうだけど」

「ネイア。あっちの遺跡の鍵の解除はアルセイがやっていたけど、あれはどうやるの?」

「はい。あれは私達が魔力を込めれば開くという単純なものです。精霊以外の種族では反応はしません」

「なるほど、聖域を守護する精霊そのものが鍵になっているか……」

 一同は掘り出された地下への階段を降りる。

 大巫女は時間を掛けながらアグナとサグナの肩を借りて長い階段を降りて来た。

 外は晴天であったが、深く長い階段は途中から暗闇となり独特の冷えた空気に包まれる。

 ネイアはアルマからの指示に従い複雑な文様が彫ってある石の台座に魔力を込めるが、なんの変化も起こらず石門は閉じたままだった。

 リサも興味本位で石の台座に魔力を送ったが何の反応も無かったので、石門を無理やりこじ開けようとする。

「ぬおおおおおぉー! はぁ、はぁ。流石にビクともしないわね」

「力技じゃ難しそうね」

「精霊の聖域に、人の民族の聖域か……大巫女様、何か鍵になる様な道具とか受け継いだりしてないですか?」

「道具ですか? 先代から幾つか引き継ぐ物はありましたが、鍵になる様なものは思い当たらないですね」

「ここまで来て……、なんとかして扉を開けたいわね」

「あのね、前世の知識が当てはまるか分からないんだけどさ、この石の台座の文様は恐らく月を表していると思うんだ」

「おおー。そりゃあ良いヒントになるじゃん。月かぁ。そうねー。ん……んん! それさ、大巫女様の髪飾りは何か伝統的な物なの?」

「はい。これは大巫女の証。『三日月の髪飾り』と言います」

「それが鍵なんじゃないですか?!」

 大巫女は髪を後ろに纏めている紐を緩め一緒にとめていた髪飾りを外した。

 光沢のある美しい黒髪が波の様に肩に流れる。

 大巫女は髪飾りを石の台座の上に丁寧に置いた。

「あれ? 何も起こらないね。予想を外したかな?」

「ネイア、魔力を台座に流して見てもらえる?」

「畏まりました」

 ネイアが魔力を流し込んでも何も変化が起きなかった。

 それを見てアルマも魔力を流し込んで見たが、やはり同じ様に何も起きない。

「もし、精霊の聖域と同じ手順だとしたら……聖域の守護者の種族とか血縁が関係しているのではない?」

「なるほど、では、私がやってみましょう」

「大巫女様! あまりご無理をされては……」

「大丈夫ですよ。少し魔力を注ぐ程度は問題ありません」

 大巫女が石の台座に手を当てる。

 すると文様の部分が白く輝き何らかの魔法的な仕掛けが動いた。

「おお! これ何か反応あったんじゃない」

 長い間閉じられていた石門が地鳴りの様な音を出し、隙間に詰まっていた小石を弾き出しながら、ゆっくりと左右の門が奥側に開くと中から吹いてきた冷たい風が皆の顔を撫でた。

「おお、開いたね!」

「一体に何があるんでしょう。悪魔達が狙う物なのでしょうか……」

 エレノアを先頭にして、一行は遺跡の中へ向かう。中は完全な暗闇だった。

〈ライト・オブ・カタリスト/触媒の光源化〉

 エレノアは魔術で自身の杖を照明に変えて辺りを照らす。ぼんやりと見えた空間はあまり広くは無く、容易に全てを照らし出すことが出来た。

 正面の壁には文様が見え、自然と全員がそこへと集まる。それは文様というより線画であった。

 石を削り出し描かれた物で、植物や自然界の生き物等が多数描きこまれていた。

「古い絵でしょうね。私には理解できないわ」

「私、こんな感じの壁を見たことがあります!」

「え? 何処で見たの?」

「夢の中です。時止めが壁の汚れを落としていて神の祈りを捧げる準備をしていた、などと言っていましたが……」

「悪魔が祈りを捧げるねぇ。怪しいなー」

「この正面の壁は、中心に切れ目がある所を見ると大きな門の様な感じもするね」

「また、魔力を流して見るとか?」

「分かりました。やって見ましょう」

 大巫女は文様の中心部に手を当て魔力を流し込む。

 すると石の台座と同じく光が絵をなぞり、一瞬辺りは日光で照らされた様な強い光に包まれた。

「うわ。眩しい!」

「何か起きたわよ」

 石の壁に描かれていた植物と生き物の絵は中心から割れて、左右にスライドして更に奥に進む入り口を見せた。

 しかし、次の部屋は小さい為に扉が開かれたその場所から全てを確認する事が出来た。

 その部屋は五芒星の様な形に区切られて図形の頂点になる5箇所には台座が設置されており、その上には金属製の円形の鋳物が一つずつ置かれて微光を放っていた。

 中心には石櫃が置かれそのすぐ後ろには円筒状の石積みが天井まで伸びていた。

「これは……何かの封印じゃない?」

「悪魔が狙っている物っていうのは、あの封印されている石櫃のこと?」

「これさ、大巫女様の儀式ってこの施設の維持の為だったんじゃない? あの、天井まで繋がっている石積さ、丁度井戸の辺りじゃない?」

「ああー。なるほど」

「我が民族が守って来た場所とはこの様な施設だったとは……」

「大巫女様。これは間違いなく悪しき物に違いありません」

「悪魔共はこれを狙っているからこそ、我々を排除しようとして来たのでしょう。ただの種族間の争いだけでは無く奴らには目的があったのですね」

「ここはそのままにしておいた方が良さそうですね。大巫女様ありがとうございます」

「いえ、これは私達にとっても大きな発見です。こちらこそ礼を言わなければ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ