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悪魔と亀

 ──1週間後。

 蛮族最後の集落では中心部にある神殿内で都の奪還作戦について会議が行われていた。

 出席者は双子の巫女、彼女達は大巫女が動けない間は戦において責任者となっている。その他に神官や蛮族の戦士長、呪術師の長が席に着いていた。

 リストーニアからはリサ達パーティと宮廷魔術師団長が出席している。

 都はこの集落から馬で2日の距離だが、中心地に向かう街道はしっかりと整備されているらしく、馬車なども問題無く通る事が可能で木亀も街道を通れるように設計されていた。

 作戦に参加する部隊は万が一の襲撃に備えて蛮族が1,000人と『庇保の木亀』という事になった。

 議題の中心は攻撃をどの様にするかの話になっており、都は当然ながら木製とは言っても防壁で囲まれている。

 これを乗り越えなくてはならない。

「防壁についてですが、敵は魔術結界などを使う事はこれまでもありませんでした。従って木製である壁は弱点になります」

「まぁ、時間はかかっても破壊する事は出来そうだな」

「アルマの攻撃でさ、一発で破壊出来ないかな?」

「えっ、うーん。どうだろう、頑丈だったら厳しいかも知れないけど……そういえば、あの亀でどうやって攻撃するのかよく分からなかったんだけど……」

「攻撃は魔術を使う事で行います。体の好きな場所から発動できるようになっています」

「それならいつも通り頭の上とかに、どでかい火の玉でも錬成してさ」

「うん、そうだね、でも……もし私の攻撃が上手くいかなくて、こんなに大事な作戦が失敗したらと思うと……なんだか不安だなあ」

「大丈夫だってー。あんた以上の火力はここにはいないんだからさ、とりあえずやっちゃってから考えればいいんだよ」

「まぁ、駄目なら通常の攻略方法を考えても良い。奴らは結界を使うわけでも無いだろうし、上手く丸太を一箇所でも破壊できたら崩れるだろうからな」

「エレノア様、あの精霊のアルマさんの攻撃は防壁を単独で破壊する程なのですか?」

「ええ、サミル団長。アルマが精霊かどうかは分からないけど、なんていうか……色々桁違いなのは確かですね」

 会議は具体的な案は纏まらなかったが、都の奪還作戦は大雑把な事柄だけが決まり決行する事となった。

 まずはアルマが防壁を破壊、その後は木亀を先頭に都の中へ突入して悪魔を叩く。

 時止めが出る事が予想されるのでその場合は一度蛮族の部隊は退避して、木亀で時止めを討つという単純明快な物。

 そもそも木亀が都まで移動して戦える事自体が十分な勝算と考えられていた。

「上手く行くか心配だな」

「アルマさん、木亀の背中で儀式が続く限り、奴等の魔術攻撃はこちらまで届きません」

「そっか。まぁ、みんなが安全なら良いんだけどね」

「はい。余程大きな物理攻撃でもあれば別ですが、そのような敵はこれまでも現れた事はありませんので」

 既に部隊編成や遠征の準備は終わっていた為に出発は明日となり到着次第、奪還作戦が開始されることで決定した。

 作戦会議が終了し、アルマ達は客人用の建物に案内される。

「はぁ、今回ばかりは重圧を感じる役割だわ」

「アルマ様に不可能などございません。私も全身全霊を持ってお役に立てるよう務めさせて頂きます」

「あたしもアルマ様なら絶対大丈夫だと思います!」

「私なぜかアルマさんのやる事ってなんでも信じられるんです。何の根拠もないんですけど……上手く言えませんが今回も大丈夫な気がするんです」

「アナ……みんな、ありがとう」

「きっと、この国が救われたら王妃陛下の計画も成し遂げる事が出来る。頑張りましょう」

 次の朝、部隊は遠征に出発した。

 木亀を先頭に1,000名の蛮族の戦士と呪術師達、そして物資等を運ぶ部隊が長い列を組み街道をひたすら直進する。

 ダキとエレノアが御者をしている馬車は最後尾の物資部隊と一緒に進んでいた。

「民族の存亡を賭けた戦いなのは分かっているんだけどさ。あの可愛らしい作りの木亀と背中のお祭騒ぎの人達を見ていると何か笑っちゃいそうになるんだよね」

「リサ、荷車の外ではあれを見て笑ったりするなよ? ケアネイの民は大真面目であの形にしたんだからな」

「分かってるってー。一応空気は読むからさ、大丈夫だって」

「アルマは四つん這いになるような感じって言っていたわね。こんなに長時間移動して大丈夫なのかしら」

「あはは。確かにあれはキツそうだねー」

「アナ、頼まれて欲しいのだけど。アルマ様は暫くあの亀で戦うそうだから、この御身体を見ていて欲しいの、良いかしら?」

「は、はい。私は今回も後方で治療班ですから、一緒にアルマさんの身体も見ていますね」

「それにしてもここに置いてある、アルマさんの身体は人形には見えませんな。まるで生きているようだ」

「サミル団長、それはエルファの森の聖域にあったのですよ」

「なんと! では、古代ハイエルフの技術、いや、それとも精霊の力でしょうか……」

「分からないですけど、本当にアルマって不思議な存在よね……」

「悪魔達との戦いでここまですんなり来られているのは、彼女のおかげなのは確かだな」

 行軍は何の問題も無く進み、2泊を置いて都の前まで辿り着いた。

 森が開けて都が肉眼でもハッキリと見える距離まで近付いた。防壁は集落で見たものとは少し違い梁の作りがしっかりして堅牢に見える。当然その為に中の様子は全くわからない。

 全員が馬車や竜車から降りて木亀の後方に長蛇を組んで徒歩で防壁へ近寄る。

 木亀を先頭に200メール程前まで接近したが、悪魔達は何の動きも無かった。

 サグナの指示で蛮族の呪術師の一人が魔術儀式を始めた。

〈サモン・ネイチャーズ・アライ/小動物召喚〉

 その蛮族は派手な模様の小鳥を召喚して、掌に乗せると一言何かを添え空に放った。

「召喚術師もいるんだ、精鋭部隊ってだけはあるわね」

「ああ、それぞれ得意な分野があるといっていたな」

 小鳥を放った蛮族は楽な姿勢で座り瞑想を始めた。

 少しの時間をおいてその蛮族が立ち上がり、リサ達の横にいた上官らしき人物に報告をしている声が聞こえて来た。

「物見櫓や防壁には誰も居ないとは、奴らは攻撃されるなど微塵も思ってないのか」

「へぇ、舐められているの? それとも罠なのかねー」

 偵察を終えて、全軍はさらに前進を開始し魔術攻撃が可能な距離まで迫る。

 先頭の木亀からアルマがこれから防壁を攻撃すると後方まで知らせが来た。

 これで防壁を破壊すれば一気に内部に突入して悪魔を掃討する事になる。全員が突撃の準備を整えていた。

(よし。それじゃあ、炎を出来るだけ大きくしてやってみる)

(はい、お願いします!)

 アルマはカーノルディンの広場で行なった時の様に亀の頭の上に大きな炎の塊を錬成した。

 それを見た蛮族達から歓声が沸き起こる。

「おお! 凄まじい火の精霊魔法だ。これならいけるぞ!」

 アルマは十分に大きくなった炎の玉を防壁に向かって放つ。

 丸太作りの防壁にぶつかるといつもの様に凄まじい轟音が起こり、遠く森の木々に止まっていた野鳥達は驚いて飛び立っていった。

 跳ね返ってくる爆風で皆が顔を下げる。

 落ち着いた所で防壁を確認すると、爆発が起こった場所は黒く焦げついていたが、丸太には特に大きな損傷はなかった。

「バカな! あれだけの攻撃を受けて損傷が無いだと……」

「いや、違う。結界だ! あいつら結界を使ってやがるぞ!」

 皆が防壁を確認する為に木亀の後ろから前に出て来て確認をし始めた。

 さほど損傷がなかった事を見て驚いている間に、防壁の上から悪魔達が次々と顔をだして魔術による攻撃を開始した。

「しまった! 全員防御魔法を展開しろ! 間に合わない者は木亀の後ろに身を隠せ!」

 悪魔達は偵察の小動物を受け入れ、油断を誘い奇襲を仕掛けて来た。虚を衝かれて防御が間に合わない蛮族が何人も討たれていく。

(どど、どうしよう。攻撃が効かなかったみたいだけど……)

(敵は結界を使って来ました。これは予想外です……これでは魔法的な攻撃で破壊するのはかなり時間が掛かってしまいますね)

(どうすれば良いだろう。魔法が駄目なら私じゃ何も出来ないかも……)

(困りましたね。大きな物理攻撃でも出来れば……)

 悪魔と蛮族達の攻防が始まる。

 蛮族達は対悪魔戦に慣れているようで、殆どが3人1組になり2人が防御魔法を展開して確実に防御を固めて1人が自由に攻撃を行うという方法だった。

 蛮族達の魔法攻撃はリサ達の文化と殆ど同じだが、錬成される炎の形が球体ではなく彗星形になる等、魔術の系統に若干の違いが見られた。

 また自然の力を操る者達は限界まで防壁に近づくと、蔦などの植物を使って顔を出した悪魔を絡めて落とすといった変わった戦法を取る者もいた。

 戦いは悪魔達が結界を使った壁に守られている為に攻め切ることが出来ず、蛮族達は徐々に劣勢になっていく。

(みんな、頑張っているけど押されているよね。早く防壁をどうにかしなきゃ)

 その時、攻撃が激しく行われている前線の木亀の横までネイアが走って来た。

「アルマ様、物理攻撃が必要との事ですね」

(そう見たい。だけど、私じゃどうにも出来ないかも……)

「只今武器を用意しますので、少々お待ちください」

「え? 武器?」

 いつも冷静沈着な彼女がこの状況で武器を用意するという突拍子もない事を言い出した。

 ネイアは木亀の後に素早く移動し、蛮族の男2人に向かって何か指示を出すと男達は大急ぎで何処かに走り出していった。次はダキと少し話をする。

 その後、ダキは丁度木亀の近くに生えていた木の下に向かって魔術を発動した。すると土が盛り上がり根を付けたまま木はその場に倒れる。

 その木の陰に隠れて戦っていた呪術師達が慌てて木亀の後ろに身を隠すなど少し混乱があったが、ダキは構わず同じように土を操り、木亀の横に3本の木を重ねる様に並べた。

 ネイアに指示を受けた2人の男は、先ほどダキが用意した3本の木の横に息を切らしながら、成人の男がやっと持ち上げられる程の大きな水瓶を運び出していた。

 竜車の荷車で2台分の水が運びこまれた所で汗だくになった男達は息が上がってその場に倒れた。

 そこにネイアが来て男達が運び出した瓶に片手を入れ、もう片方の手は倒れた木に向けて精霊魔法を発動させた。ダキが倒した木々の根は上手く絡み合う様に積み重ねられており、ネイアが氷を使って木々を固定させていく。

 枝の方にも同じ様な作業が行われて、置いてあった全ての大瓶の水を使い果たすと、3本の木を包み込んだ弾丸状の巨大な氷の塊が完成した。

「これをアルマ様のお力で前方に打ち込んで頂ければ、あの壁は崩壊する筈です」

(うわ、凄い! でも、さすがに大き過ぎる様な気がするけど……気流の操作でいけるかな……。と、とりあえず、やってみるか)

(こんな大きな物が気流操作で!)

(出来るか分からないけどね……やってみる!)

 アルマは風の精霊魔法を使い、ネイアが作り上げた巨大な氷の弾丸を上昇気流によって持ち上げる。

 それは見事に浮き上がり木亀の上方へ移動させる事に成功した。

(こんな巨大な物が浮き上がるなんて!)

(ア、アルマさん、凄い魔力……凄すぎます!)

(うわわわ、ダメだ! 浮き上がるけど前に撃ち出すにはバランスが取れないし、気流の力が少し足りないかな……)

 アルマは木亀の上に氷の弾丸を浮かせる事は成功したが、これを打ち出すことが出来ずにいた。氷の弾丸は上下にフラフラと浮き沈みを何度も繰り返してしまう。

 その真下、亀の背中で魔術儀式をしている呪術師達が上空の様子を見て恐怖のあまりに踊りや演奏に乱れが生じたが、どうにか持ち直し結界を維持していた。

「アルマ! 珍しく手を焼いているじゃないの。私達も手伝うよ!」

(リサ、エレノア! ありがとう! とにかく、もう少し浮力があれば前に打ち出せそう)

「あいよー。まぁ、こっちは微力だが少しは足しになるでしょ……」

「サミル団長、ケアネイの呪術師で風を操れるものに声を掛けてください!」

「承知しました!」

「風を操れる者は木亀の精霊殿に加勢しろ! 氷の塊に浮力を与えろー!」

 蛮族の精鋭で風を操れる者200人以上が木亀の周りに集まり、一斉に風魔術を発動させ氷の弾丸に浮力を与えた。

 それを守る為に防御魔法を行う者達が更に集まって来る。

 気が付くと木亀の周りには全軍が集まって来ていた。

(ケアネイの戦士達よ! 今こそ先代の為に、我が祖国を取り戻す為に、その力を見せる時です!)

「これさえ成功出来れば、防壁が破壊出来るのだろう? やってやる!」

「もっと! もっとだ!」

「ぐおおおおぉ!!」

 氷の弾丸は安定して空中に浮遊し始めた。

(よし! これならいけそう! みんなありがとう!)

 アルマは浮力の助けを得て前方の打ち出しに力を集中させた。

 弾丸の後ろ側に空間を圧縮するイメージをして一気に前方に解放する。

(いっけー!!)

 氷の弾丸はその巨大さにも関わらず凄まじい速度で放たれ、爆発音を響かせて防壁に激突する。

 衝撃の力は凄まじく弾丸に対して小さな悪魔達にはどうすることも出来ず、着弾付近の区画全ての丸太が悪魔を巻き込んで吹き飛んでいった。

(やったー!)

(よし! これでいけますね。さぁ、アグナ、私たちが最初に突入しなくては)

 弾丸の威力で防壁周辺の悪魔の排除にも成功し、ついに木亀は防壁の中へと侵入する。

 中では悪魔が待っていた様子で一斉に火や風属性の魔術攻撃が行われた。

(うわ! すごい攻撃受けているけど大丈夫かな……)

(アルマさん、背中の儀式が続く限りはそう簡単にはこの結界は破られません。大丈夫です)

(そうだったね。とにかく攻撃をしてくる悪魔に反撃しなくちゃ)

 木亀の後方からも友軍が突入を開始して蛮族と悪魔による攻防が再び開始される。

 蛮族は殆ど損害を受ける事も無く十分な人数を送り込む事が出来た為に、都の中の戦いは数的にも優勢になっていた。


 アルマ達の木亀は時止めを探しながら都の中央付近まで来ていた。

 敵の攻撃は激しさを増したが木亀に全く攻撃は通らず、すぐにアルマの餌食となってしまう為に悪魔達は木亀の姿を見ると恐れをなして逃げ出す者が出る始末だった。

 都の中央には大きな建造物が幾つか見られた。

 その中でも一番大きく美しい木造の神殿があり、入り口の門は蛮族特有の原色を使った装飾が施されていた。

(街の中心あたりに来たかな。敵が少なくなって来たね)

(恐らくこの木亀に怖れをなしているのかと。あとは時止めですね)

(何処にいるんだろう。まだ、紫の霧は見えなし……)

(アルマさん、正面右側の神殿の門に!)

(えっ!?)

 神殿の門から丸太を3本纏めて作った両手持ちの棍棒を持ったオーガ2体が走り出て来た。

 アルマは完全に不意を突かれた状態になる、

(な、なんでここに巨人が!?)

(不味い!! あんな大きな棍棒で物理攻撃を受けては……)

 アルマは慌てて2つの火の玉を錬成するが巨大化するには時間がない、中途半端な大きさの火の玉を2つ即座に錬成してオーガに向かってそれぞれ放った。

 火の玉は手前にいたオーガの腹に命中して爆発を起こすと、敵は苦しみのあまりその場に膝をついた。

 しかし、一方のオーガはしゃがんで動かなくなった仲間を盾に身を隠す。

 手前のオーガは2つ目の炎の玉が直撃して完全に絶命したが、その後ろに隠れていたオーガが木亀の直ぐ手前に飛び出して来た。

(アルマさん! 左側にオーガが飛び込みました!)

(了解!)

 巨大な棍棒を振りかざし襲いかかるオーガに向かって、アルマはまたしても中途半端な大きさで錬成した炎の玉を放つ。

 だが決死の覚悟で飛び込んで来たオーガはすでに棍棒を振り下ろしていた。棍棒は木亀の左肩から顔面にかけて打ち込まれる。

 けたたましい木が割れる音と、精霊魔法の爆破音が同時に起った。

(あああ!)

(きゃ!)

オーガは胸部で炎の玉が爆発した衝撃でその場から20メートル程飛ばされて膝を突いた。

 しかし、かなりの深傷負わせ大量の出血で辺りが真っ赤に染まっている。

 木亀の方はオーガの一撃を受け背中で儀式をしていた呪術師達が全員振り落とされてしまった。

 そこにアルマが放った炎の爆発が起こり、倉庫や小屋などの小さい木造建築物を巻き込みながら横滑りをするようにこちらも20メートル程吹き飛ばされる。

 木亀の左手は完全に大破し頭部と憑依用の櫓もどうにか繋がっている状態で、もう歩行することは出来そうにない。

 突っ伏して地面に沈む様な状態になった木亀は完全にその動きを止めた。

 座椅子に帯によって固定されていたサグナとアグナ、また本体に憑依しているアルマだけはまだ木亀に残っていた。

 爆発によって舞い上がった土煙で遮られた視界が晴れてくる。

 オーガは最後の力を振り絞って覚束ない足取りで木亀の方に向かって来た。

(アルマさん、オーガがまた来ます!)

(今度こそ!)

 その時、飛びかかろうとするオーガの足に何本も氷の槍が突き刺さり、オーガは足を止めた。

(ネイア! 助かる。ありがとう)

 アルマは十分な大きさの炎の玉を錬成し、今度は確実にオーガを仕留めた。

 爆風が収まり周辺の状況を皆が確認する。

「アルマ様! 正面から霧です!」

(え!? 嘘でしょ! こんな時に!)

 木亀から約80メートル先には、ゆっくりと空気中に溜め込むように地上から紫の霧が立ち込めていた。

 空中に溜まった霧の色は徐々に濃くなっていき攻撃の準備をしているように見える。

(アルマさん、今は結界がありません。一度引きましょう!)

(そんな! 目の前まで来たのに……)

 振り落とされた呪術師達は、仲間を助けながらお互いに治癒魔術を掛けている姿が見える。

 木亀に向かってくる者もいたが結界を再度作り出すにはとても間に合いそうもない。

 空中に溜まり出した紫の霧が遠くからも確認出来たのか後方から太鼓の音が聞こえた。

(これじゃ、みんなも退避が間に合わないかも。一度攻撃してみる!)

 アルマは千里眼を使って霧の発生源を確かめたが敵の姿は確認出来ない。

 とりあえず霧の発生する場所に向かって炎の玉による攻撃を仕掛けた。

 特大の炎の玉は霧が立ち込める少し手前で大爆発を起こして、辺りの建物を吹き飛ばし地面を削り取る。

 舞い上がった土が収まり状況を確認すると、爆心地の一部だけが無傷になっており、地面もその場所を避けるように吹き飛ばされていた。

(また結界だ!)

(クッ、防壁の結界も奴らか。あの攻撃に対抗できる結界とは……)

(どうにかならないかな……)

 霧はアルマ達を術に落とし込んだ時の様に、その色を鮮やかな紫に染め上げ壁が徐々に出来つつあった。

 アルマは千里眼を発動したままさらに観察を続けていると、霧は結界の数メートル上から煙草の煙の様に発生している事に気が付いた。

(これ、霧を出すために結界は側面だけってこと? 上部に結界が無いとしたらあれが使えるかも……)

 アルマは最近実験に成功した独自の魔術『鬱憤の浄化』を発動した。

 この魔術は怒りを魔法陣化した物だが、その効果は上空からピンポイントで稲妻を落とすことが出来る。

 上空の一部分には黒雲が綿菓子でも作る様にフワフワと生成された。

 アルマは意識を集中して上空から霧の発生ポイントを探る。

 既に時止めは攻撃の準備が出来たようで木亀に向かって霧の壁が移動を開始した。

(ア、アルマさん! も、もうダメです。退避しましょう!!)

 上空の視線から時止めの位置を探していたアルマには、霧の壁が木亀の方に移動した為にはっきりと発生地点を確認することが出来た。

(ここだ!)

 狙いが定まった所でアルマは雷を何度も姿の見えない敵に対して落とし続けた。

 都には大きな雷鳴が繰り返し響き渡る。

(アルマさん、霧が!)

 アルマは上空から集中していた意識を戻し木亀から周辺を確認してみると、霧の壁はその形を崩して風に吹かれて消えて行った。

(間に合った……)

(アルマさん、お見事です。時止めを打ち取ったのでしょうか……)

 落雷を何度も落とした場所を確認してみるとそこには10体程の悪魔が円を描くような配置で黒焦げになっており、中心には白く醜悪なロバの悪魔が仰向けになって倒れていた。

(間違いない、時止めです! やった! 時止めを倒しました!)

 サグナとアグナそしてアルマは動く事が出来なくなった木亀から離脱し、甲羅の上から戦況を眺めていた。

 霧が晴れた事で次々と後続の蛮族達が攻撃を始め戦況は優勢に傾いていた。

「我が方が優勢ですね、逃げ出す悪魔も出始めている様です」

(ほんとにみんなのお陰だよ。良かった……)

 木亀の背中で儀式を行っていた蛮族達が仲間に向かって叫ぶ。

「時止めを討ち取ったぞー!」

 辺りから蛮族達の鬨の声が上がった。

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