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遺跡の祭司

「アナ! アーナ! もう起きなさいなー!」

「え! また!? お母さん?」

「あんた、今日は収穫祭に行くんじゃないのかい?」

(また同じ、夢……)

「今日は店の手伝いはいいから、朝ご飯食べたらさっさと行っておいで」

「うん。分かったそうするよ」

 不気味な程に昨晩と同じ始まり方をした夢だった。

 アナは同じように朝食を摂って外に出る事にする。

 やはり以前のトレステッドの田舎風景だったが、各所に見える建物には収穫祭の当日に揚げられる旗や藁で作った粗末な人形が飾られていた。

(昨日は収穫祭前日だったけど今日は当日になっているのね……だとしたら昨日のあの場所は、お祭りの会場になっている筈だ)

 アナは子供達が踊りの練習をしていた広場に向かって走り出した。

 広場には人集りが出来ていた。

 小さな体のアナは苦労して大人の人垣を掻き分け、ようやく見えた祭りの会場には昨日ここで出会った子供姿のアルマ、リサ、エレノアの3人が収穫祭の踊り子の衣装を着てこれから始まる祭りの準備をしていた。

(やっぱり3人がいた。夢の続き? たまにそう言う事ってあるけど……)

 しかし、アナはこの3人の踊りの意味をハンスの母親から聞いていたので、とてもこの祭りを許す事が出来ない。

 夢の中とはいえ、踊りをやめさせたいという気持ちがむらむらと湧き上がって来た。

「3人とも、それを踊っちゃダメ!」

「あー、アナだ。やっと来たー」

「早く、着替えて。まだ間に合うから」

「3人ともダメなの。これを踊る意味は、とても恐ろしい事なのよ!」

「え、何いってんの? もう、ちゃっちゃと終わらせようよ」

「その鈴も駄目。こっちに渡して!」

「ちょっと、何するのよ。この鈴は踊りで使う物でしょ。きゃ!」

 アナは無理矢理でも踊りをやめさせようと、エレノアから鈴を取り上げた。

「おいおい、ケトリーさんとこの子かい。駄目だよ、お祭りの邪魔をしちゃあ。君は向こうに行きない」

「違うの、おじさん。あれを踊っちゃ駄目なのよ。お願い、離してー!」

 アナは子供の喧嘩とでも思われたのか、周囲の見物客の男性に人集りの外まで連れて行かれてしまった。

「いいかい、お祭りの邪魔はとてもいけない事なんだ。今日はもうお家におかえり」

「そ、そんな……。みんな何の祭か分かってないのよ!」

 アナはこの不謹慎な夢の進行をどうにか阻止したくなり、再び訪れるのは少し怖かったがハンスの家の鶏舎に行って見る事にした。

 昨日の夢と同じように鶏舎は異常な大きさのままだ。中に入ろうとしたところに丁度ハンスの母親が入り口付近を掃除していた。

「あら、アナちゃんまた来たのかい?」

「おばちゃん、何しているの?」

「今日は収穫祭だろう? 神様がいらっしゃるだろうから掃除しておこうと思ってね。祭司様も喜んでいたわ」

「ねぇ、おばちゃん……この町に祭司様なんて……いないわ」

「なに言っているんだい? いつも遺跡でお祈りを捧げている方だよ。昔からいるでしょう?」

「遺跡で!? それって…………ああ、うん。そっか……そうなんだ。うん、じゃあね、おばちゃん!」

 アナは鶏舎を出て遺跡に向かって走り出した。

 遺跡と悪魔の関係性は前に何度か聞いている。

 夢の中とは言え、この町に存在しない筈の人物が遺跡と関係しているとしたらこの不謹慎な夢と何か関係しているのかも知れない。

 遠くからは既に踊りが始まった合図に太鼓の音が聞こえて来た。

 遺跡に到着したアナは祭司らしい人物を探すが誰も見つからない。辺りには小さい頃に遊んだ思い出の場所がそのまま再現されていた。

 地面には壊れた石垣がいくつも野晒しになって置かれていたが、その中で一箇所だけ記憶と違う物を見つける。

 小さい頃は一番大きい岩から飛び降りることが出来れば一人前という子供らしい規則があり、その儀式に使われた目立つ長細い岩が倒されていた。

 アナはその岩を確認する為に近寄って見ると、引き摺られて移動した跡が残っている。その場所には地下に降りる階段があり、覗き込んで見るが真っ暗で先は何も見えなかった。

「こんな場所に地下に降りる入り口があったなんて……」

 トレステッドでは野犬や魔物が領内入った時に使う見回り用のランプが道端に立て掛けられている事があった。

 丁度、遺跡近くの道にランプがあり、アナはそれを持って地下に降りて見る事にした。

(良かった、魔石型のランプだ。これなら直ぐに灯せる)

 地下への階段は大人がやっと通れるような狭さだった。

 真っ暗だったので何処まで階段が続くか分からなかったが、降りて見ると直ぐ下に到達する。

 辺りの石は湿っぽく苔だらけになっており、天井は低く外は晴天だというのにここでは雨漏りでもしている様にポタポタと水が滴り落ちていた。

 辺りをランプで照らして見るとさほど広く無い空間で、全てを容易に見通す事が出来る。

 最奥に一人、儀式用の帽子を被った男性が真っ暗なこの部屋においてランプも照らさずに壁の汚れを取り除く作業をしていた。アナがランプを照らした事に気が付いて男が近寄って来た。

「誰かな。ここは立ち入り禁止だと言っていた筈だが」

「お、おじさんこそ、誰?」

「何だ? 子供か……あー、今は神に祈りを捧げる準備をしているのだ。私は祭司だよ。知っているだろう?」

「祭司さん? 私はこの町の事なら何でも知っているわ、人も景色も匂いだって。でも、あなたの事は知らない。あなたは誰なの?」

「チッ、この町を知っている奴だぁ? あー、もういい。命令だ、さっさと家に帰れ」

 最初は優しそうに見えた男は、態度を急変させて乱暴な物言いでアナに命令をした。

 アナは一層怪しく思い、男を問い詰める事にした。

「やだ! 帰らない。あなたが誰だが教えてくれるまで絶対に帰らない!」

「あぁ? な、なぜだ! 何で命令が効かない────お、お前まさか……侵入者なのか? ど、どうやって入りやがったんだ?」

「やっぱり、あなたはこの夢に関係しているのね?」

「この夢だぁ? 何だ、そりゃ? あー、クソッ! 面倒だ。貴様を精神ごと破壊してやれば消え失せるだろうからな」

 男は腰から儀式用と思われる短剣を取り出しアナに近付いてきた。

 アナは非力な子供の姿になっている為に力で押されてはどうしようも無い。

 男は腕を振り上げ襲いかかって来た。

 アナは冒険者として実戦はあまり積んで無いが最低限の体術は訓練で身につけている。相手の油断した最初の攻撃をどうにか避けたつもりだったがスカートの先が切り裂かれていた。

「やだ! 来ないでぇー!」

 アナは持っていたランプを投げつけると、男の顔面にぶつかり被っていた帽子を吹き飛ばした。

「グオッ!」

 帽子が取れた時に魔術が発動した様な光が辺りを照らした。

 石の床に落ちたランプはまだ消えてはおらず、下方から祭司の顔面を照らす。

 男の顔はみるみる変形していき、白く醜悪で潰れたロバの顔に変わった。

「やってくれたなぁ」

「ひっ、悪魔……」

 男は短剣ではなく今度は魔法陣を展開して魔術攻撃の準備を始める。

 空中から炎の玉が3つ出現して少女に向かって放たれた。

 アナはそれを見て恐ろしくなり数歩後退さったが何の意味も無い。

 流石にこれだけの攻撃魔法を至近距離で受ければ大人であっても即死するような攻撃だ。

 アナは夢だというのに目を閉じて、為す術もなく終わりを待つ。

 直後、炎の玉が爆発する音が3つ聞こえた。その衝撃で地下遺跡が揺れている。

 しかし、何故か夢は終わらない。

 不思議に思い目を開けて顔を上げると悪魔と自分の間に氷の壁が出来ており、先ほどの爆発の衝撃を全て防いでいた事が分かった。

(アナ、よくここまで案内してくれました)

「えっ? ネ、ネイアさん?」

 念話をしているように頭の中でネイアの声が響いた。

 悪魔は仕留めた供物を回収しようと歩み始める。

 爆発で視界が遮られて気が付かなかったが、数歩進みようやく氷の壁が見えて立ち止まった。

「な、何だ、これは? 俺の世界で魔術だと? 使える筈がない……」

 氷の壁がガラガラと崩れ視界が晴れると、その先には炎の玉で葬った筈の少女が何のダメージも受けずに青ざめた表情で立っていた。

「どういう事だ? クソッ、もう一度だ。死ね!」

 悪魔が魔術の準備をするよりも早く、アナの胸のあたりから美しく白い腕が悪魔に掌を見せて伸びる。するとそこから腕と同じ位の太さの氷の槍が何本も悪魔に向かって放たれた。

 高速で飛び出す槍の反動は凄まじく、子供のアナは降りてきた階段に尻餅をついてそれを耐える。

「グッ、グアァ! 何故だ!! ちくしょう! あと少しだったというのに!!」

 悪魔はネイアの氷の槍によって蜂の巣にされ、断末魔の叫びと共にピクリとも動かなくなった。

「やっつけたのかしら?」

(さぁ、どうでしょうね)

 アナは未だに消える事が無かったランプを回収して辺りを照らしてみる。

 悪魔が壁の汚れを落としていた場所は何だったのか気になり、最奥に向かって歩き出した時に大きな地鳴りと共に地震が起こった。

「わっ、地揺れだわ。ど、ど、どうしよう!」

 地震は次第に大きくなりアナは立っていられなくなりその場に座り込んだ。

 地下遺跡の石は軋み始めて、周辺から石を擦る不気味で低い音が響いてくる。

 アナは恐怖のあまり頭を抱えて蹲った。

「な、何これ、怖い!」

 さらに地震は大きな揺れとなり、ついに地下遺跡は揺れに耐えられなくなり中心部から崩れ始めた。

 天井を組み上げていた大きな石材がお腹に響く様な音を出して落ちてくる。

 さらに床も低い音出しながら裂け目を作り大きな口を開いた。

「うわあぁ! これじゃ地割れに落ちちゃう。に、逃げなきゃ!」

 アナは慌てて降りて来た階段に向かって走り始めたが思う様に動けない。

 ヨタヨタと何とか前に進もうと苦労していたところで、地下遺跡は支える物が無くなった様に、床も天井も壁も何もかもがアナを巻き込み暗闇の中に崩れ落ちていった。

「うわあああああぁ! お、おち、落ちるううぅ!! はっ! あ、痛ぁ!」

 アナは大声と共に目を覚ますと、アルマと横並びになって寝ていた台から転がり落ちた。

 倉庫の中では昨日と同じ様に蛮族の巫女達が食事を用意している途中で、見張り番をしている男達はこちらを見てニヤニヤと笑っていた。

「あるある、落ちる夢ってたまに見るよな」

「だけど、普通あんな大声出すか? しかも台から落ちてだぞ?」

「客人だぞ、あまり笑うな…………ップ!」

 またしても恥ずかしい思いをして朝を迎える事になってしまい、気を落としているアナの所にネイアが近づいて来た。

「あ、私の夢にネイアさんが出たんですよ。それで、悪魔をやっつけちゃって」

「アナ、あれが夢なの?」

「え?」

 言っている事がよく理解出来なかった。

 ネイアは夢の内容を知っている様な返答をしたが寝ている間に何かあったのだろうか、言葉少ない異種族の女にどう質問して良いのかアナは分からなかった。

 美味しそうな食事の匂いがして来る。

 アナはこれから朝食の時間になると思い、腰掛けていた板の台を立ち上がろうとした時に何かが動く振動を感じた。

「んん、あれ。アナ? 私……どうしちゃった?」

「あああぁ! ア、アルマさん!」

「うわ! ちょ、ちょっと、どうしたの」

 アナは起き上がったアルマに抱きついて辺り構わず激しく泣き出した。

 少し離れた所からダキが走って来てアルマの前にネイアと共に跪いた。

 朝食の準備をしていた巫女が辺りの様子を見て、抱えていた食器を全て落としてしまい倉庫中に耳障りな音が響く。

 倉庫の中の800人が皆一斉に目を覚まして、何が起きたのか分からず近くの者と話し合ったりしている。

 いつも静まり返っていたこの場所は、ざわざわと落ち着きが無い様子に変わっていた。

「た、大変だ! 皆が目を覚ました。サグナ様に報告しろ!」

「な、なんてことだ! 奇跡だ! 奇跡が起こった!」

 アルマの後にリサとエレノアも目を覚ました。そこにダリオも走って駆けつける。

「うわ-、なんか変な夢を見てたわー。何だったんだ。あれ……」

「記憶が曖昧だけど、もしかして私たち、時止めの術にやられていたのね……?」

「良かった……、本当に良かったです、ううううぅ」

「うわ、アナ。ちょ、ちょっと、鼻水が……ふふ、もう……」

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