表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/25

紫の霧

 臨戦態勢に入った集落の中は慌ただしく、戦士や呪術師達は防壁の足場の梯子を登る。

 戦闘員では無い者達も必死で動き回っていた。

 あたりは既に夕暮れになっており、この集落に入った時に気が付いた篝火が丁度よい照明となり辺りを照らしていた。

 一定の距離を置いて配置されているその篝火毎に、木の仮面を被った呪術師達が5人程集まって何かの魔術儀式を始めた。

 踊りを織り交ぜて過剰すぎる様にも見える身振りで儀式が続けられると、丸太で作られた粗末な防壁が輝き出す。

「もしかして、あれって防御魔法を防壁に展開しているのかね? すごいねー」

「あれなら魔法攻撃主体の悪魔には有効だろうな」

「よし。私らも防壁から攻撃に参加しようかね」

 壁の内側まで来て各々が攻撃用の足場まで登る。

 アナは攻撃には参加せずに怪我人の対応をする巫女達の班に回った。ダキはアルマと共に戦場に出るというので面倒はネイアに任せる事にする。

「どうやら来たみたいだな」

「そんなに多くない? 100体位?」

「ああ、結界を使った壁もあるし、これなら戦力差は十分に見えるが」

 悪魔達の姿は様々で人間の格好をした者もいれば、不気味な姿を晒す怪物も見受けられた。

 お互いが攻撃範囲に入ったところで魔術の攻防が始まる。

 どうやら蛮族達は呪術師が殆どで、弓等の物理的な攻撃を行う者は僅かだった。

「アルマ! あそこの固まっている場所、一気にやっちゃって!」

「はいよ!」

 アルマは密集して防御魔法を展開していた悪魔達に向かって容赦なく巨大な炎の精霊魔法を放った。

 するといつも通りの大爆発が起こり悪魔達は断末魔の叫びを上げて消滅していく。ネイアは精霊魔法を駆使して氷の槍を空中に何本か生成して雨のように降らせた。

 悪魔達は今までの呪術師達との戦いでは経験していなかった攻撃に全く対応出来ず、逃げ出す者も出始めた。

「あ、あれが、精霊の力か……」

「よし、これなら行ける。一気に叩くぞ!」

 戦火が開かれてからあっという間に形勢が有利に傾いて昂揚した為か、数人の蛮族が防壁の門を開けて飛び出した。

「よし、あたし達も行こうよ。ダリオ―、後はよろしくー」

「おいおい、またかよ。今回は未知の術を使う悪魔がいるんだぞ。気をつけろよ!」

 リサは風の魔術を操り防壁の外へと飛び出した。

 その後を追ってアルマとエレノアも同じ方法で10メートル以上はある防壁から地面に飛び降りる。

 悪魔達は後退をしながらも時折攻撃魔法を放つが散漫で全く脅威にならなかった。

 完全に押し切れると思い、リサ達と5人ほど出てきた蛮族の呪術師達は追撃を開始する。ネイアとダキは風を操れない為に足場から梯子を下りて、ようやく門から外に出てきた時だった。

 物見櫓から先程とは違う太鼓の音色が聞こえて来た。

「時止めだー! 防壁の中に退避しろー!」

 後方から何度も大きな声で警告を発している。

 表に出てきた蛮族の内3人は恐れを成して逃げ帰っていった。残った2人はリサ達に付いて来た。問題になっている悪魔を討ち取れるかも知れない、こちらの考えている事と同じなのだろう。

「よーし、表的が向こうから来たみたいだから。やっちゃおうか」

「うん、そうだね」

「ええ」

 3人は前進したが悪魔達は肉眼でやっと確認出来る程遠くまで退却していた。

 この開けた場所から森の暗闇にどんどん敵は消えて行き、敵影を確認する事が難しくなってしまった。

 もしこの中に標的がいるとしたら既に逃げられた可能性がある。

 今回は仕留め損なったかと思った時にリサは夕暮れの光が何かに遮られ、周辺が暗くなっている事に気が付いた。

「ん? 何これ?」

「煙の波?」

 アルマ達3人と後から付いてきた蛮族2人の前には、紫色の巨大な霧が壁を成して迫って来ていた。

 その速度は速く広範囲で避けることが出来そうもないが、これが攻撃か或いは何かの脅威なのかも分からず3人は身構えるだけでこの霧の波を受けることになった。

 後から追いかけてきたネイアとダキは、ようやくアルマ達の姿を捉える所まで近付いた時に霧の壁が見えた。

「アルマ様!」

 霧の壁はアルマ達3人と蛮族2人を包み込むと目的を果たしたとせんばかりに、まるで意志を持った生き物の様にするすると後方に引いていった。

 霧が引いて視界が通ると、その後にはアルマ達と蛮族と合わせて5人がグッタリと地面に倒れていた。

 ネイアとダキは慌ててアルマの元に駆け寄る。

 後方には精霊の凄まじい魔力に陶酔した蛮族達が数人付いて来ていた。

「アルマ様! なんてことなの……」

 倒れ込んでしまったアルマ、リサ、エレノアは倉庫に寝かせられていた人々と同じように薄い紫色の膜に覆われ、眠っている様に目を閉じていた。

 悪魔達は数人の強大な力を持った者を認識しており、邪魔者がいなくなったことを確認して再度攻撃を仕掛ける為にこちらに近付いて来ていた。

 それを見てネイアはアルマとエレノアを肩に担ぎ上げる。

「ダキ、リサを防壁の中まで運べるわね?」

「うん、問題無い」

 2人は主人とその仲間を担ぎ上げると防壁の門に向かって走り出した。

 ネイアに付いてきた数人の蛮族達も霧に巻き込まれて動かなくなった仲間を担いで撤退する。

 ネイアは防壁の門を潜り怪我人が寝かせられている小屋までアルマとエレノアを運び、木の粗末なベッドの上に自らが羽織っていた外套を敷いてアルマを寝かせた。

 エレノアもその横のベッドに寝かせた後に、直ぐに防壁まで戻り最上部の先端に仁王立ちになる。

 目立つ場所に立っている為に敵の良い標的になってしまい多数の攻撃を受けるが、ネイアは気にも止めずに悪魔を睨みつける。

「貴様等! よくもやってくれたな!」

 ネイアの精霊魔法が発動された。

 先程とは比にならない数の氷の槍が空中から悪魔に向かって降り注ぐ。

 その攻撃が行われている時に門からまた外に出る者がいた。

 黄色のワンピースを着た少女が悪魔達に向かって走り出し、ある程度近付いた所でその場にしゃがみ込み地面に向かって魔術を発動した。

 地面は大きな地鳴りを発した後に巨大なひび割れが口を開き、不意を突かれた悪魔達は裂け目の中に次々と落ちていった。

 悪魔達の数が多数減ったところで大きな裂け目は口を閉じて元通りになる。

 この一連の攻撃により、脅威を感じた悪魔達は再び逃げ出した。

 暫くすると物見櫓から、これもまた聞いたことが無い音色の太鼓が響いた。

「完全に撤退したようだ。敵は撤退したぞ!」

 戦いが終わり辺りは歓声に包まれていたが、ネイアとダキは小屋に戻るとアルマの傍らで座り込んでしまった。





 時止めの術に掛かってしまった者を目立つ場所に置くと戦意を喪失する等の理由で、他の人々と同じようにアルマ達は倉庫に寝かせられる事になった。

 この倉庫は奥の方から時系列順に術に落ちてしまった者達を寝かせている。従ってアルマ達は最も入り口に近い場所で、サグナの妹のアグナの隣に並べられることになった。

 アルマ達の状態を知ったアナが倉庫に駆けつけて来た。

「ネイアさん! アルマさん達は?」

 アルマ、リサ、エレノアは眠っているように目を閉じて、他の者達と同じように薄紫の膜に覆われていた。

 その傍らにはネイアとダキ、そしてダリオが呆然と立ち尽くしていた。

「俺は魔術のことは分からん、少し集落の連中に聞き込みをしてくる」

「あたし、カーラを呼んで来ようかな……」

「そうね、でも時間が掛かり過ぎるわ。もう少しこの術が解けないか探ってみましょう」

「アルマさん……」

 辺りはすっかり夜になっていた。

「リストーニアの皆さんのお陰で今回はなんとか敵を退けることが出来た。ありがとうございます。そして、申し訳ない……私の説明が足りなかった……王女殿下まで巻き込んでしまうとは……」

 サグナが球体の照明の魔導具を持ち、3人の蛮族の戦士を引き連れ倉庫にやって来た。

「力を使い過ぎました。巫女の長、お願いがあります」

「精霊殿、出来る事なら何でも協力します」

「この辺りに泉はありますか? もしくは綺麗な水を用意出来ますか?」

「ええ、それなら女達が水浴びに使っている場所があります。案内させましょう」

 ネイアは2人の男に連れられて倉庫を後にした。

 サグナは食事を持って来ており、アナはそれを受け取りダキと一緒に食事を取ることにしたが正直食欲が無い。

 しかし辛い出来事があっても明日はやって来る。アナは通らない喉に食べ物を無理矢理押し込んだ。

「はぁ、アルマさん達がこんなことになってしまうなんて、どうしよう……」

「やっぱり、カーラなら何か分かるかも知れないし、エルファの森に戻ろうかな……」

「そっか、森って遺跡のことね。ああ、もう、すっかり夜になってしまった」

 アナは心配でずっとアルマの横に座り込んでいたが、ここまでの旅の疲労でそのままアルマにもたれ掛かるように眠りに落ちてしまった。





 ネイアは2人の男に案内され集落の外れにある湧き水を溜めた池に案内されていた。

「ここから先は女だけだ。どうぞ水浴びでも何でもして来てくれ」

「そう、分かりました」

 ネイアは男達を尻目に木々の生い茂る自然に出来た垣根を潜り抜け、水浴び用の池まで来た。

「おい、えらい美人だったじゃないか。あれが精霊なのか、嘘だろ?」

「な、なぁ、人間かどうか確認するだけだ。少し見るくらい良いよな?」

 蛮族の男2人は好奇心と欲望を抑えきれなくなり、生い茂る木々を掻き分け音を出さないように正面とは別の経路から中に進入した。

 慎重に歩みを進め、ようやく池が見えるところまで来て男達は息を殺してエルフ姿の魔術師の女を眺める。

 ネイアは池の側まで来て立ち止まると、まるで脱皮でもするような姿勢を取り人形から離脱する。

 「ドサリ」と音を出し人形は仰け反って崩れるように倒れた。

 本来の姿となった精霊はゆっくりと池の中に入る。

 ネイアは怪訝な顔で水の中に浸かりながら、夜の月明かりでは何も見えない筈の真っ暗な藪の中に向かって声を出した。

「そこにいるのは、先程の男達かしら?」

「えっ!? いや、その、なんで分かったんだ?」

 2人の男達は藪の中から出てきて、慌てて池の前に土下座の姿勢をとった。

「申し訳ない! 本当に精霊かどうか、ただ確認したかっただけなんだ。何でもする、どうか許して欲しい!」

「ふーん、そう。あなた達は戦士?」

「ああ、そうだ。前線で戦っているぞ」

「それなら次の戦いから私の手伝いをして貰うわ。良いわね?」

「あ、ああ。魔術の手伝いは出来ないがいいのか?」

「構わないわ。私の指示通り動けばいいのよ」

 男達は約束して再び謝ると直ぐにその場から退散した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ