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草原の丘の魔術実験

「ロンバルドさん、オルビスさん、ほんとに申し訳ない……」

「まぁ、アルマ達の力を借りる代償というところか。野犬が紛れ込んだ事にして議会から見舞金を出すことになっている。大事にはならないだろう」

 魔術師組合と冒険者組合の協力でダキの一件は誤魔化せる事が出来た。

 話を終えたアルマはアナと共に冒険者組合を出る。

「アルマさん、ごめんなさい。私がダキを見失ってしまったからです……」

「ううん、私がお願いした時に説明不足だったからだよ。アナには話しておくべきだった」

 アルマはリサが説明しなかったエルファの森の遺跡に住む悪魔と精霊の事を全てアナに話した。

「えー! じゃあ、ネイアさんが精霊で、ダキが、あ、悪魔なんですか……」

「うん、多分そうなの。でも、もちろん内緒にして欲しい。ダキはここまで一緒に行動して悪意ある行動を取ることは無かったし、大丈夫だと思うんだけど本当に人の世界に馴染めなかったら、遺跡に返すしか無いね」

「そうなんですか……アルマさんの事を本当に好きみたいだし帰すのも何だか可哀想ですね。もし良ければ私にお手伝いさせてください。何とかして人に馴染む様にしてあげたいと思います」

「ありがとう、アナ」

「いえいえ、私はそれ位しか役に立てないと思って……そう言えば、カーノルディンと蛮族の国に出発する準備はもう始まっているんですよね」

「ええ、そうよ。出発は1週間後くらいかな。情報を色々集めてからになるみたい。その間にまた魔術の実験をしたいんだけど、付き合ってくれる?」

「ええ、もちろん!」





 ──それから3日後。

 アルマはアナ、ネイア、ダキと一緒に魔術実験をする為に城壁の外に来ていた。

 コントリバリーを出て1時間程移動したところで、街道から距離があり誰にも見られることが無いその場所は緩やかな傾斜の丘で一面に草原が広がっていた。

 ダキは御者も出来ることが分かっていたので、荷物が多い今日の実験はエレノアの地竜と荷車を借りて来ている。

 前世の作品が魔術として使えることは以前の実験で証明され、アナに至ってはそれを使って街を救うことまで出来た。

 最初こそ好奇心と趣味だったが、今後の実験は仲間を助ける為の重要事項となり得るかも知れない。

 ケアネイとリストーニアの事を考えると当然ながら悪魔やアンデッドとの戦闘が控えていると考えるべきで、今後は戦闘に使える様な魔術を用意する必要があるだろう。

「アルマさん今日はどの様な魔術の実験をするのですか?」

「うん、実は攻撃出来そうな魔法陣を用意しているのだけど、危ないかもしれないから実験の時は少し離れてね」

 今日最初に実験する作品はネガティブな表現になっている。今回は攻撃が出来る事を期待して持って来た物。

 作品名は『鬱憤の浄化』。

 浄化というから何か綺麗に問題を解決する様な意味持っていそうだが、そんなことは全く無く、学生生活をエンジョイしている若者達への嫉妬と憤怒を歪めて表すという病んだ作品である。

 つまりは『リア充爆発しろ』である。

 魔法陣の意味合いとしては上空に溜まった怒りが標的に降り注ぐという恐ろしいもの。

 この世界で自分の作品を魔術として使うと、どうも意味合いが過剰に出てしまう傾向があるので何か敵に害を与えるのではないかという期待を込めた実験になる。

「じゃあ、最初はこの魔術だけど。荷車から標的を出して並べたいの。手伝ってくれる?」

「この、藁の人形ですね。分かりました」

「はい。あたしも手伝う!」

 4人で作業をするとあっという間に10体ほどの案山子を標的として草原の丘に立てる事が出来た。

 これを敵と見立てて実験をしてみる。

「じゃあ、魔術を発動するから少し離れてね」

「はい!!」

 精霊と悪魔の2人はアルマのすぐ後ろに着いたが、アナだけはずっと遠くまで走っていって、豆粒の様に小さくなったところで大手を振って合図を送って来た。

 それを見届けてから魔術を発動する。

 すると上空で不自然に黒い雲が一箇所の区域にだけ生成されそこから落雷が起こる。

 そのままの意味で青天の霹靂が起こり、その落雷は何度も繰り返された。

(雷が起こせた……これを操作で出来れば……もっと実用的になる)

 落雷の場所をコントロールしようと意識を集中してみると、不思議と黒雲の目線から地上が見えて来た。

 落雷を落とす場所や落雷の回数を意識する事ができる。

 しかし、この間ずっとマナを使っている様に感じるので普通の魔術師に使いこなすのは難しいだろう。

 落雷を綺麗に2回ずつ案山子に命中させて実験を終了した。

「実験は終わりだよ!」

 遠くに離れたアナに合図を送り落雷を受けた案山子を確認しに行く。

 丘の草原は多数の落雷の跡を焦げ茶色にして不思議な模様を描いていた。

 案山子は期待通りに焼け焦げており、中には火を吹いている物もある。今まで精霊魔法の攻撃は周りの人々や建物を巻き込みかねない攻撃が多かったので、こういった点の攻撃は今後有効に活用できそうだ。

「うんうん。今後は戦う必要があるだろうから、上手に使いたいね」

「あれだけの雷を操れるとは素晴らしい術ですわ、アルマ様」

「ありがとう。まぁ。とりあえず使えそうで良かった」

 そして次の魔術実験に取り掛かる。

 次は攻撃手段になり得るか全く見当が付かないが、特殊な魔法陣を用いた実験だった。

 魔術師組合の図書館や勉強会で魔術の基礎は習得した。それを応用して今度は曼荼羅に魔法的な要素を描き魔術として発動するかの実験を行う。

 曼荼羅といってもそれらは密教に限定される訳ではなく、実は様々な解釈の上に宗教を超えた範囲で存在している。今回試して見るケルト曼荼羅という様式は、神仏では無く生き物や植物を曼荼羅に描き自然との共生を表すものが多い。

 今日は大好きな猫を描いた作品を用意している。

 生命を表すシンボルに囲まれ、植物や木々と同化しているような猫が枠を飛び出そうとしている、そんな躍動感のある曼荼羅であった。

 魔法陣とは全く異なる系統の物だが魔術として扱うとどうなるのか。

「よし、それじゃあ、次だけど。これもどうなるかほんとに分からない」

 アナはせっかくアルマの近くまで戻って来ていたが、また先程と同じ位置まで全速力で距離を取り、同じように大手を振って合図をした。

 その他の2人は肩越しから魔法陣とはまた違う丸い形状の曼荼羅を不思議そうに見つめていた。

「じゃあ、いくよ」

 魔術を発動すると数メートル先に風魔法を使った時に見られるような空気の歪みが生じた。

 光が屈折して見えるその歪みはドンドン大きくなり裂け目になる。生命のシンボルや曼荼羅の枠を出ようとする猫の描き方については、ある程度の期待を込めていた。

 それはもちろん描いた動物の顕現。

 過剰に表現される傾向を見越して、猫は丁度良く扱える程度の動物が出るのでは無いかという見込みだった。

「ニャー」

「あっ、成功した!? けど、猫のままだったか……」

 空間の裂け目から猫が飛び出して来て甘えるような声を出す。

 これから先の事を考慮して戦闘が出来そうな召喚獣の虎でも呼び出せるのでは無いかと期待したが、召喚に成功はしたものの描いた通りの猫が現れた。

 猫は召喚した主人に向かって足早に近付いて来る。

 数メートル先の草原の丘に現れた猫は、背景が緑一色だった為に気が付かなかったが近寄って来ると、どうも距離感がおかしく感じられた。

 その猫は異常に大きかった。

 目の前で喉を鳴らし大きなおでこを摺り寄せて来るが、巨体による押し込みでアルマは立っているのが精一杯だった。

「何これ! デカすぎでしょ!」

「アルマ様。何か命令を与えて見たらどうでしょうか?」

「ああ、そうだね。よ、よし、そこに座って待機しなさい」

 動物でいうとサイよりも大きいかもしれない巨大猫は、命令を聞いた途端におすわりの姿勢を取って微動だにしない。

 どうやら召喚の立場上は使役している形なのだろう。

 そこへ興味深そうにしてアナが近付いて来た。

「アルマさん、召喚魔術の実験だったんですか?」

「うん、出て来はしたんだけどね。まぁ、命令も聞くみたいだし、使えるかなぁ……」

 猫の使い方をどうするか考えながら暫くそのままにしていた所で、すっかり慣れて来たアナとダキは巨大猫と一緒に遊び始めた。

 こんな手で猫パンチでもされたら大怪我では済まないかもしれない。

「よしよし、今日はこの辺にしておこうか。お前は、もうおかえり」

「あはは、猫、バイバイー」

 猫は空間の裂け目を作り出し、その中に戻っていった。





 ──出立の日。

 蛮族の国を目指す前にまずはカーノルディンに向かう為エレノアが馬車を走らせる。

「いやー、それにしてもうちのパーティも大所帯になったもんだねぇ」

「そうだな。しかし、今後の道程を考えると戦力は多い方が良いだろう」

「ケアネイまでの道とか東の森については何か新しい情報は掴んだの?」

「いや、残念ながら殆ど得られなかった。森に何かの依頼で入った冒険者が蛮族と遭遇する事はあったらしいが、大抵は睨み合いで終わる。しかし、希に攻撃を受ける事もあったそうだ」

「まぁ、異文化だからなー。なんか挨拶があるとか?」

「分からんが、とりあえずは敵意が無いことを示すしかないだろうな」

 カーノルディンは以前に来た時よりも復興が進んでいる様で、防壁周辺の壊された堀には戦いの後はもう見られず、南側の城壁は元に戻っていた。

 以前は飛び越えた門だが、今回は手順通り検問を受けて街の中に入る。

 貴族の屋敷に向かう途中、以前戦いの場所となった中央広場の様子が伺えた。件の遺跡は柵で覆われており、立ち入り禁止になっている。

 調査中という事と悪魔が狙っていたかも知れない何かが危険な物と考えられたのだろう。

 貴族の屋敷には既に迎えの者が門に立っており、挨拶をすると竜車で敷地内に入るように誘導された。

 その場所でダキが失礼をしては不味いので、アナが散歩へ連れて行く事になった。

「ダキ、勝手に何処かへいっちゃダメだからね」

「あはは、アナは心配性だな。アルマ様に言われた事は絶対守るぞ」

 カーノルディンの街の中は、コントリバリーを模して中央広場から放射線状に区画が出来ている。

 アナはここに来た事はアルマに憑依された時の一度だけで、散歩するにも特に当ては無く、目に付くものを見て回っているだけだった。

 アナとダキは離れない様に手を繋ぎながら市場を往来する人々をただ見物していた。すると衛兵がこちらに向かって来る。

 それに気が付いたアナは悪魔と一緒にいる事に、急に不安な気持ちが込み上げて来た。

(ま、まさか、悪魔だって分かる訳ないよね……)

「お、おい、あんた。アナ・ケトリーさんじゃないか?」

「え? あ、はい、そうです」

「急に話しかけてすまない。俺は以前ここでの戦いで、あんたに命を救われたんだ。ずっと直接お礼を言いたかった。本当にありがとう。今日は神に感謝だな」

「そ、そうなんですか。そ、それは、良かったですね」

 この件に関して多くのことは語れない。

 最近はこの手の勘違いに少し慣れて来てはいたが、この街でも同じ様な事態になっていた事をすっかり忘れていた。

 しかし、アナはこういう事に喜びも感じていた。それは勘違いとはいえアルマの行為が間接的に感謝されている事。

 アナはいつか彼女にも喜びを伝えたいと願っていた。

「あはは、じゃあ、私達は用事がありますので、これで」

「ああ、急に悪かったな。気を付けて」

 あまり話をし過ぎてボロが出るのは不味い、早々に場所を変える事にした。

 今度は市場から北上して以前ゴーレムに壊された防壁の修理工事を眺める事にした。

「あー、なんかこういうのって、ずっと見ていられるのよね」

「ふーん、人間の事を勉強しろと言われたからな。あたしも見るぞ」

 晴天の中、二人は木陰のまだ片付けられていない石材に腰掛けて工事現場を眺めていた。

 心地よい風が頬を撫でるとアナはウトウトと眠りに就いてしまった。


「おやぁ? あんたはカーノルディンの英雄様じゃないのかい?」

「へっ!?」

 まったく気配がしなかった所に声を掛けられて、アナは寝惚けながらも驚き立ち上がる。

 そこには細身のレンジャーの女性が立っていた。

「あなたは確か……」

「英雄には名乗るべきだろうね。あたしはジュリ。つまらない冒険者さ」

「はじめまして、アナ・ケトリーです。こっちはダキです」

「ふふ、こんにちは。お嬢ちゃん。リサ達は元気でやっているのかい?」

「リサさん達をご存知なのですか?」

「ああ、そうだよ。あたし達は例のリストーニアの戦いで一緒だったのさ。私はこの街に残ったけどね」

「そうだったんですか!」

 アナはこれからリサ達と一緒に蛮族の国へ赴き、リストーニア奪還の交渉をする事になるかもしれない。その事をリサの知り合いだと言うことを信用してジュリに話をして見た。

「あははは、相変わらず無茶苦茶な事をしているねぇ、リサは。だけど悪くない話かもしれないねぇ」

「そうですか? もし蛮族と結束出来れば私たちの国からも兵が出せれば良いと思うんですが……組合長がもしかしたら議会を動かせるかもしれないって言っていたんです」

「ふふふ、国が兵を出すか。眉唾物だねぇ。あいつらは蛮族が戦った後に、弱った悪魔を見て完全に勝利出来ると確信しない限り兵は出さないんじゃないかねぇ」

「そ、そんな! それじゃ、蛮族は裏切られたと思っちゃいますよ」

「そういうケチな奴らなのさ。だけどね、あたしら冒険者なら話は別さ」

「冒険者ですか? 国が動かないと大きな依頼は出来ないんじゃ?」

「あはは、違うよ。あたし達は自由なんだよ? 依頼が有ろうが無かろうが関係ない。リストーニアを取り戻したい者達は多いんだ。そいつらを集めるのさ」

「あぁ、なるほど……」

「おおよそでいいけど、リストーニアへ襲撃をかけるのはいつになるんだい?」

「今日、一泊したら東の森のさらに奥にあるという蛮族の国へ向かって出発します。向こうで上手くいっても戻ってくるには1ヶ月以上は掛かると思いますが」

「ふーん。なるほどねぇ、あたしが他この件を話しても問題は無いね?」

「ええ、別に問題無いと思います」

「リストーニアに襲撃する前に一度ここに来なさいな。あんたらの遠征に別な形で手伝わせてもらおうかね」

「それは……も、もしかして義勇軍を集めていただけるんですか!?」

「あははは、そんなしっかりした物にはならないと思うね。まぁ、期待はしないでおくれ」

「はい! ありがとうございます!」





 夕暮れになりアナとダキは宿に向かった。そこは貴族が使うような高級宿で自分達がどういう扱いを受けているかがよく分かる。もちろんこれはアルマやリサ達と一緒に行動している事で得られた待遇だ。

 宿には既にリサ達が戻って来ており、アナが戻るとすぐに食事となった。

「へぇ。義勇兵を冒険者で編成するか。ジュリがそこまで言うなんてね。アナ、相当気に入られたんじゃないの?」

「え? そ、そうなのでしょうか? でもリストーニアの事を思っている人は多いって言っていました」

「悪い話じゃ無い、議会が兵を出す補償は無い訳だからな」

「ほんとねー、何も確証無いのに頑張っているね、あたしらさ」

「リサ、そんな事言わないで。陛下の計画ですもの勝算があるから私は託されたと思うし……」

「そうね、こっちにはエレノアという切り札もあるし。まぁ、大丈夫か」

「貴族の方々とお話はどうだったんですか?」

「まぁ。組合と同じような報告と、向こうからも少し情報をもらったよ」

 リサは会議に参加していなかったアナに簡単な説明をした。

 まずカーノルディンの地下遺跡は損傷が激しく調査は遅々として進んでないが諦めず継続するという事、ロアルリース王国に古代遺跡の文献が存在するという情報が入ったので調査員を派遣したが音信不通になったとの事。

 ここ最近の情報によるとロアルリース周辺も魔族の襲撃などが頻繁に起こるようになって非常に危険な地域になっている為、リサ達に調査依頼があったがケアネイの件があるので後にまた相談するという事になった。

「あとは、まぁ、もしリストーニアを奪還する時にはカーノルディンの兵士を少しなら出してくれるみたいだよ。出来る事は色々都合してくれるみたいね」

「議会にも働きかけると言っていたが、約束は出来ないそうだ。どこも同じような答えだな」

「行き当たりばったりって奴ね。まぁ、なんとかなるでしょ」

 話は纏まりがなく終わり次の日の朝に一行は東の森に向かって出発する。

 街中を走り外へ向かう時にアナは途中ジュリの姿が見えたので大きく手を振った。ジュリは苦笑いをして、早く行けというジェスチャーをしていた。

「ああ、あれがジュリっていう人か。カーノルディンで悪魔に向かって行った人だね」

「ええ、そうです。アルマさんも覚えていたんですね。義勇軍、上手くいくといいな……」

「見送りか?」

「ふふ。相変わらずだね」

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