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遺跡の住人達

 古代遺跡の広場は木々が生い茂っている森の中とは違い日当たりが良くて、3人の優麗な精霊達の色鮮やかな髪の毛が陽の光で美しく輝いている。

 精霊達は皆端麗な顔立ちでそれぞれに個性があった。

 一番外側にいる1人は銀髪でストレートロングヘアに青い瞳、病的なほどに白い肌。

 真ん中に居る者は深緑の髪にウェーブパーマで瞳は茶色。

 最後に一番内側に居る先ほど声を発した精霊は、栗色のロングヘアパーマだが、肌は他の者達とは違い日焼けした様な褐色肌だった。

 こんな状況で無ければ美しい女性を眺めているのは気分が良い筈なのだが、もう一方では悍しい姿をした悪魔が未だ動くことも無く跪いている。

 悪魔達は一番内側に居る者は牛の頭にプロレスラーの様な筋骨隆々の身体で背後には艶やかな白い翼が生えている。

 リサ達とカーノルディンで戦った悪魔のように全身が光沢の無い黒色に覆われて不気味だ。

 その隣にいる者は、体型的には般的な女性で黒色のロングヘアであるところまでは普通に見えるが、髪の毛の間から幾つか潰れた顔が見られ、側面や後頭部からこちらを覗き込み恐怖を掻き立てる。

 そして最後に一番外側にいる者は唯一の救いで、先程までゴーレムに乗っていた黄色いワンピースの少女だった。

 見た目の年齢は10才位だろうか。

 そのような者達に祭壇を背にして扇状に囲まれ長い時間が過ぎていたが、黒髪の悪魔がその沈黙を破った。

「主様。我らはこの時を待ち侘びておりましたわ。そのお身体に全身全霊を捧げて参りました」

「我が主。今世のお身体は如何でしょうか?」

 気味の悪い女とゴツイ牛が鼻息を荒くして尋ねてきた。

 どう答えれば良いのか全く見当が付かない。あの儀式はこの身体にどういう関係があるのか、そもそも自分の身体がここにある意味が分からない。

 今のところ敵対関係にはなっていないが、何かのキッカケで状況が変わるのは避けたい。

 聞きたい事は色々あるのだが、何かボロが出てしまうは不味い。この状況を打破する為にも探りを入れる事にした。

「え、えっと。それは、この身体の事ね。この霊木と、この身体ってどういう関係何なのかな?」

「この大樹は私たち精霊と森の存在を司るもの。アルマ様はこの大樹から復活された存在なのです。そのお身体も大樹から生まれたものでございます」

 精霊達の一番内側にいる褐色肌の落ち着いた女性が説明をした。

「その復活? それってどういう事なの?」

「やはりご記憶が無くなっているのですね。大昔に森を巻き込んだ戦がありまして、アルマ様は一度滅んでしまったのです。しかし大樹は残り、時間を掛けて次第に森は息を吹き返しました」

「そして、数年前に復活の兆しとして大樹の樹洞の中にお身体が生成され始めたのです」

「ふん、我が主は貴様らのいう精霊王などとは違うぞ」

「またその様な事を。貴方達は森の新参者として礼儀がなってないわね」

 説明の途中で牛の悪魔と深緑の髪の精霊が険悪な雰囲気になった。

 そういえば精霊は部外者を聖域には入れない筈なのに、なぜ悪魔がここにいるのかも気になる。

「この遺跡は聖域でしょう? 貴方達は種族が違うよね?」

「この者達は樹洞にお身体が現れた時を同じくして、森で生まれた者達です。追い払おうとしましたが、アルマ様と魂の結び付きを持っていることが分かりましたので、仕方なく受け入れた次第です」

「ふん、当然の事であろう」

「そうです。主様と我らは時同じくして復活したのです」

 全然理解が追いつかないが精霊も悪魔もとりあえず自分の事を主人的な何かだと思っている事は分かった。この流れに乗った方が良いだろうか。

 ここに来た目的は調査な訳だし、このまま聞き込みをして詳細な情報を入手出来れば一連の謎を解く事が出来そうだ。

「じゃ、じゃあ、確かに記憶が無いみたいだから、色々と教えてくれる?」

「勿論です。何なりと仰せ付けください」

 ここまでのやり取りで弁の立つ一番近くにいる精霊に質問して状況を説明してもらった。

 大昔の森を巻き込んだ戦というのは、ハイエルフと精霊達が森を守るために魔族と戦争したらしく、この遺跡は森陣営の本陣として使われ、何よりこの大樹を防衛する為に築かれた物だった。

 この時の戦は精霊以外の多種族とも同盟を組み一緒に戦ったらしい。

 結果として精霊王は大悪魔と刺し違え、その後に敵を封印した事で戦は終了。

 主が大樹から再び生まれるまで長い年月を待っていた。

 また精霊達も寿命で生まれ変わりが有り、ここには戦を知っている者はいない。

 一方悪魔については複数の潰れた顔を持つ女が話をしてくれた。

 悪魔達も同じく主と共に滅び長い年月を経て復活する事が出来た。

 それは前の主が復活出来るように準備をしていたからであるが記憶は共有しておらず、生まれ変わりに近い。

 ただ魂に関する事だけは引き継がれ、悪魔達は魂の結び付きによって主人の居場所を突き止めたが、その場所は精霊達の聖域だった。

 ここ数年は少しでも主人の復活を早める為に、樹洞の中の身体に魂の接触を試み魔力を注ぎ込む儀式を続けて来たらしい。

 そして精霊も悪魔も己の主人は同じと思っている点は一致して、この場所に共存している状態だと言うのだ。

 もちろん前世は女子大生だったわけで精霊や悪魔など全く関係無い。

 大昔の戦というのはコントリバリーで読んだ本と一致しているので、恐らく人間達と一緒に戦ったのだろう。この場所の調査という意味では捗っているが、この世界の新参者としては良く分からない事が多すぎる。

 どうにかしてリサ達にもこの話に参加して貰いたい。

「あ、あの……実は連れがいてね、この話に参加して貰いたいんだけど良いかな?」

「アルマ様の連れ? ですか?」

「あなた達さっきから精霊王の名で主様を呼んでいるけど、それは違うと言っているじゃないの」

「ふん、では貴方の主は何という名なの?」

「名はまだお聞きしてない。主様! どうかその名をお聞かせ下さい」

(げっ! この名前は妖精達に呼ばれたから名乗っちゃったけど、後で本人ご登場とか無いよねぇ……どうしよう……もう、後に戻れないし良いか……)

「……え、ええと。アルマって名乗っているから、とりあえず、そう呼んで貰って良いよ」

「なっ! そ、そうでございましたか。承りました」

「ふふふ、それ見なさい」

「えっと、それじゃあ、あなた達の名は何というの?」

「残念ながら前世の記憶はほぼ失われて、覚えておりませんので……」

「それならさ! アルマ様! 名を貰えませんか!?」

 ずっと黙っていた悪魔の少女がこれまでの雰囲気を壊すような元気の良い声で初めて言葉を口にした。

(うっ……名前を考えろと言われてもなぁ……)

 その場にいた全員が、それを求めていたと言わんばかりに深々と頭を垂れた。

「え、ええ……わ、分かったわよ。その代わり、ここに私の仲間を呼ぶけど、絶対に危害を加えないと約束してね」

「勿論でございます。アルマ様のお仲間に危害を加えるなど有り得ません」

「やったぁ!」

(名前といってもなぁ。『牛顔ガチムチ野郎』とかかな。それはあだ名か……)

「それじゃ、何かヒントっていうか、好きな物とか……とりあえず、みんな自己紹介してくれる?」

 ここはやはり自分の得意分野からじゃないと思い付かない。この世界で前世の神仏から名を頂戴しても問題無いだろう。

 最初に考えたのは牛の悪魔だった。見事に牛以外にイメージが湧かない。

 見た目は肉体派だが、魔法に長けているそうだ。

 一応背中には立派な翼が生えているが牛なのだから仕方ない。

 従って彼には曼荼羅の十二宮の一つ牛宮の梵名からとって、『ヴリシャ』とする事にした。

 女性の気味の悪い顔を持つ悪魔はどうもポジティブな名前が出てこない。

 彼女は3人の中で最も学問に精通しており日々魔術の探求を行っている文系の悪魔らしい。

 これもやはり曼荼羅から閻魔王の妃に数えられる黒闇天女の梵名から『カーラ』とする事にした。

 彼女は吉祥天の妹だが容姿は醜悪とされており、どうしてもその点にイメージが合ってしまった。

 そして少女の名前は少し迷った。

 立ち振る舞いが完全に子供なのだが、彼女はゴーレムを使ったり土魔術を扱ったりする事ができるそうだ。

 容姿とその素ぶりは未発達に見えるという点で、荼吉尼天から『ダキ』とする事にした。

 元々は人肉を食べる鬼女なのだが「足りると分け与える」を知り、曼荼羅に仲間入りした神仏である。

 仏画の中で白狐を使役している姿がゴーレムの肩に乗る少女と一致した。

「よし、それじゃあ。ヴリシャ、カーラ、ダキ、ね」

「ありがとうございます!!!」

 そして精霊達の方の名前の話になったのが、彼女達はそれぞれ森の中で司る場所に存在しているらしく、皆姉妹で水の精霊、木の精霊、長女の森の精霊となるらしい。

 それなら前世のお話等でよく出て来た精霊の種族名をそのまま当てさせてもらうことにしよう。

 青い瞳の水の精霊は『ネイア』、深緑の髪の精霊は『ドリュー』、そして長女の森の精霊は『アルセイ』とする事にした。そのまんま過ぎるが誰も分かりはしないだろう。

「貴方達は、ネイア、ドリュー、アルセイ、ね」

「承知いたしました。ありがとうございます」

「じゃあ、私の仲間をここに呼びたいんだけど、どうしようかな。ずーっと向こうの建物の中にいる筈なのだけど」

「少々お待ちください。私がここまで案内いたしましょう」

「ほう。我らに気付かれず、そこまで接近していたとは」

 霧の様に精霊の長女アルセイが消えた。

 彼女達は霊体的な存在で森の中なら木を使って何処でも好きな場所に瞬時に行き来できるそうだ。

 精霊魔法も当然使えるので、もし敵に回る様な事があったら大変な事になっていたかも知れない。

 暫くしてリサ達がアルセイに先導されて遺跡の広場までやって来た。

 当然だが遠慮気味にトボトボと精霊の後を付いてくるリサ、エレノア、ダリオの3人は、悪魔の姿を目にして瞬時に警戒態勢になった。

「リサ! 敵対している訳じゃないから大丈夫だよ!」

「ちょっとアルマ! その身体! どうなっているの?」

「何があったのか説明してくれ、向こうからでは分からなかったのでな」

「ほう、人間か」

「あー! お前達覚えているぞ! あたし、ビチョビチョになったのだからな!」

「げっ! あの時の少女の悪魔……」

「ちょ、ちょっと、仲良くして! 喧嘩は絶対ダメだよ!」

 リサ達と初めて会った時に破壊したゴーレムはダキの物で、彼女達は初対面では無かったらしい。

 なんとかこの場を宥めて、ここまでの経緯と彼らの存在について説明する事にした。

「まぁ、そういう訳なのだけど、やっぱり私はこの世界の新参者として分からない事だらけなの。どう思う?」

「無茶苦茶な話だけど興味深いわね。それにアルマはやっぱり普通じゃない存在だったって事?」

「いやいや、先方の勘違いかも知れないからさ。情報だけ貰ったらボロが出ない内に帰ろうよ」

「うーんと、まず確認しなきゃいけないのは、リストーニアの悪魔との関係かな」

 悪魔達に質問をしたところ、彼らは今回復活してから森を一歩も出ていないらしく、他の悪魔と関係を持つ事はこれまで無かったとの事だった。

「貴方達。もし別の悪魔達と私が敵対したらどうするの?」

「簡単な事です。アルマ様に敵対する者など種族は関係無く滅ぼすまで」

「そ、そうなんだ。じゃ、貴方達は人間の味方なのね」

「アルマ様がそうおっしゃるのなら人間にも味方しましょう」

「ねぇ、ねぇ。悪魔と精霊達も含めてあんたの言うことなら何でも聞いてくれそうじゃない?」

「うーん、どうかなあ……」

 ここまでの話で大体の報告出来そうな事は掴めてきた。

 とりあえずこの遺跡には悪魔は存在していたが、敵対する存在では無い。

 これを依頼主に報告すれば今回の依頼は達成される。

「あら? そこの人間。お前は封印と呪いを受けているの? そんな状態ではアルマ様にご奉仕できないでしょう?」

 カーラは触媒であろう古びた本を空間から取り出し魔術の準備をした。

「何をするの!?」

「アルマ様、あの者に呪いがかけられている様子。見るに耐えないので解除してもよろしいでしょうか?」

「エレノアの呪い? 解く事ができるの?」

「この程度の呪いであれば造作もない事。直ぐに済ませますのでお待ちください」

 カーラは左手に触媒を持ちエレノアに近づくと、右手をエレノアの大きな痣がある首に当てた。恐ろしい形相の悪魔の手が首に触れ、エレノアは眉間に皺を寄せながらもカーラに身を任せる。

 触媒が白く輝き魔術が発動されるとエレノアの首の痣は真っ黒に染め上がり、その禍々しい形を鮮明に浮かび上がらせたが、やがて塵の様に風に吹き飛ばされた。

 急激な体の変化があった為かエレノアはその場にしゃがみこんだ。

「あ、う。ゴホ、ゴホ、ゴホ。わ、私……」

「エレノア大丈夫? 声が出せるの?」

「こ、声が……。ゴホ、ゴホ」

「カーラ。ありがとう。これって何の呪いだったのかな……」

「この者の呪いは術者に居場所を知らせ、またある程度首の痣が成長すると死に至る術。そして、もう一つは術者に居場所を知らせ無い様にする為の術。つまり矛盾する2つの術が施されておりました」

「矛盾する2つ? それって何で?」

「恐らく一つ目の呪いに後から未熟な者が対抗手段を用いたのでしょう」

「ふむ、と言うことは自分で対抗する術をかけたのか?」

「2つ目の術は効果が続く限り記憶に障害が起こるわ。少し時間が経てば思い出して来るでしょうから本人に聞いて見る事ね」

「とにかく良かった。エレノア」

「あ、ありがとう……ゴホ、ゴホ……」

 遺跡では調査以外にもエレノアの呪いが解除されるなど大きな収穫があった。

 報告の為の質問は終わったので、一行はコントリバリーに帰る準備を始める。

「えっと、この身体って大樹に戻した方が良いよね?」

「何をおっしゃいますか。そのお身体はアルマ様の物ですし、アルマ様以外に扱える者などおりません」

 これまで憑依した身体と比べると正直に言って手足の感覚などの心地良さは抜群に良い。それに何より自分の前世にそっくりな姿な訳だから自分の物だと主張したい気分にはなる。

「それなら頂いてしまおうかな。あと一応、この憑依人形は持って行くから」

「行くとは? 何処かにお出かけになるのですか?」

「え? うん、コントリバリーに帰るよ。人間の街ね」

「な、何ですと!」

 精霊と悪魔達はザワザワと相談事を初めたが、直ぐに話が落ち着いたらしく精霊の長女がこちらに向かって来た。

「お出かけされるのでしたら、供回りをお付けします」

「ちょ、ちょっと、アルマ。悪魔を連れて行くなんて絶対無理だからね」

「う、うん。そうだよね……」

「供回り? いらないよ。大丈夫だから……」

「それは、いけません! 私たちは長きにわたりアルマ様をお待ちしておりました。アルマ様を、大樹をお守りするのが我らの存在意義でございます。数名でも構いません、どうか供回りをお付けください」

「で、でもさ。森から精霊は出ることは無いのでしょう?」

「それでしたらご心配ありません。方法はございます」

「精霊が森の外に出られる方法があるの? 何それ……、ちょっと知りたいんだけど……」

「では、お見せしましょう」

 精霊の案内で広場から少し離れた場所の崩れた建物の遺跡に到着した。

 そこには大きな扉が残っており、魔術的な封印が施されていた。

 扉の横にある球型の彫像に精霊が手を触れると、鈍い音を出して扉がゆっくりと開き始める。その入り口は地下に向かっていた。

「こんなところに地下遺跡があるのか」

「すごい……。これは多分、人間が入るのは初めてだろうね」

 地下遺跡の中は暗闇が続いている様に見えたが、精霊達がその中に足を踏み入れると魔法的な光が辺りを照らし始めた。

 入口から地下に続く階段を降りて長い通路に出る。

 石造りの見るからに古い遺跡なのだが、ボロボロの入口とは打って変わって内部に汚れは無く最近まで使われていたかの様だ。

「古い遺跡には思えないわね。通路の魔法の光は未だ動くってことは動力源が魔石では無いってこと?」

「この森の霊力が全て大樹に集まって来ているのです。その流れを利用した仕組みでしょう」

 通路の途中には植物の装飾があしらわれている美しい扉が幾つか見えた。リサは興味深そうに扉を眺めている。

「ねぇねぇ。この扉開けても良い?」

「ええ、どうぞ」

 幾つかある扉の一つをリサは躊躇なく開ける。そこに足を踏み入れると通路と同じ様に魔法的な光が部屋の中を照らした。

「こ、これは!」

 部屋一杯に敷き詰められていた金属が魔法の光で輝く。

 どうやらここは倉庫だった様で、金属のインゴット以外にも小道具や武器などが部屋いっぱいに並べられていた。

「これだけのミスリルを持ち帰ったら、大金持ちになるわよ!」

「アルマ様がお使いになる分には良いですが……。これは森の物ですよ」

「古代のハイエルフが使っていた武器と言うわけか」

「こ、ここは他にもお宝があるのかしら?」

「……さあ、ここはもう良いでしょう。こちらへ来てください」

「うっ……は、はい……」

 精霊達3人と一緒にさらに長い通路の奥へと進む。

 その先に付き当たった所に、他の扉とはまた違う大きな扉があり魔法的な錠が施されていた。

 精霊が解錠すると現れた部屋は、天井から床に突き抜ける巨大な木の根でビッシリと埋め尽くされていた。その横にある僅かな隙間に十基の豪華な棺が立てかけてある。それらの中身は空だったが、一基だけ憑依人形と思われる人型の影が見えた。

「あれは憑依人形か」

「古代のハイエルフ達が作った物ですが、この森の霊木を使っているので私達にも使うことが出来るのです」

「これを使えば問題無く森の外に出ることが出来ます」

 人形はコントリバリーで見るマネキン顔とは違い、精巧な人を模造しており美しい女性型の体をしていた。

 ここにいる人間の誰よりも羨ましい程にスタイルが良い。

「ところで憑依人形はこの一体だけなの?」

「え、ええ。そうですね」

「じゃあ、一緒に来るのは一人だけってことで良いのかな?」

 アルマが問うと精霊達は何やら集まって相談を始めた。

 こちらにはあまり見せない様に何かをしている様だ。

「ねぇ、リサ。精霊なら一緒に来ても大丈夫かな?」

「あはは。精霊が人間の街に来るなんて前代未聞だね。この調子だと私達の味方になってくれるだろうし。良いんじゃないの?」

「もう! なんて事なの!」

「よし!」

 少し離れたところで相談をしていた精霊達が叫び声を上げた。

 彼女たちは何かで勝負をして当番を決めている様で、その内の一人がこちらに近づいて来た。

「アルマ様。お供は私が努めさせていただきます」

 銀髪と青い瞳の精霊が深々とお辞儀をした。

 『ネイア』と名付けた水の精霊だ。彼女は意気揚々と姉妹達を尻目に棺に向かって歩いて行った。

 棺の前まで来ると特別な儀式などせずに難無く憑依に成功したらしく、こちらに向かって人形が歩き出して来た。

 近くまで来てマジマジと人形を観察して見ると驚いたことに、顔の形が精霊の憑依前の形状そのままで、瞳は青く髪の毛や肌の色までも再現されていた。

 美しい女性そのままなのだが、戦闘用のものだったらしくゴツイ金属の鎧を着ているのでどうも雰囲気を削がれる。

「素晴らしい憑依人形ね。でもなんて言うか……もう少し軽装の方が良いんじゃ無い?」

「承知いたしました。それではエルフの魔術師達の装備が倉庫にありましたので準備いたします」

「ところでこの部屋の木の根って、やっぱり大樹の根なのかな?」

「そうです。この施設では大樹や森の霊力を戦争に使っていたそうで、その装置の一部なのだとか。今となっては、ここのエルフ達も滅んでしまいましたので、詳しくは分からないのですが」

 過去の大戦はエルフも参戦していた事は図書館で調べて分かっているが、ここはその時の施設という事なのだろう。

 リサは金目のものをどうにか貰えないかと画策していた様だが、精霊達が良い顔をしないのでこの場は諦める事にして、一行は地下遺跡を後にすることにした。

 広場に戻ると悪魔達が戻りを待っていた様子でこちらに近づいて来た。

「アルマ様。我ら全員が随伴いたしますので、よろしくお願いいたします」

「えっ! 精霊が一人付き添うことになったからもう良いよね?」

「それはいけません。精霊達と我らはまた違う種ですので別の話。よろしいですね?」

「えーと、ちょっと待って!」

「アルマ、悪魔は断りなさいよ。コントリバリーに連れて行ったら戦になるわよ!」

「どうしよう。牛顔が怖いんだよなぁ」

「ねぇ、2人ともあの小さな少女なら人間にしか見えないわ。大人しくしていれば問題ないでしょう」

「あ、エレノアが喋った……」

「お陰様でね。喋られる様になったわ。ゴホ、ゴホ。まだ喉が慣れないけど……」

 ゴーレムにさえ乗っていなければただの少女にしか見えない。

 これなら見た目は大丈夫だろうが子供の世話なんて出来るか自信が無い。

「じゃ、じゃあ。ダキ、あなただけなら良いわ。ゴーレムは無しね。それでどう?」

「あははは! アルマ様があたしを選んだー!」

「主様、私とヴリシャは何故駄目なのでしょうか?」

「うーん、人間の街に行くからなー。いま人間は悪魔と戦中だから、その姿がちょっと厳しいかなぁ」

「幻覚術でございましたら出来ますが?」

「えーと、きっとバレちゃうよ。たくさん人間が住んでいるんだよ……そうだ! あなた達にはこの遺跡を守護してもらいたいのよ。お願いしても良い?」

「分かりました。アルマ様のお申し付けであれば喜んでここを守護いたしますわ。では供回りはダキに任せることにしましょう」

「そうだ。カーラは魔術に詳しいのよね、色々この世界の魔術について教えて欲しいから、その時はよろしくお願いね」

「はい、喜んで!」

 ネイアとダキをコントリバリーまで連れて行く事になり皆は再び遺跡を去る準備を始める。

 水の精霊は先ほどのゴツイ鎧の装備を変更する為に地下遺跡に戻って行った。

 ダリオは滅多に訪れることが出来ない聖域の遺跡を時間が許す限り調査している。

 この余った時間に魔術に詳しいというカーラと少し話をして見ることにした。彼女の話し方はその恐ろしい容姿とは違い礼儀正しかったので、外見さえ気にしなければここでは話しやすい存在の筈だ。

 自分の作品がこの世界の魔術としてどの様な効果があるかを聞いて見たく、背負袋から羊皮紙の巻物を取り出しカーラに歩み寄る。

「ねぇ、魔術の話を聞きたいのだけど、この魔法陣を見てもらえる?」

「おお! これはアルマ様の独自の魔術でしょうか?」

「うん、そうなるかな。でも自分に発動して見たけど何も起こらなかったのよ。これを見てどう思う?」

「これはまた……アルマ様。この様な魔法陣の描き方は初めて見ましたわ。なるほど────全ては理解出来ませんが、恐らくこれはご本人が使っても何も起こらないでしょうね」

「ご本人って私のこと?」

「そうです。この魔術が効果を発揮出来るのはアルマ様と魂の結び付きがある者だけです。例えば私たちの様な存在でございます。その者が使えば僅かな時間ですが、アルマ様の魔力やマナ等の力を享受出来ることでしょう」

「へぇー、そうなんだ。そんな効果が……」

 地下遺跡からネイアが準備を整えて広場に戻って来た。

「ありがとう、カーラ。また魔術の事を聞きに来るからよろしく」

「お待ちしておりますわ」

 一行はコントリバリーに戻ることにした。

 ここまで使っていたボロボロの憑依人形を肩に担ぐことになったのだが、この新しい身体はなかなかの力があるらしく軽く持ち上げることが出来た。

 今回はダリオではなくネイアが先導している。

 当然彼女は森の管理者の一人なのだから何も問題は起こらなく、獣や魔物には一度も会うことがなかった。

 ダリオがいうには察知しても皆遠ざかって行くらしい。

 あっという間に竜車が待っている場所までたどり着いた。

「リサさん! お疲れ様でした。あれ、人が増えている様ですが?」

「えっ! ちょっと! アルマさん大丈夫ですか!? リサさんこれは一体……」

「まぁ、そうなるよね。だからさ、こっちの抱えているのがアルマで、抱えられているのが元アルマだよ」

「へ……?」

 ブレダとセイジは当然ながら混乱しているので、遺跡であった出来事を掻い摘み話す事にした。

 しかし、ダキが悪魔であることやアルマが悪魔と精霊の主人になってしまった事はまだ黙っておくことにした。

 人の噂が良からぬ方向に広がってしまうのは良くない。

 もちろん依頼主と組合長には話す事にしている。

「こいつら動きたくて、すんごい我慢して……ずっとここに居たのか? そりゃ大変だったな。あははは」

 ダキが地竜2匹を撫でながら大笑いをした。

「もしかして、あなた動物と話せるの?」

「大体の奴らは何言っているか分かるぞ」

「なんと、そんなスキルも存在するのか」

「さぁ、日が暮れる前に森を出るわよ。ゴホ」

「えっ!? エレノアさんが喋った!?」

 一行は日の光が無くなる限界まで進み、以前と同じ場所で野営をする事にした。

 依頼をこなすついでに色々有りすぎて少し混乱気味だが、ようやく一息する事が出来る。

 今回の夜当番はネイアと2人でする事になった。彼女も眠ることが無い種族の様だ。

 ネイアが装備している魔術師用の外套や装備は、よく見るとコントリバリーで見るエルフの魔術師達とは少し違うので、ハイエルフの物なのだろう。

「ネイア。あの森のエルフってもう滅んじゃって一人もいなくなったの?」

「ハイエルフは確かに滅んだ様ですが、それに仕えていたエルフの末裔は森の片隅で生活を続けております」

「それってリサが前に言っていた憑依人形を作っている工房の事かな」

「確かにあの者達は死んだ霊木があれば譲って欲しいと貰いに来ます。粗末な人形を作っている様ですが人間用の物だったのですね」

 全員が寝静まっていたのだが一人だけまたうなされている声が聞こえる。荷車まで見回りに行って見るとエレノアが苦しんでいた。

 彼女の呪いは解けた筈だが、まだ何か問題があるのだろうか。

「うう、くっ……」

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