オマケノフクロトジ
都内某所、とあるビルの一室で『彼ら』は活動していた。
「みなっさ~ん!しあわせですかぁ~?」
はい!しあわせです!教祖さま!
もちろん、しあわせです!
幸せ過ぎます!教祖様!
しあわせです!幸せです!幸福です!
化粧をした怪しい出で立ちの男、その問いかけに答える見た目一般人の人の群れ・・・
教祖の男は更なる問いかけをする・・・
「な~ぜ、あなた達はしあわせなのですかぁ?」
それは、教祖様の書かれた小説を無料で読めるからです!
声を揃えて一斉に答える群衆に、また教祖が訊く・・・
「そう、わた~くしが書いた小説、つまりは・・・」
神の御言葉!しあわせをもたらす福音!
「それを読めばぁ・・・」
すべてが上手くゆく!すべてが許される!
「とどのつまりぃ~この小説は~・・・」
天国への切符!神への旅券!!
「さぁ!今日も小説投稿サイト『小説家にぶろーど!』へアクセスしてPVを増やしましょう!」
増やせPV!稼げユニーク!
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熱狂する群衆から少し離れた所に、三人の男女がいた。
「いかがです?活気に満ちた神々しい光景でしょう?」
「はぁ・・・」
「そうですね、皆さん生き生きとされてますね」
一人は、アラサーのOL風の女。信者の一人らしい。
「ああ、そろそろ『告白タイム』のようですので、私も行かなくちゃ、お二人はこのまま見学を続けてください。きっと、感動されますよ」
女は、そう言うと熱狂する人々の群れへと加わった。
「なんなんすか?『告白タイム』って?」
残された一人が怪訝そうに呟く。
「なんだろうね・・・えーと、君のその恰好もなんだろうね なんだけど」
地味なスーツ姿の男が、隣のオーバーオールを着た人物に訊いた。
「え?フツーの格好で来いと言われたので・・・」
「うん、それが、フツー?なの?」
「えっ?ダメですか?」
若い少女の声が男のダメ出しに疑問を呈した。
「オーバーオールにネルシャツ、アニメのキャップとグリグリ眼鏡。リュック背負って『ア〇メイト』の紙袋って・・・アキバ以外じゃ目立ちすぎだよ・・・」
「この帽子は、アニメじゃなくて『みくみく』です」
「そ、そう・・・おっ、始まるようだね『告白タイム』が・・・」
「こっくはくターイム!」
教祖の男が不気味な笑顔で叫んだ。
「では、これより、みなっさんの本日の成果を神に告白しましょう!」
はい!
はい!はい!はい!はい!
群衆が一斉に鬼気迫る顔で手を挙げる。
「では・・・はい!そこのアナタ!」
教祖が大仰に一人を指さす。
「はい、私は今日、不正に取得した十個のアカウントで、教祖様の小説にブクマとポイントを付けました!」
「おお、何という事を!神に懺悔なさい!わたくしも一緒に神に祈りましょう!」
「ありがとうございます!」
「では、次・・・あな~た!」
「はい、私は『なりすまし』でログインの少ないユーザーのアカウントから、合計100ポイントを教祖様に入れました!」
「これって・・・犯罪ですよね・・・」
「しっ、聞こえるよ・・・もう少し様子を見よう・・・」
オーバーオールの少女とスーツの男は、この異様な光景を見守っていた。
「お許しください!教祖様!私は、サイトにハッキングして、ポイントとブクマのデータを改竄してしまいました!」
「懺悔なさい!さすれば、神はお許しくださいます!」
おお!偉大なる神!小説神よ!我らが罪をお許しください!
群衆が皆一様に両手を合わせて祈った。
「なぜ、わた~したちは、このように罪深いのでしょーかぁ~?」
ポイントとブクマが大事だからです!
「そう!『小説家にぶろーど!』は、ポイントとブクマが命!総合評価で全てが決まるのです!」
総合ポイント!総合ポイント!総合ポイント!
「評価が上がればランク入り!ランク入りすれば、さらにアクセスUP!PV増えてさらに順位がUP!倍、倍、倍の倍々ゲーム!」
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「小説の中身など、二の次!三の次!ランクが上がればそれでいいのです!」
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「上位ランカーの見据える先は、そう!書籍化です!斜陽の出版業界はハイエナのごとく 使い捨てにできるアマチュアを狙っています!」
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「しかし、我々は、それを逆手にとって印税!神へのお布施をGETしようじゃありませんか!」
おお!!書籍化!印税!お布施!書籍化!印税!お布施!
「めちゃくちゃな事言ってますね・・・なんか腹立ってきました・・・」
オーバーオールの少女が、腕まくりをして群衆へと歩き出した。
「おい、ちょっと、君・・・」
「わた~くしを、人気作家にしてくださいませ~!」
教祖様!教祖様!
「わた~くしの名前はぁ?・・・」
ゴーダゴー!ゴーダゴー!ゴーダゴー!
「そう!GODAGO!『GOD』!『AGO』!神よりも前に存在する者!すなわち!わたくしは神!」
ゴーダゴー!ゴーダゴー!ゴーダゴー!
ゴーダゴー!ゴーダゴー!ゴーダゴー!
「待てい!」
オーバーオールの少女が群衆の後ろから叫んだ。
「?・・・どなたさま?」
不気味に笑ったまま訝しむ教祖。
「黙って聞いてりゃ、嘘八百、いい加減な事ばかり言いやがって!」
「な、なに?」
少女は渦の巻いたド近メガネを投げ捨て見得を切った。
「善良で純粋なユーザーたちは騙せても、このカレン様の目の黒いうちは、見逃すわけにはいかねえぜ!」
「あの、あなたの目、青いですけど・・・って、あなた誰?」
「ある時は、お下げメガネのオタク少女・・・
また、ある時は、アキバに生息するキモオタ・・・」
「どちらにしても、オタクなのですね・・・」
「しかして、その実態は!愛の戦士!キューティー・カレンさ!」
「あらやだ、思いっきりのパクリビッチね・・・」
「あなたのような悪徳ユーザーは許せない!満月に代わってお仕置きよん!」
「どこまでも、パクリなのね・・・って、誰が悪徳ユーザーよ!書籍化目指して何が悪いの!アクセス数増やすことがイケナイ事なの?」
「えっと・・・」
用意していた台詞を言い終え、アドリブの利かないカレンの横でスーツ姿の男が口を開いた。
「悪くはありません。ただ、あなたのやっていることは、会員規約に違反しているだけではなく、法律にも抵触します」
「ぐっ・・・あなたは誰?」
「申し遅れました、わたくし『小説家にぶろーど!』の主宰の一人、主に違反の取り締まりをしている者です」
ぶろーど!の主宰と教祖は丁寧に名刺交換を行った。
「ま、まずい・・・」
教祖の笑顔が引きつっている所へ、別の男が声をかけた。
「既存の作品の盗用も少し目立つようですな・・・」
「今度は、誰?」
「私、日本著作権協会の者です」
「や、ヤバい・・・」
「あの、ハリウッド俳優協会の者ですが、俳優たちの名前の無断使用についてお話が・・・」
「えー、『夢の国』の者ですが、悪質なパロディは困るんですが」
「ひぃぃぃっ!」
「賠償金について、そちらさまの代理人とお話しさせて頂きたく・・・」
「いやぁぁぁ!」
教祖は頭を抱えてキレた後、冷静になって信者に言った。
「みなさーん、宗教団体『なんだよ!』は、本日をもって解散です!はい、撤収」
こうして、web小説界の平和は守られたのであった。
ありがとう!カレン!
ありがとう猫ロボ!
ありがとう読者の皆さま!!
そして、さようなら!!!
※この物語はフィクションです。登場する人物・小説サイト・インチキ作者等は架空であり、実在のものとは一切関係ありません。 多分・・・




