セックスと嘘と変身ベルト
「よし!モンスター倒してレベルアップだ!」
「おお!」
カレンの掛け声に乗せられて、俺は部屋を出た。
鼻先に『エッチ』というニンジンをぶら下げられて
鼻息荒く闊歩する俺をカレンは呼び止めた。
「ああ、ケントさん、そっちじゃありませんよ」
へ?
「出口はこっちです」
いや、俺はさっき部屋を出た時も、こっちに向かって歩いて行ったんだが・・・
「またグルグル廊下を歩き回るつもりですか?
廊下フェチもほどほどにしてくださいね
いくら変態さんでも廊下なんかより、こっちの方がいいですよね」
両手で自分の胸を持ち上げるカレン。
そりゃぁ、もちろん・・・
って、ちょっと待て
コイツ、さっき俺が間違った方向に歩いていたのを知ってたな
知ってて黙っていやがったな・・・
そうだ。この女はそういう奴だった。
「あれ?私の完璧ボディより、廊下の方が興奮しちゃったりします?
もう、筋金入の超弩級変態廊下マニアさん(童貞)なんですね」
俺のそっちの経験値をわざわざカッコでくくるな!
この女、職業変更とやらをして、
エッチできるようになったら俺を裏切りそうだな・・・
『こんな変態な童貞と私がエッチするわけないじゃないですか』
とか言いかねないな・・・
「早く行きますよ!ケントさん」
早歩きで出口に向かうカレンの鼻息は俺以上に荒かった。
「ああ、もうヤリてぇ!早くヤリたくてムラムラする・・・」
おいおい、すっかりキャラチェンジしているぞ、カレン・・・
俺は鎧をガチャガチャと鳴らしながら、欲求不満魔術師の後をついて行く。
歩きにくい
今は筋肉増強魔法のおかげで普通に歩けるが
魔法が解けたらどうなるんだろう・・・
「なぁ、カレン、俺は普段からこの鎧を着ていなきゃいけないのか?」
「はぁ?何言ってるんですか?
今、急いでるんですから、くだらない質問は後にしてください」
「だから、こんな鎧着けてちゃ、急ぎたくても急げねぇよ」
「なら、戦闘開始まで収納しといてください」
「収納?」
「手首の下あたりにスイッチがあるでしょ」
「ス、スイッチ?」
「ああ、もう!」
カレンが足を止め、俺の鎧の手を掴んでひっくり返した。
「ほら、これですよ」
十字キーとA、Bの二つのボタンがあった・・・
おいおい・・・
俺だってガキの頃にゲームやったことくらいあるんだぞ
これ、ゲームのコントローラーじゃねえか!
なんだこの鎧!
「Bボタン押しながらAを押してください。それで収納です」
ダッシュとかしないだろうな・・・
「ちなみに、マイクがついているのは左の方だけです。
あまりつかう機会はないですけど・・・」
鎧だよね、これ、伝説のゲーム機じゃないよね?
「それから、裏技で、
右、右、左、左、上、下、上、下、A、B
って押すと最強になります」
やっぱ、ファミ〇ンじゃねーか!
とりあえず収納することにした。
Bを押しながら、A・・・と
ガシャン!ガシャン!ガシャン!
おお!
鎧が音を立てて重なり合い、最後はベルトの形になった。
でも、なんかこれ、日曜朝の変身ヒーローのベルトみたいじゃね・・・
「すげぇ!なにこの鎧?この世界の技術すごいな!」
「まぁ、それも魔導具ですから・・・」
「ま、どうぐ?」
「そんなことより、ケントさんその恰好で歩くつもりですか?」
え?・・・ああ!
俺は、あの爺さんが履くような膝丈パンツに
よれよれのランニングシャツ(とてもタンクトップとは呼べない代物)という出で立ちで、その上にヒーローベルトを巻いている。
これじゃあ、それこそただの変態だ・・・
変態ヒーローだ・・・
「なぁ、魔法でこの世界の服とか出してくれよ」
「なに、カレンえも~ん的な事言ってるんですか、魔法は万能じゃないんですよ
耳無し猫ロボのポッケじゃないんです!街にでも行ってお店で買ってください」
「なんだよ、ケチえもんだな・・・で、この鎧どうすれば元に戻るんだ?」
「ポーズを取るんですよ。すると鎧が装着されます」
ポーズ?
「変身ヒーローのポーズみたいなものですかね」
「どうやるんだ?」
「いいですか?こう、右手をクロスするように突き出して・・・」
おう・・・こうか?
「それを円を描くように回します」
こ、こうだな・・・
「で、左手を突き出すと同時に・・・」
同時に?
「変態!」って叫びます。
変態?
「ああ、そっちの、ケントさん側のヘンタイって意味じゃなくて
蝶々が羽化する『変態』の事ですよ」
おう、変態だな・・・
「変態!」
ん?変わらないぞ・・・
「で、両手で股間を押さえて『いや~ん!』って言うんです」
「いや~ん!」
・・・おい・・・やっぱ変化ないんだが
「それを最初から続けてやってください」
本当だろうな?
「ええ、魔導具ってそういうものですから」
わ、わかった。
いくぞ・・・
俺はカレンに教わったポーズを取り、叫んだ。
「変態!」
そして、股間を押さえて
「いや~ん!」
・
・
・
変わらないんだが・・・
「ぷぷぷ!」
カレンが大笑いしだした。
「ケントさん!そんなポーズで鎧が出てくるわけないじゃないですか!」
涙を流しながらキャハハと本当に腹を抱えて笑うカレン。
「まったく、カエル並みの知能にもほどがありますよ」
胸を揺らし笑い続けるビッチ魔術師。
「脳みそだけ人に戻らなかったんですかね?
それともヤンキー校のレベルって、やっぱその程度なんですかね」
性格は最悪だが、爆笑する顔も可愛く見えてしまう・・・
『エッチしましょう』という魔法の言葉の威力恐るべし・・・
「お前さぁ・・・」
「きゃはは、なんですか?ケントさん、ぷぷぷ!」
「ホントは俺とエッチする気ないだろ」
「へ?」
「ジョブチェンジとやらをして、エッチできるようになっても、俺とはしないだろ」
「あ・・・」
カレンが笑顔のまま固まった。
「やっぱそうか!なんだかんだ理由をつけて俺じゃだめだとか言うつもりだな!」
固まったまま動けないその美しい顔に、冷や汗がタラリ・・・
「そこら辺のイケメンでもナンパして、そいつとするつもりだったんだな!」
「ななな、なんでわかったんですか!」
「わかるわー!バレバレだ!」
「完璧な計画が、童貞ヤンキーエロガエルにバレていたなんて!」
やっぱ、コイツは最悪のビッチだ。
「でも、モンスター退治には行きますよね?
指ぐらいだったら谷間で挟んであげますから、ね?」
行かねーよ!
次話予告
明日という字は、明るい日と書く。
未来という字は、未だ来ずと書く。
明日はやって来るのか?
未来は明るいのか?
微かな希望に胸と股間を膨らませ
少年は一人で装着して使い心地を試してみるものだ。
次回「明るい家族計画」
ええ、下ネタから少し離れようかと思っています。




