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薄さ0.03ミリ

 ドックン!

 ドックン!

 俺の鼓動が人生最大級の音を立てて脈打つ。

 目をつぶっている時間がやけに長く思える。


 まだか・・・

 まだなのか?


「あの・・・」

 姫の素敵な声に俺は少し薄目を開ける。

「みなさん、恥ずかしいので・・・

 その、少しの間、後ろを向いていただけませんでしょうか」

 固唾を飲んで静まり返っていた一同、回れ右。


 そうだそうだ

 これは見世物じゃない

 無垢で可憐な美少女と悲運な少年の一大イベントだ

 汚れた大人たちはあっち向いててくれ!


 では

 あらためて・・・

 ああ、また姫の顔が近づいて・・・

 いい匂いが濃くなる・・・

 ああ・・・美少女の吐息が顔にかかって・・・

 来るぞ

 遂に、俺は大人の・・・


「や・・・」

 ん?


「やっぱ無理!」


 そう言って姫は俺を床に叩き付け

 ダッシュで部屋を出て行った!


――スロー再生――

「やっぱぁ むぅりぃぃぃ!」

 べぇちゃゃゃっ!


――1カメ アングル――

「やっぱ無理!」

 ベチャ!!

――2カメ アングル――

「やっぱ無理!」

 ベチャ!!

――3カメ アングル――

「やっぱ無理!」

 ベチャ!!


 床にへばりついた俺を見てカレンは言った。

「やっぱ、そうよね・・・カエル相手にキスなんか・・・」

 周りの奴らも口を揃え

「カエルじゃものなぁ・・・」

「カエルですものね・・・」

「カエルじゃな・・・」

 なんだよ!そんなにカエルじゃダメなのか?


 で、俺はというと、床で平面ガエルになっていた。

 薄さ0.03ミリ、装着感ゼロみたいな・・・

 十六年余りの人生で最薄の体験だ・・・


「これ・・・カエルですよね・・・スライムとかじゃないですよね」

「カエルだと思うが・・・」

「うむ、多分カエルじゃ・・・」


 鉄板の上の『もんじゃ』みたいになっている俺を

 カレンはフォークでツンツンしながら言った。

「てか、生きてるんですかね?これ・・・」

「どうですかね・・・」

「どうじゃろ・・・」


 生きて・・・ます・・・



次話予告

 「はい、こちらはカスタマーセンターです」

 無機質な機械の声がたどたどしい。

「ご希望のお問い合わせ番号を選択してください」

 『1』から始まり延々と聞かされる選択肢。

 どれもピンとこない内容に『0』を選択・・・

「オペレーターにお繋ぎいたします」

 数回呼び出し音が鳴った後

「ただいま電話が大変込み合っております。しばらくこのままで・・・」

 すぐさま電話を切る。

 このルーチンを何度か繰り返しあきらめる。

 ああ、なぜブルーレイHDDプレイヤーは、こうも壊れやすいのか?

 高画質に釣られて買ったエッチなBDが見れずに途方に暮れる・・・


次回「お客様サポートセンターは、大抵すぐにはつながらない」


 長いよ!予告もタイトルも!



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