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俺が人生やり直して幼馴染救うまで

作者: ぷにぷに

 『勇気』というのは、どうすれば身に付くのだろう。俺は、様々な場面でそれを望みながらも、手にすることが叶わなかった。

 今日、好きだった幼馴染が同級生の執拗ないじめで自ら命を絶った。

 僅かでも力が――勇気があれば、彼女を救うことが出来たかもしれないのに。

 見ていることしか出来なかった俺は、守れないまま――想いを伝えることが出来ないまま、大切な幼馴染を失った。


□■


 灰色の空から、ぽつり、と雨粒が落ちる。それを契機に強さを増した雨は、幼馴染の眠る墓の前で呆然と立ち尽くす俺を責めるかのように頭に、肩に、突き刺さる。


 今まで、平凡な人間なりに多くの失敗と、後悔をしてきた。

 些細なことで落ち込む、泣き虫な俺を小さな頃から支えてくれたのは、勝気な幼馴染だった。「私が付いているから」そう言って笑う彼女は俺の光で、憧れで、――初恋の人だった。


 ずっと彼女に助けられてきた。なのに俺は、彼女を助けられなかった。


 あいつがいじめに屈するわけないと思っていたから。あいつが俺を頼ってくれなかったから。――だからあいつは死んだ? 違う。俺は気付いていたはずなんだ。朝、登校してくるあいつの顔が不安で少し歪んでいたこと。時々泣きそうな目で俺を見ていたこと。



 ――俺が勇気を出して行動していれば変えられたはずなんだ。


 ――俺のせいであいつは死んだ。


「ああ――」


 今更願っても仕方が無い。それは判っている。でも俺は、もう一度やり直したい。俺は――。


「勇気が欲しい――」


■□


「あなたに、チャンスを与えます」


 一頻り泣き叫んで、気が付いたら見知らぬ場所に居た。どこまでも白色の景色。その白に溶け込むように、純白のドレスを着た美女が立っている。


「は、はい……?」


 素っ頓狂な声が出た。


「私は地球の管理者。あなたに提案したいことがあります」

「か、管理者……?」

「詳しいことを説明している時間はありません。必要最低限のことだけ伝えます」

 透き通るような声で、女神は続ける。


「まず確認です。あなたは大切な人を救いたい、人生をやり直したいと考えている」

「……はい」


「そして勇気が欲しいと願っている」

「はい」 


 世界の管理者を名乗る女性は大仰に手を広げて言う。


「あなたの望みを叶えましょう」


「ほ、本当ですか!?」


「ただし、条件があります。これを見てください」


 彼女が下を指差すと、白い地面――地面と言っていいのか曖昧だが――に映像が映し出される。


「これは、惑星……?」


 映し出されたのは、宇宙空間にある丸い星だった。


「はい。ここは私が管理しているもう一つの惑星。もともと人類が住む星なのですが、不幸にも魔王が生まれました。彼は配下を増やし、人類を絶滅させることを目的としています。魔王による支配の先に待つのは惑星の消滅のみです。どうか救ってはくれませんか」


 彼女が本当に管理者とやらなのかは判らない。しかし彼女の言う通り魔王とやらを倒せば、幼馴染を救うことが出来るかもしれない。


 藁にも縋る思いで、俺は首を縦に振った。


「ではあなたを転送します。各種身体能力は向上させておくので、戦闘に関してはご安心ください。基礎的な知識も付与します。どうか、救ってください――」

 

 そうして、俺の視界は暗転した――。

□ ■ □

 ――聞いてくれるか、俺の、違う星での話。

 違う違う、いつもの作り話じゃなくて、これは実体験なんだ。


 とある事情で別の星に行くことになって、地球の管理者って名乗る女神さまに魔王倒せって言われたんだけど。


 ――テンプレなんて言うなよ。こっちは必死だったんだから。


 俺が送られたのは、その星で一番大きな国の城の、祭壇、みたいなところだった。

 そこで待っていた姫様に何やかんやの説明受けてさ。はは、やっぱりベッタベタだな。


 その後しばらく城で力を付けた後、姫様と、その護衛の一人が俺の魔王討伐に付き合ってくれることになってさ。

 どうしてその2人だけだったかっていうとな。もともと魔王を倒さなきゃいけない、ということで、少人数のパーティがいくつも組まれてたから、城に残ってた実力者っていうのが、その2人だけだったんだと。

 そうそう、姫様は実はとんでもなく強くてな。単純な武術だったら、俺も最後まで勝てなかったんだ。


 最初のうちはな。みんな「どうせこのパーティも駄目だろう」っていう空気だった。2人が実力者っていっても、それより強い人たちで組んだパーティですら、魔王討伐に失敗しているから、想定内っちゃ想定内の空気だったんだけどな。


 俺たちは、修行がてら色々な場所を回って、仲間を集めていった。

 無口なのに長ったらしい呪文の詠唱はすらすらと言えるエルフの魔法使い。

 筋肉筋肉うるさい筋肉バカの獣人の盾役。

 やたら自信過剰で、武器に関するこだわりは超一流のドワーフの鍛冶師。


 凛とした武闘派の姫様と、毒舌家のアサシン兼業護衛、そして俺を含めたこの6人が、最終的に魔王を討伐したときのメンバーだ。


 地球じゃ見られないような、美しい景色や巨大なモンスターにもいっぱい出遭った。

 宙に浮く大陸があったり、溶岩を吐くでっかいドラゴンがいたり。今だから言えるけど、楽しかったな。


 正直な、途中何度も挫けそうになった。お前の言うとおり、俺は弱虫だったからな。

 でも、どうしても叶えたい想いと、目標があったから。だから頑張れた。ありがとう。

 それにこの経験が無かったら、こうしてお前を助けられなかったかもしれない。

 俺は確かに、勇気を手に入れたんだ。変われたんだ。



 好きだ。


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