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Revenge  作者: ひまじん
第1章 痛みに呻く
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今回視点の切り替えが何度かあります。

 男は今、恐怖している。

 前でうずくまりながらこちらを睨みつける少年に対して。

 いや、その少年の瞳に対して。

 その瞳に宿っているのは決して良い感情ではない。

 むしろ真逆、何か恐ろしい信念を感じさせるような瞳をしている。

 おそらく少年はこう思っているだろう。


————————————殺してやる。


 そう思った瞬間体中の痛みがすべて怒りへと変わっていくようだった。

 その顔を怒りにゆがめ、まだ痛むみぞおちを抑えながら立ち上がる。

 膝蹴りを食らってから追撃は来なかった。何故かは分からないが好都合だ。

 タイチは男を睨みつけながら拳に力を込める。

 ものさしは地面に落ちているが、怒りによって視界が狭くなっているため気づかない。


「いい目をしているな。どうだやり返してみな」


 男が挑発するように言ってくる。


「お前から来い、ぶっ殺してやる」


 もはや怒りの頂点に達しているタイチに挑発は通用しない。


「じゃあそうさせてもらおう。・・ファントム!」


 相手が技名を言い出した瞬間にタイチは走り出していた。

 少ししか距離はないが、全力で駆けていく。

 本体から分身した影が攻撃をしてくるが、タイチはかわせる攻撃と致命傷だけをかわして走る。

 かすり傷程度なら気にも留めなかった。




 30人ぐらいの同じ見た目をした男の中から本体を見つけることなどまず不可能なはず。

 はずなのに・・・なぜこいつは俺から目を離さないんだ!

 少しづつ近づいてくる少年はまっすぐこちらを見ている。

 しかも何故だ・・・こいつは痛みを感じないのか!

 さっきから直撃とはいかなくても多くの傷を与えているはずだ。なのに


「死ねぇ!!くそがぁぁあああ!!!」


 肉薄してきた少年が鬼の形相で殴り掛かってくる。


「ミスト!」


 したからみぞおち目掛けすくい上げる様にボディブローをくらわせる。

 少しだけ当たった感触がしたが液体のように溶けていく。

 影に当たった感覚はなかったはずだが・・・さっき聞こえた「ミスト」と関係あるのだろうか。と少し冷静になった頭で考える。


「お前、何した。俺は確かにお前を殴ったぞ。」


 答えは返ってこないだろうが聞いてみる。


「何をした?だって?、それはこっちのセリフだよ」


 質問を質問で返される。

 相手が答えてないのだから答える必要などないだろうが、答えてやろう。

 しかし何をしたかって言われてもな。


「ただ殴っただけだ」


「嘘をつけ、アレは確かに人間の限界を超えてた」


 何を言っているんだコイツは?


「なぁ少年、俺と手を組まないか?あれが能力だとしたら君は強力な能力を持っていることになる」


 俺はこいつの話を断ろうとして、気づいてしまった。

 だが、俺はその事実を認めたくはなかった。

 俺はコイツから攻撃を受けて、痛みを負って、気づいたら人間の限界を超えていた。

 だとしたら俺の能力は・・・


「まぁいい、今日は君に免じて許してやろう。では少年また明日会おう、それまでにどっちにつくか良く考えることだな」


 そう言い残すと男は消えていく。

 俺は、戦いの度に毎回こんな痛みを背負って戦わなきゃならないのか・・・


「大地君大丈夫だった?」


 いつの間にか隣にいた楓さんが俺を心配してくれる。


「大地君、あなた能力が「楓さん」


 俺は楓さんの言葉をさえぎって、


「俺は戦わない」


 そう告げた。

 それを聞いた楓さんは目つきを鋭くする。


「なぜ?」


「嫌なんです」 


「それは通用しないわ。前に言ったわよね?能力を持った以上戦うことが義務だって」


 すこし楓さんの口調が強くなっていることがわかる。


「ええ、聞きました。でも俺は、毎回あんな痛みを背負って戦わなきゃならないのか?」


「戦う以上それは仕方ないわ」


 この人は、人の痛みが分からないのか。

 他人の苦しみが分からないのか・・・!


「俺には戦う理由がない」


「だからさっきも「義務だろ?もう聞き飽きた!」


 自分で口調が荒くなるのがわかる。だが、一度口に出してしまうと止まることはない。


「俺はただの高校生だ!義務ってなんだよ!そんなものを、俺に求めないでくれ!」


 自分で逃げるための言い訳だと気づいてる。

 それでも、どうして自分だけ。そう思わずにはいられなかった。


「現実を見なさい!嫌だから、自分に義務なんてないから、そんなの通用しないわ」


 楓さんが声を荒げて叱るように言い放つ。

 大人の人だから言えることだ。

 だが、俺はまだ大人じゃないから義務なんてわからない。

 ただひとつわかるのは、この人は俺に痛みを強要している。


「俺の中のあんたはカッコいい人だ。俺の中のあんたを・・怖い人にしないでくれ・・」


 何かを言おうとするが口を閉ざす楓さん。

 きっと何を言っても無駄だと思ったのだろう。

 自分でもなんてことをしたんだろうと後悔してる。

 それでも俺は、言い訳ばかり重ねて自分を正当化しようとしていた。


「楓、もうええじゃろう。痛いのは誰だって嫌じゃ」


 爺さんが楓さんに語り掛ける。

 そうさ、痛いのは誰だって嫌だろ。ましてやそれが、強要されるものだとしたら、なおさら嫌だろう。

 楓さんはため息を一つはいて手に持っていたものさしを刀に変える。

 いや違う。ものさしに刀のように刃がついたのだ。

 楓さんはその刃先をこちらに向ける。


「あなたは戦わなくていい。でも、ほかの者と組まれると厄介だわ。悪いけれど、死んで頂戴」


 一瞬だけ悲しい顔をして、明らかな敵意を向けてこちらを睨む。

 気づけば俺は走り出していた。

 楓さん達は追ってこない。

 なぜ俺がこんな目に!なぜ俺だけが!!


「くそぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおお!!!!!!!!!!」


 のどが張り裂けるほど叫び、走る。

 ただひたすらに走る。

 砂ばかりだった風景がいつの間にか元の景色に戻っていることにも気づかず。

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