戦う痛み
「・・・・どこだ・・ここは」
見渡す限り一面の砂漠の世界を見渡し呟く。
冷たい風が肌をなでるように吹き、月光がぼんやりとこの孤独な世界を照らしていた。
いまだに混乱したままだが考える。
ここはどこだ、なんてことは分からない。ただわかるのはここは俺がいた公園ではないこと、そして日本でもないだろうということだけだ。
夜なのか暗いため、少し回りが見ずらいが歩こう。
俺は目的もわからないまま、ただひたすらに広い砂漠を歩くのだった。
なんもねぇな。
俺はそう思いながら砂漠を歩いていた。
もう何十分歩いただろうか。そろそろ足が痛い。
少し休もうかとその場に座り込みどうするかを考えていた。
そんな時だった、何か近づいてきた。
考え事をしていたため少し気づくのが遅れたが、今なら逃げようとすれば逃げられる。
しかし、俺はこちらに向かってくる影を眉間にしわを寄せながら凝視する。
それが人間の影だと分かった俺は、その陰に向かって歩き出した。
「はぁ、はぁ、あー疲れた」
影の主は、長い赤髪をポニーテールにした綺麗な女性だった。
「大丈夫ですか?」
「ええ、はぁ・・大丈夫よ」
俺の心配に、意志の強そうな瞳をこちらに向けて微笑みながら答える。
すると彼女は急にその顔を引き締めて、
「それよりもお願いがあるの」
俺を見つめながら、
「私達と共に戦ってちょうだい」
とそんなことを言ってきた。
俺は彼女が何を言っているのか理解できなかった。
「どういうことですか?」
「話は移動しながら。そうね、でもこれだけは先に言っておくわ」
拒否権はなさそうだな。
彼女は踵を返し、もと来た道を見つめながら。
「戦う理由を見つけなさい」
そう告げた。
彼女の背中を見つめ、俺はなぜか彼女に、憧れのような感情を抱いていた。
移動中の話をまとめよう。
彼女の名は「天野楓」。
ここは通称「反転世界」、能力者が「反転」といえばランダムで世界が選ばれそこに転移する。
能力とは、戦いへ参加するチケットであり武器。そして、能力者とはその武器を手にした者。
能力には発動条件があるらしい。それを知るには自分で探すしかないそうだ。
ここまでが俺が聞いた話である。
楓さんに戦う理由を聞いたら「能力を持った以上、戦うのが義務だからよ」だそうだ。
俺は、そんな理由で戦っていけるだろうか・・・
だが、この状況でそんなことは言っていられない。
「くそ!なんだこれ!」
移動中に「とりあえずこれで叩けばいいわ」と渡されたスチール製の50㎝ものさし。
そのものさしでさっきから同じ人を何度も何度もたたき切っていた。だが切るたびに液体のように溶け、地面に消えていくのだ。そしてまた同じ人が現れる。
「とりあえず切って!私は攻撃できないけどあなたならできる!」
仲間の防衛をしている楓さんが声をかける。
楓さんは相手から受けた攻撃でこの分身の能力「ファントム」の能力者を攻撃できないそうだ。
それに加え、楓さんの仲間二人の能力はどちらもサポート系の能力らしい。
だから迷い込んだだけの俺を頼ったわけだ。
「大丈夫!僕とこの爺さんでサポートするから!」
「まかしときぃ!」
そう言ってくれたのは、やせ型の眼鏡をかけたいかにもサラリーマンという感じの男性。
名前は聞いていないが、能力は「サイン」、相手と契約を結ぶ能力らしい。
そして、爺さんと呼ばれたのは、筋肉ムキムキで片手で人を殺せそうな老人だ。
能力は「リセット」、時間を戻す能力らしいが、詳しいことは聞いてない。
「くそ!めんどくせぇ!」
ものさしの長さに物を言わせ、薙ぎ払う。
一気に3人ほどの影が消え、4人目にあたるとガッ!っと鈍い音が鳴る。
鈍い音を発した影は後ろへ下がり、こちらを睨んできた。
「それが本体よ!追撃して!」
たぶんそうだろうと思った俺は既に走り出している。
ここまでくれば届く!
ものさしを振り上げ、右上から振り下ろす。
しかし、本体がさらに後ろへ下がり、本体が元いた場所から出てきた影が俺の攻撃を防ぐ。
俺の攻撃を防いだ影はそのまま消えていった。
「運良く当たったみたいだが、たかが一般人が能力者に敵うとでも?」
本体の、見た感じ30歳ぐらいの男は、ニヤリとしながら挑発をしてくる。
「うるせぇ!あと100回ぐらい当ててやるぜ!」
「当ててみなよ」
男はなおもニヤニヤしながら、後ろへ下がっていった。
「ここまで来ればいいか」
「あ?てめぇの死に場所でも決めたのか?」
なかなか本体に当たらず、イライラしてきた俺は思わず口調が荒くなる。
「威勢がいいじゃないか。だが、判断力が足りないな」
そう言われ周囲を確認して今更気づく。
「やられた・・!」
「簡単に挑発に乗ってくれてありがとう。お察しの通り君は今、孤立状態だ」
もともとニヤニヤしていた顔をさらにゆがめて笑う。
まずい!下がらないと!
「もっと早く気付くんだったね」
背中に重い一撃を食らう。
俺が苦しんでいる間に前から本体の男が歩いてくる。
俺は砕けるほど歯を食いしばり、射殺すように男を睨みつけた。
「ここが死に場所になるのは君の方だったね」
男はそう言って、笑いながら俺のみぞおちに膝蹴りをくらわしてくる。
「が!あ・・あ・・、はぁ!、はぁ!」
あまりの痛みに声を上げようとするも声が出ず、呼吸も出来ない。
タイチは男を睨みつけながら思う。
————————————絶対に殺してやる。