始まりの日
「じゃあ早速、自己紹介といこうか」
担任の声がほどほどの緊張感に満たされた教室内に響く。
入学式を済ませ、あとは帰るだけだという状況から担任が乱入してきてみんなを席につかせてからのこのセリフだ。
ぶっちゃけ明日でもよくないか?
「なぜ今日かというとだな、君達に宿題を出すためだよ」
担任が前の席の奴に「後ろに」と言いプリントを配っていく。
苗字が「村雨」の俺は、ほぼ真ん中あたりの席にいる。
プリントには名前らしきものが書かれてある。とゆうか「村雨大地」とあるため、名前で確定だろう。
プリントを見て大体の奴らが把握したようだ。
一通りプリントを配り終えた担任は、教室内を一瞥し、
「もう分かった者もいるだろうが、宿題とは全員の名前を憶えてくることだ」
たぶんそう言うだろうな、と思っていた俺は、早速どんなことを言うか考えていた。
「では自己紹介といこうか。1番からでいいよな。えーと、暁さん前に来て」
「はい」
「出身中学と名前と趣味・・・他なんかあるか?」
担任が質問するが、この緊張感で答えれる猛者など
「好きな食べ物!」
いましたね。しかもかなりベタな質問だし。
先生も返答が来るとは思っていなかったのか、少しだけ驚いているようだった。
「じゃあそれでいこう。出身中学と名前と趣味、そして好きな食べ物で」
「はい、雨宮中学校出身の暁紗江です。趣味は、えーと・・」
最初はサエか。
中学から一緒でよく話をする間柄だ。
サエは、少しだけ青みがかった黒の髪をミディアムにした、天然少女だ。
「料理です。好きな食べ物は・・・りんごです」
サエは一礼してみんなの拍手の音が響く中、自分の席へ戻っていく。
「りんごか・・うん、うまいよな先生も好きだぞ」
担任よ、特にいうこと見つからなかったのか?
ハイ、じゃあ次と担任が次の自己紹介を促す。
戻ってくる時サエと目が合い、サエが少し微笑んだのでニヤリと笑って返してやる。
その横を見たことのある少女が通る。
「神楽凛・・」
呟くように言ったのは、綺麗な長い白髪の少女。
そう、昨日の少女だ。
神楽凛っていうのか。
無表情で、声には感情がないようだ。
「趣味は裁縫、好きな食べ物は饅頭」
顔色一つも変えずに自己紹介を続ける神楽。
感情を感じさせないその目が大地をとらえる。
見てる・・よな。
どうすることもできずにただ見返していると、担任が適当な一言を挟み、次の人へと促す。
俺は、だんだん恥ずかしくなって目をそらすのだった。
あらかた自己紹介も終わり、 担任が「そう言えば自分の自己紹介してなかったな!」と笑いながら自己紹介をすました後、帰ってもいいと言ったので、俺は帰る支度をしていた。
俺の自己紹介だって?野郎の自己紹介なんて聞いて楽しいかい?そういうことだ。
帰る支度をすまし終えた俺は、そそくさと帰ろうとする。
「おい、置いてくなよ~」
そう言って後ろから声をかけてきたのは「八雲龍司」、中学からの友達だ。
「なら、置いてかれないように早めに準備しときな」
本当に忘れていたのでごまかすように、軽口をたたく。
「じゃあ次からそうするぜ」
へへ、と屈託のない笑顔で返答するリュウジ。
なんかちょっと悪いことしたかな、という気持ちになる。
「神楽ちゃんも一緒に帰ろ」
とリュウジの後に続いてサエが来る。
その後ろには神楽もいる。
「いいの?」
たぶんこの質問はサエではなく俺らに向けてだ。
「おう!いいぜ」
こいつ、妙に元気に答えるな。
「俺もいいぞ、どうせ帰り道同じだしな」
詳しくは聞いてなかったが、家は俺のチャリが壊れたあたりにあるらしい。
「そうなんだ・・」
サエが少し落ち込んだように呟く。
何で落ち込むんだ?・・あ、こいつの家俺ん家と真逆の方向だから、神楽といれる時間が少なくて落ち込んでいるのか。
「くそ!羨ましい!滅びろ!」
「よし帰るぞー」
意味が分からんのでスルー。
そんなくだらない話をしながら、すっかり騒々しくなった教室から出て行った。