運命
坂道をかなりのスピードで下りてくる影がある。
それは自転車だった。普通、ママチャリで全力を出してもそんなスピードは出ないだろう。だが、坂道だということもあり、もともと速いであろうそのスピードをさらに速めていた。
ではなぜそんなスピードを出しているかと聞きたくなるだろう。答えは・・
「はぁ、はぁ、・・うわ!ヤベェ遅刻する!」
こういうことである。
今日は4月6日、高校の入学式がある日だ。
つまり彼は、入学初日に遅刻しかけているという状況下にある。
そんな状況下に置かれた彼は今
「コノヤロー!なんで今日なんだよ!」
怒りと焦りが混濁していた。
そろそろ下り坂を過ぎようというところで、前に人がいるのを見つけた。
幸いすぐ近くというわけではなく、少し距離がある。
この距離ならまずぶつかることはないだろ、と思いながら少しだけスピードを落とす。万が一のためブレーキはいつでも押せるように手をかけておく。
前にいた人の姿がはっきり見える距離まで来た。
女子高生だ。俺が入る高校の制服を着ている。
だが、彼の目に映っているのは制服ではなく、その綺麗な髪だった。白く透き通るようなその髪はこの世のものとは思えないほどに美しく、彼の瞳をとらえて離さなかった。
しかし、自転車は猛スピードで進んでゆく。やがて彼女の横をすぎると
目が合った。
ほんの一瞬の出来事だったが、吸い込まれるようなその瞳に疲れが吹き飛んだ。
気恥ずかしさを覚え、目をそらし、少し落ち着こうと目をつぶり深呼吸する。
よし、と目を開き、前を見ると、
———————景色が反転していた。
比喩表現などではない。さっき通り過ぎた景色も、今さっき横を通った彼女の姿も、反転していた。
そして、意外と冷静な頭の中で考えた結果、気づく。
自分は今、宙にいて、頭から地面に落下しかけているということに。
「ヤベェな、コレ」
やはり冷静なままの頭に自分でも驚きだ。
とりあえず頭から落ちないよう抵抗を試みるも、落ちる未来に変わりないことは、側から見ても明白だ。
地面に落下する瞬間、走馬燈が見えた。
————ろくなことしてねぇな
そう思いながら地面に落下した。
数ある作品からこの作品を読んでいただきありがとうございます。
これからも頑張って執筆します。