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Revenge  作者: ひまじん
第2章 策略
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答え

超遅くなりました。すいません。

 「暁」

 日の出前の仄に暗い時刻


 「八雲」

 幾重にも重なった雲


 最初のヒントが送られてから少し経った。上のはその後に送られてきたヒントだ。

 もう手詰まりだ。俺にこれをどう解けというのか。

 まず、そもそもこれはヒントなのか?いやヒントではない(反語)

 こうなれば可能性の高い奴に適当に声をかける、数撃ちゃ当たる作戦へと移行しようか。

 だが、犯人に「お前犯人だろ」と言って頷くわけがないのと同じで、このヒントを紐解き、確かな理由を持って割り当てなければならない。

 つまりどのみちこのヒントを無視することはできないわけだ。

 全く、頭が痛いね。俺はゲームだったら筋力ガン振りの脳筋プレイをするような男なんだ。そんな奴に頭を使えなんて、なんて酷なことをさせやがるんだ。

 はぁ、とここ数日間何度吐いたかわからないため息を吐き出す。


「嫌なこと・・あった?」


 あ、そういえば今神楽と帰ってる途中でした。考え事しすぎて完全に忘れてました。


「いや、ちょっと考え事を」


 ちょっとどころじゃないけどな。

 だが友人たちに心配かけさせるようなことはもうできない。前はいろんな人に迷惑をかけてしまったからその反省だ。俺は失敗や後悔を未来に生かせないような男ではないのだ。

 それでもめちゃくちゃ悩んで困ってるのも事実。人から助けを求めたいとこではあるがこんなWikipediaまんまプリントしたような紙を見せられても俺同様に困るだけだろう。


「そういえば・・・明日は雨」


 神楽が急に雲を見ながらそんなことを言った。


「今日も雨の予定だったけどね」


 そう言って俺は手に持っていた傘を少し持ち上げた。

 そういえば神楽は傘を持ってきてないのだろうか。そんなことを思い、じろじろ見ていると神楽が口を開く。


「降らないって、知ってたから」


「知ってた?」


 神楽に目を向けると上を向いていたはずの瞳はこちらを見つめていることに気付いた。

 まぶしい白色の髪とは真逆の黒色の瞳は見つめていると吸い込まれそうな感覚を覚える。


「空が教えてくれる」


 じっと見つめてくる神楽から目をそらすように空を見上げるが、広がっているのは薄暗い雲だけで明日はおろか今にも雨が降り出しそうな天気をしている。

 神楽は雲の動きで天気を予想することが出来るのだろうか?天気予報を見なくて済むとなると便利なもんだ。能力として欲しいかと聞かれればノーと答えるが。


「俺には分からないな」


「教えてほしい?」


 こちらを見つめる神楽は相変わらず何を考えているかわからない無表情だったが、どこか期待されているような気がした。だが、


「いや、遠慮しておくよ」


 そういうと神楽は「そう」とだけ言ってまた歩き出した。

 天気を読む能力でも痛みを力に変える能力でもなく人の心を読める能力が欲しかった。感情の読み取れない彼女の瞳を見つめてそう感じる大地であった。




 夕飯をアカリと向かい合うようにして食べているとふとアカリが「ゲームしよ」と言ってきた。

 まぁいいかと思い適当に返事をすると、アカリは食べ終えた皿を台所へ持っていきそそくさと風呂場へ向かった。

 なんだアイツ。と思いながら食べ終えた食器を洗っていると風呂場へ行ったはずのアカリが制服を着たまま戻ってくる。


「お兄ちゃん!野球拳しよ!」


「ブフォ!どこで覚えてきたのそんな言葉!お兄さん怒りますよ!」


 全く、何か企んでいるとは思ったがまさか野球拳なんて言葉が出てくるとは思わなかった。


「い~じゃん、先に脱いだ方がお風呂入ればいいんだし」


「洗い物はどうすんだよ」


「着てた方」


 脱いぐのも嫌だし脱がされなくても食器洗いをしなきゃいけないとなるとメリットが全くない。


「やる意味がないのでやりません」


「えー、じゃあ先に下着だけになったらでどう?」


 よく考えてみたら勝ったら食器洗いを押し付けられるじゃないか。それに全部脱がなくていいなら、まぁ構わんか。


「よし、良いだろう。その代わり途中で恥ずかしくなって逃げるなよ」


「うん!じゃあ行くよ!じゃんけん・・」


 ポンッと言って俺が出したのはパー、それに対しアカリはチョキを出している。

 仕方ないと脱ごうとして今更ながらに気付く。

 そういや俺、Tシャツと短パンと靴下しか着てねぇじゃん。

 顔を上げて制服を着ている妹の顔を見るとしたり顔をしていた。


「このやろぉ、ひん剥いたるわ」


「いや~ん♡」


 仕方なしに靴下を脱ぐとアカリは残念そうな顔をしていた。

 思い通りにいかせるもんか。こうなったらたとえ全裸になっても勝負を挑んでやる。


「ジャンケンポン!」


 お互いに出したるはチョキ。そして再び腕を上げポンッという掛け声とともに手の形を変える。

 アカリはチョキのままで俺はグーを出していた。


「ほら、脱げよ」


 その時の大地の顔はおおよそ主人公のする顔ではなかった。

 自分から勝負をけしかけといて恥ずかしそうに靴下を脱ぐ妹の姿はどこか艶めかしく、今更になって何してるんだ俺という感覚に襲われた。


「お兄ちゃんのエッチ♡」


「お前、それやりたかっただけだろ」


 キャーと照れているのか喜んでいるのかわからない顔ではしゃいでいるアカリをしり目に、俺は洗い物へ戻ろうとすると後ろから待てがかかる。


「途中で逃げるなって言ったのは誰だったけ~」


 自分で言ってしまった手前この発言を「あっそ」で片づけることはできない。

 こうなったらパパッと勝って洗い物を済ませてしまおう。


「ジャンケン・・・



 まさかあの後連続で負けるとは思わなかった。

 そんなわけで今俺は負けたのに妹に洗い物を押し付けてのんびりと風呂に入っている。

 一人になると考え事が増えてしまうな。

 あの手紙の主についてもだが、なぜ楓さんたちは戦うのか、戦えるのか。それに決め手の事だってそうだ。

 俺には考えることが多すぎる。そのくせして考えなきゃいけない俺自身がバカだからさらに頭を抱えたくなる。

 手紙が来てからもう4日経っている。明日は金曜日だからそろそろ答えを出さねばなるまい。そのためにも明日のヒントがカギとなってくるのだが果たしてどんなのが来るのやら。

 そんなことを考えていると突然浴室のドアが開いてアカリが入ってきたのだが、そこは割愛させてもらおう。




 翌朝、下駄箱を開けるとそこには手紙が入っていた。

 これがラブレターだったらどんなにいいことか。心の中で悪態をつきながら教室へと向かう。

 教室のドアを開けようと手をかけた時、不意に横から声がかかった。


「おはよう。大地くん」


 声の聞こえた方角へ顔を向けるとそこには時雨がいた。

 俺は時雨に挨拶を返すとそのまま教室へ入ろうとしたが、話があるようで少し引き留められた。


「あの、大地くんゲーム好きって言ってたから、一緒にやりたいなーって」


 とゆう事らしい。俺としては全然かまわないし、むしろゲームができるのなら断る理由などないのだが・・


「なぁ、時雨。俺は構わないけど、君の後ろの人がめっちゃ睨み付けてくるんだけど・・」


 しかもかなり怖い。眼光で人を殺せるんじゃないか、というレベルだ。


「ん?あれはお姉ちゃんだよ。目つきは悪いかもしれないけどいいお姉ちゃんだよ」


 とてもそうは思えん、とは口には出さなかった。


「誰の目つきが悪いとな?」


 たいそうな口ぶりで時雨の後ろにいた女生徒が近づいてくる。

 存在感はでかかったが、身長は低いようだ。時雨の姉というには比べてみると頭2つ3つ分ぐらい違う。まぁ、単純に時雨が大きいのもあるが。


「ワシは此奴のような者を家になど入れる気はないぞ」


 話したこともないのに大した評価だ。目つきが悪い自覚はあったが、この目の前の女ほどではないはず。


「お願い、お姉ちゃん」


 女は少し考えた後、弟の顔を見て諦めたように「いいぞ」と言った。

 どうやら、弟には甘いらしい。


「ありがとう!お姉ちゃん!それじゃあ大地くん、またあとで!」


 そう言って時雨は自分の教室へと戻っていった。

 そして流れる重苦しい雰囲気。それを逃れるように教室へ向かおうとする。


「村雨、おぬし雨は好きか?」


 動き出そうとした時女生徒から声がかかる。

 雨?いざ好きかどうかと聞かれればなかなか答えにくい。でもまぁ・・


「好き、です」


 時雨の姉という事なので一応敬語を使っておこう。

 俺が答えると女生徒は「そうか」と言って俺の横を通り過ぎていった。

 よくわからない人だな。そう思いながら遠ざかっていく背中と濃い紫色の髪を見つめて気付いたことがある。


「あの髪形、そうなってたのか」


 正面から見るとボブかなと思ったが、実際はかなり髪が長いらしく、髪を途中で一度折り曲げ後頭部中央辺りでクリップかなんかで止めているようだ。それでも長いのか、留めた個所からポニーテールのように伸びている。

 そして気付いたことがある。

 きっとあの女が俺に手紙を出した張本人だ、ということだ。

 普通に考えてあんな奴、日常モノにいるような存在ではない。明らかに異質だ。それにあーゆーのは大体最強キャラって相場が決まってるもんだ。きっと今の俺が戦っても勝てないくらいには。

 だけどまぁ、アイツは自分から弱点をさらしてしまった。勝機があるとすればそこだ。

 近くに起こる戦いに勝機が見えると、大地は不敵に笑った。




 時間は過ぎ、時雨邸へ。

 こんな豪邸あったのかとついあっけに取られてしまうほど大きな家だった。

 そして今はトイレにこもっている最中だ。

 そういえば学校でこんな感じで手紙読んでたなと思い出したが、今は手元に手紙はない。ただ考え事をしているだけだ。

 あの女、時雨姉にどうやって勝負をけしかけようか。普通に殴ってやろうとも考えたが、万が一間違っていた場合申し訳ないなどというレベルではない。

 となると手紙の主はお前だったんだろ、と伝えるのがベストだろう。合ってたら顔面一発ぐらい殴らせてくれるかもしれないし。

 とりあえず、時雨姉が帰ってくるのを待とう。部活が終わって歩いて帰ってきたとしても7時手前には帰ってこられるはずだ。

 長居するのは少し申し訳なく思うが、あっちの世界での俺の命がかかってるんだ。許してくれ、時雨。


「ん?もう終わったの?早くない?」


「ああ、大じゃなくて中だったからな」


 トイレから戻ると時雨がこっちを見てそんなことを言ってきた。

 トイレ遅いなら聞いたことあるけど、早いって言われたのは初めてだ。だから適当にはぐらかしておいた。


「じゃあ、続きやろ」


 いつも思うが、見た目と中身違いすぎやしませんか。

 少年のような無邪気な顔で笑いかけてくる時雨に、そう思わざるを得なかった。


「その前に、俺何時までいていいの?」


「んー、何時でもいいよ。」


 ただいま4時13分。昔から遊ぶのは5時までという母からの言葉が根強く残ってしまっているので。音楽が鳴るころには帰ってしまいたくなる。

 それでも俺には果たす目的があるのだ。すまない母上、でも子は親に逆らうものだろう?。

 まぁ、俺反抗期来たことないんですけど。


「じゃあ、少し長居させてもらうよ」


「うん!」


 無邪気に笑う彼を見て、人質に取ろうとするのに気が引けてしまう。

 それでも、やらなきゃいけないんだ。



 ただいま6時30分。俺としてはもう帰りたいところだ。

 なにせ、どのゲームをやってもボコボコにされるのだ。挙句の果てにはアカリのやっていた格ゲーでは世界チャンピオンだという。俺にどうしろってんだ。

 ため息をつこうとして気付いたことがある。

 別に家で待つ必要はないんじゃないか。帰り道で遭遇すればそれでいいんじゃないか、と。

 とすると、もう時間もいい具合だ。今日はここでおいとまさせてもらおう。 


「じゃあ時雨俺もう帰るよ」


「え?あと1戦ぐらい」


 また今度な、というと時雨は少しうつむいて「うん」と答えた。

 玄関へ行き、自分の靴を履いて外へ出ると、時雨は門の前まで送ってくれた。


「よし、じゃあな時雨。また明日!」


「・・うん。またね」


 どうしたというのだろう。俺が帰ると言ってから時雨の元気がすべて抜けていったように見える。

 一生の別れでもないのに。と思いながら時雨に背中を向けて歩き出す。

 

「まって」


 そう言って時雨は俺の手をつかんだ。

 振り向こうとしたが次に続く言葉がそれを阻んだ。


「手紙、見ちゃったんだ。よくわからなかったけど、大地くんはなんて答えるの」


 どうやら時雨にあの手紙を見られてしまったらしい。

 おそらく、よくわからなかった、というのは反転世界や能力と書かれていた最初の手紙の事だろう。

 そして答え。今日の手紙の内容、

 それは


「仲間外れは?」


 だった。

 意味は分からなかったが、手紙の主が時雨姉だと目星がついているので、そう答えるつもりでいた。

 だが、名前を知らない。時雨に聞こうと思ったが、本人に直接答えを言えば関係ないだろうと思って聞いていなかった。

 だから、俺の答えは、


「お前の姉はなんて名前なんだ」


 俺がそう言うと時雨は「そっか」と言って手を離した。

 お前の姉は別の世界では殺人犯だぞ。なんて面と向かって言えるわけがない。だから、そのまま歩き出そうとしたのだが、不意に肩をガシッと掴かまれた。


「じゃあ」


 背中から聞こえた声は先ほどから聞こえていた優しい声色ではない。

 嫌な予感が体中を駆け巡り、後ろを振り向こうとして顔を動かすと同時、急に世界が姿を変えた。


「答え合わせだ」


 聞こえる声は暗く、重く、耳に響いた。

 そしてその声が最後まで聞こえるか否か、右のこめかみに鋭い衝撃が走る。

 どうやら殴り飛ばされたようで吐き気とめまいがする。体に力が入らず地面に倒れこんだまま目の前の巨体を睨みつける。

 そこにあったのは先ほどまでの優しい目ではない。高みから見下ろす感情の感じさせない冷ややかな視線だ。

 その視線を見て心の底からふつふつと怒りがわいてきた。

 さっきまでの楽しい時間も、俺に向けた無邪気な笑顔も全てまがい物だったわけだ。

 俺は間違ってた、コイツは姉を出し抜くための人質なんかじゃない!倒すべき相手だ!


「友達ごっこは・・・終わりだ・・!」


 歯を食いしばって立ち上がる。フラフラになりながら殴られた個所から流れる血を拭う。


「しぐれええええぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!」


 その眼光は狂気を増し、怒号は瘴気を伴って砂上にこだました。


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