疑惑
遅くなってまい本当に申し訳ございませんでした
ハァ、とため息を一つ。原因は今朝の手紙だ。
もしも呼び出しの手紙だったら相手に悪いので、学校でサラッと目は通したが、見た感じ呼び出しの手紙ではなかった。いや、何なら呼び出しの方がまだマシだったもしれない。
俺は覚悟を決めて手紙を開けると、今度はしっかりと手紙の内容を読んだ。
村雨大地、私はお前が能力者である事を把握している。コレがどれだけのアドバンテージであるか、お前は分かっているか?こちらが一番良いタイミングで勝負をけしかけられる。本来ならばお前が一人になった時に不意打ちで倒すのが良いのだろうが、それではつまらんだろう?
さて、ここからが本題だ。先の前置きでお前の立ち位置は理解できただろう。その上で「ゲーム」をしよう。ルールは簡単、私が誰か当てるだけだ。今日から1週間後に答えを示せ、毎日ヒントはやろう。明日の朝お前の下駄箱にヒントを書いておいた紙を入れておく。
どうだ?お前にとって悪い話ではないだろう?もっとも、拒否権などないが。
では、一週間に会えるのを楽しみにしているぞ。
手紙を読み終わった俺は、やっぱり呼び出しの方がマシだったな、と改めて思った。なにせ、この手紙は宣戦布告をしきているようなものだ。
なんかゲームみてぇだな。と思いながら携帯を取り出し楓さんの電話番号へかける。
「まるで宣戦布告ね。一度見てみたいから、8時に持ってきて頂戴。反転世界は、この世界で触れていれば、大体どんなものでも一緒に持っていけるから」
「今初めて知ったよその情報」
内容を伝え終えると楓さんから新事実が伝えられる。
だから楓さんはいつも定規を持っていけてたのか。
楓さんってもしかして、人に教えたりとかするの苦手なんだろうか。などと考えていると、「じゃあ切るわよ」と聞こえてきたと同時にプツッと音がして、電話を切られた。
8時まではまだ時間がある。今日はアカリが夕飯担当であるため、暇なので体を動かしながらいろいろ思考を巡らせてみる。
いつもは1週間のうち土日以外は、反転世界をパトロールをしている。土日のどっちかは、楓さんとの情報共有兼ランニングだ。
・・ぶっちゃけ楓さんとの情報交換の時間いるか?とは思ったが、きっと本来の意味はトレーニングの方なのだろう。多分。
とりあえず、反転世界について考えてみるも、あまりにも情報が少なすぎた。
というより、そもそもなぜ戦うのだろう。戦う意味は見つけた。それは義務であり、俺の決意だ。だが、戦う目的は?俺はなんのために戦っているのだろう。
それに、誰かを倒すたびに懸賞金のように入ってくるあの金は何だろうか。金を出してくるということは、誰かにメリットがあるということだ。その「誰か」とは一体・・
「おにいちゃ~ん!ごはんできたよ!」
腹筋が100回を少し超えたところで、階段の方からアカリの声が聞こえてきた。
気づけば、もう30分ほど経っていたようだ。
中学の頃はリュウジと一緒に陸上部に入っていたが、今はもう筋肉が衰えてしまったようで、締め付けられるように痛む腹筋を抑えながら、階段を下りて行った。
楓さん達と合流して、一通り手紙を読み終わった後、俺はこの手紙の主に該当しそうな人物を見当してみた。
「どう?誰か思い当たる?」
「うーん、特にいないです」
「じゃが、これを読む限りヒントはくれるのじゃろ?」
爺さんが言った通り、毎朝ヒントは書いててくれるらしいのだが、
「どんなヒントが来るかが問題ですね」
そう、奏さんが言った通りそれが問題なのだ。分かりずらいヒントが来られたら、人物を絞れなくなってしまう。
「まぁ、ヒントの件は明日来てから考えるとして、この手紙だけで分かることはないか考えましょう」
楓さんはそういうも、とてもじゃないがこの手紙でヒントになりそうなものは見つからない。
文字で判断しようにも中性的でわかりづらい。さらに、内容にも特徴らしいものは見つからないときた。
「むー、これだけじゃ分からんのぉ」
「十中八九学校の人だろうけど、もしそうなら僕たちができることは限られてしまうね」
そうか、学校の人の可能性が高いのなら、リンやサエ、リュウジ、時雨とか俺の友達の可能性は特に高いだろう。知り合いでもないやつが、こんなゲームみたいに勝負を仕掛けてくるわけがない。それに、知らない奴なら先に気づいた時点で仕掛けてくるはずだ。
「まぁ、いいわ、わからないなら仕方ないし明日考えましょう。さぁ、今日もパパッと仕事しちゃいましょうか」
楓さんは、考えても無駄だと言わんばかりに話を断ち切る。
先を歩いて行った楓さんの後ろをついていくと、ふいに楓さんがこちらをチラッと見た。
「大地君、あんまり友達を疑わない方がいいわよ」
楓さんはそう告げ、再び前を向きなおした。
「疑心暗鬼、か」
俺はその言葉を胸に刻むと、少し離れていった奏さん達の背中を追っていった。
今日も、この世界で俺たち以外の人に出会うことはなかった。
早速だが、俺は手紙の主を探すのを諦めかけていた。
理由はいたって簡単。今朝のヒントが意味不明なのだ。
では見ていただこう。朝下駄箱に入っていたノートには、
「村雨」
強く降ってすぐ止む雨
「群れた雨」の意味
こう書かれていた。
本当に意味が分からない。そもそもこれはヒントなのか?
もはや、ヒントに希望をなくした今何を頼れば答えられるだろうか。
と考えていると、ガラガラとドアが開いた。
そこから現れたのは、リンとサエだった。
サエは俺を見つけると「おはよう」と言って自分の席へ。リンは、丁寧にドアを閉めると、俺の方へと向かってきた。
「置いてかれた・・・」
リンはいつも通りの無表情で、だが、少し文句ありげに言った。
置いてかれた?誰にだろうか?
「タイチに置いてかれた・・・」
「いや、今日は確かに早く来たけど、置いてってはないぞ?」
登校中にリンの姿は見なかったはずだが、もしかして、いたのか?
「いつもより早いから・・時間合わなかった・・」
「だったら電話かメールすりゃいいのに・・・」
俺はそう言うと、リンは少しだけハッとした表情になった。
もしかして気づかなかったのか・・
「文明の発展は著しい・・」
「ふふ、リンちゃんそんなに寂しかったの?」
俺が呆れた顔をしていると、いつの間にかサエが横にいた。サエの机には、もう既に数学の準備がされていた。
リンはサエに質問に対して、
「・・・いや別に・・」
少し間をあけて、残酷に告げた。
俺は何とも言えない微妙な表情をしながら、始まりのチャイムを聞いた。
「ケーオー!!」
無情にリビングに鳴り響く、決着の声。
ただひたすらに、自分の選択したキャラクターがボコボコにされるのを見るのは、もはやこれで何度目だろうか。
本来なら「寝る」と一言告げて、引き留めようとするアカリの手を振り払って二階へ行くが、今日の俺は人一味違う。
そこをグッと堪え、死んだ目で画面を眺めているのだ。
そもそもとして、今回このゲームをしているのは、楽しむのが目的ではない。
決め手である。
戦いの日が来るのは避けられない。それも、最大でも一週間以内にである。なら、自分はその一週間で決め手を考えようという結論に至ったわけだ。
だが、カッコいいなと思うものがあっても、それは自分にはできない技ばかりで・・・つまり成果なしである。
そして、ふと今さっきの決着時の技を見て俺は、結局シンプルに一撃必殺スタイルが一番いいのかもしれないと思った。
「なぁアカリ、さっきの技なんて言ってたんだ?」
ならいっそパクッてやろうと、とりあえずアカリに技名を聞く。
「ん?あのとどめ刺したヤツ?」
「そう」
「あー、何だっけ。たしか、バスターショットだった気がしたけど」
バスターショット・・か。うん、もうこれでいいんじゃないかな。
何か少しでも成果が得られた。その安心感によって、俺は急激な眠気に襲われた。時間を見れば、もう11時で、普段ならもう寝ている時間だ。
「よし、寝る」
「うん。あかりも~」
ゲームの電源を消し、リビングの明かりを消して、二階へ行きアカリに「おやすみ」と言って自分の部屋へ入る。
即自分のベットへ入った俺は、一緒のベッドに入っているアカリに「おやすみ」と告げ・・・
「おいコラ。自分の部屋で寝ろ」
返答がないので、オイともう一度声をかけると、返ってきたのは寝息だった。
こいつ・・とは思いながらも、部屋へ運ぶのもめんどくさかったので、そのまま寝ることにした。