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守護霊ラリアット

「あ……よく考えたら、別に取り憑かなくても、一緒に行けばよかったんだ……」

「早く言ってくれ」

 とりあえず、当てもなく町内をぶらつく。

 下校時間になってるのか、やたら学生の姿を見かけた。

 いや、そうか。

 あれだよ。今日土曜だ。

 補習か部活かだろう。

 曜日の感覚がなくなってる自分に絶望する。

 深夜アニメをリアルタイムじゃなくて自動録画にしてから余計だな…… 

「あ、俺もよく考えたら……」

「ん?」

「名前なに?」

「……言わないと、だめなんだ?」

「んじゃU子ね。幽霊のU」

「んぅー、何それ」 

 んぅ?

 どうやら頬を膨らませたまま「うー」と言ってるせいでおかしな発音になっているようだ。

 何というかハムスターみたいな顔になってる。

 ハムスターというかゴーストだけど。

 もうゴースターでいいや。……何か仮面ライダーにそんな怪人いたな。

 しかし、取り憑かれたせいか、何か幽霊見えるんですけど。

 見える人になっちゃんてるんですけど。

 あまりにもナチュラルに見えるから超怖い。

 道行く人の肩口とかに取り憑いた霊の姿なんかも見えたりする。

 っていうか多くないか?

「なあ、あれって取り憑かれてるの?」

「ううん。あれは守護霊」

 ああ、なるほど。そういうのも居るのか。

 どうりでみんなに乗っかってるわけだ。

「あれ? ちょっと待てよ? 俺には居ないの守護霊?」

「うん。全然、かけらも。これっぽっちも」

 ですよねー。

 思い当たる節ありすぎるわ。

「だから取り憑けるんだ」

「なるほどなー」

 いいんだか悪いんだか。

 いや、悪いな。

 と、歩いてるうちに、河川敷についた。

 あー、学生時代この辺よく通ったなあ。

 自転車二人乗りしてるカップルとか見かけて、無性に石きりしたくなってたなあ。

 殴る壁ないし。

「ここ……やめよ?」

 突然、肩口辺りに漂ってたU子が、俺の肩を掴んで引きとめてきた。

「何で?」 

「……何でも……あ」

 U子は、目を見開く。

 その視線の先には、談笑しながら歩く3人組の女子高生。

 何の変哲もない女子高生の集団だ。

 校則が緩いのか、みんな茶髪にパーマをあてている。

「……」

 俺の陰に隠れたまま震えているU子。

 その時、わかった。

 あいつらだ。

 あいつらが、U子をいじめていたんだろう。

 死んでからも、こんなに怯えるなんて……

 胃の底が、きりきりする。

 指先に、冷気が抜けていく。

 ああ。

 そうか。

 俺、頭に来てるのか。

 あまりにも久しぶりで、自分でも自分の感情をよく理解できなかった。

 日々、ただ風化していくのを待つ砂漠みたいな生活。

 こんな気持ちになるのは、何年振りだろう。

 そりゃそうだ。

 こんな気持ちになるのが嫌で引きこもってたんだから。

 ヘドが出る。

「なあ……取り憑かれてたら幽霊に触れるんだよな?」

「……え? ……う、うん」 

「……OK」

 俺は、女子高生たちに向かって走り出した。

「え? え? ちょっ……」

「ちょっと黙ってろ」

 俺は女子高生たちの方に両手を広げて飛びかかった。

「ソイヤー!」

 ちょうど両手でラリアットするような形で、間をかき分けるようにして駆け抜ける。

 そしてそのまま知らんふりして通り過ぎていく。

「は? な、何アイツ?」

「い、今の何?」

「キモ……警察呼んだ方がよくない?」

「キモすぎるんですけど」

 後ろから声がする。

 だけど、どうでもいいんだわ。

 そんなこと。

「お、おい何をする。離せ」

「そうだそうだ」

「こんな事をしてただで済むとお思い?」

 俺の両手で掴まれた幽霊たちがわめく。

 あいつらの守護霊だ。

「黙れ」

 見た目も年齢も性別もバラバラの守護霊たちの文句は無視してそのまま引きずっていく。

「な、何でこんな……」

 U子が怪訝そうに俺を見てきた。

「いいんだよ。あいつらみたいな奴らは苦労した方がいいんだ」

「きゃああーっ!?」

 背後で叫び声がした。

 どうやら女子高生たちは野犬に絡まれて、驚いた拍子に河川敷の斜面から滑り落ちたらしい。

 1人はそのまま川まで落ちてびしょ濡れになっていた。

「守護霊がいないだけでこうか。自業自得だ」

「も、もしかして……私の……」

「さぁ? 知らね」

 口笛を吹きながら河川敷を歩いて行く。

 両腕にはまだあいつらの守護霊を捕まえている。

 まだ喚いているが知った事じゃない。

 俺だって守護霊なしでも生きてこれたんだ。

 別に死にゃしないだろ。

「わんっ!」

 と、急に足元に絡みついてくるものがあった。

 さっき女子高生たちをおどかしてた野犬だ。これぞ雑種といわんばかりの平均値な見た目に、汚れた毛並み。

 よく見れば、後ろ足を引きずっていた。

 事故にでもあったんだろう。

「ハッハッハッハッ」

 何かもの言いたげな目で見てくる。

 この慣れ具合、人に飼われてたのかもしれんな。

 とりあえず、俺は引っ掴んだままの守護霊たちを押しこんでみた。

「ちょっ……何をする!?」

「やめろ!」

「守護霊は己が子孫を繁栄させるのが使命ぞ!」

「あんな捻くれ者の子孫にしといてよく言うわ。ちょっと苦労させてりゃ人の痛みもわかるだろ」

 おお、入る入る。

 意外といけるもんだね。

 取り憑かせるなんてホントに出来るとは。

「おいワン公。お前は人の三倍守護霊がいるんだ。これからラッキーしかないぞよかったな!」

「わん!」

 何か褒められたと思ったのか、犬は俺の周りをくるくる回った。

「わん!」

 もう一度吠えると、そのまま走り去っていった。

 あれ? 「仲間になりたそうな目」で見てくるパターンかと思ったけど、そうでもないのか。

「可愛いなあ……」

 ぼそりとU子が呟いた。

「なんだ、だったら言えばよかったのに。俺の手を介してなら触れるだろ?」

「そうなんだけどね……」

 日が暮れてきた。

 カラスが鳴いてきたし帰りましょうかね。

「……ね。ちょっと寄りたいところあるんだ。……いいかな?」

「ん? いいけど?」


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