ニートミーツ幽霊
呪いのビデオ。
数年前に流行ったが、割と今は聞かない。
が、まぁ、それに遭遇したんだ。俺。
正確には、ビデオじゃなくて電波だな。
地デジに対応してないテレビなんだが、ゲームをするために点けたところ、映ったんだな。
本当は何も映らないはずなのに、人の顔があった。
青白く、髪の長い女だった。
「コロシテ……やる」
俺は無視して、ゲーム機にディスク挿入したんだわ。
怖かったし、画面変えないとって思ったんかな。あん時は。
そしたらさ、
「ひゃんっ!?」
とか言いやがる。
「キターーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
ってつい言ってしまったね。
ひゃんだよひゃん。
ある意味二次元だよ。
勝ったね。
一度も勝った事のない人生で初めて勝ったね。これ。
もうなんか、ハイになっちゃってね。
出し入れするわけですよ。
イジェクトボタン押しては、出てきたディスクを即、また入れてさ。
そしたら――
「ひゃん、あう、はぁん、ひゃん」
もうね、アホかと。
俺を萌え殺す気かと。
というか、それでいいや。
それが死因ならいいや。別に。
そんな感じなわけですよ。
別にいつ死んでもいいんだわ。
リストカットだってしたことあるし。
痛くてカッターの刃が当たってすぐ抜いたから、虫さされみたいな跡しかないけど。
なんだろね。
自分語りするならさ、コミュ障でロクに友だちも出来ずに学生時代すごして、Fラン大学出て、面接ボロボロで就職できず、登録するだけで出来る派遣を数年やってさ……
で、不況で派遣切り。
それからニート。
アフィリエイトやヤフオクの転売で時々、小遣い程度は稼ぐけど、親に寄生ですよ。
もう26なのに。
親に申し訳なくてもう死にたいけど、死ぬ勇気もないわけですよ。
そんな俺の前に、萌え幽霊ですよ。
殺されてもいいって腹括ったら、何でもできるわな。
挿入、イジェクト、挿入、イジェクト、挿入、イジェクト――
ヘヴン!
気づいたら、幽霊、泣いてやんの。
「ひっく……ひっく……」
そこは、もうこの女の子に免疫ゼロの俺なわけですよ。
もう混乱しちゃってね。
慌ててディスクを抜き出そうとするんだけど、上手くいかないの。
手ぇ震えて。
途中でディスク引っ掛かって、ガチガチいっちゃってさ。
一気に引き抜いたら、反動でディスク投げ飛ばしちゃって。
ガシャンですよ。
後ろの棚に置いてたプラモに激突して、それが落下。
キャッチしようと飛びついたときに、ゲーム機のコードが足に絡まって。
すってころりんですよ。
コード引っ張られてゲーム機は倒れるわ、それがゲームソフト入れてるラックに当たってソフトぶちまけるわ……
親が仕事に行っててよかったね。
こんな姿見せられねえよ。
……普段の姿も見せられたもんじゃないけど。
それから、引っ掛かったコード外して、散らばったソフトとか片づけてたんだけど……
いや、忘れてたね。正直。
幽霊。
まだいたわ。
もうね、感情がないの。
生気が無いっていうか幽霊だからないんだけども。
凄い冷めた目で俺見てるわけですよ。
そこはコミュ障の俺ですから。無問題。
なに喋っていいかわかんないから、とりあえず放置して漫画を読み始めたわけです。
やべえ。
ちょい昔の週刊少年誌おもしれえ。
「ねえ……」
そう声かけられて振り向くと、例の幽霊がいた。
うん。
忘れてた。
でも、こう怖がるタイミングを逃すと、もう怖くないわけで。
「えっと、何の用?」
「あの、私、幽霊だよ?」
「うん、そうなんじゃね?」
「怖いとか、あるでしょ普通」
「いや、別に……」
「……何それ」
幽霊が、また泣きそうな顔になった。
「お、おい、泣くなよ」
「泣きたいんだ! 死んじゃって、ずっと一人で寂しくて……そこで死にたい死にたいってオーラ出してる人がいたから来てみたら……このザマなんだ!」
「あ、そんなに出してたんだ俺。死にたいオーラ……」
なんか、ヘコむわ。
中2病、こじらせすぎだろ俺。
「もう死んでよ! 一緒に死んで!」
なにこれプロポーズ?
あれだね。
死にたい死にたい言ってたけど、死んでって言われると死にたくないよね。
というか死にたくないよね。
死にたいとか言ってるけど、ヘタレだもんね俺。
「断る」
「そう……だよね」
と、急にうつむく幽霊。
俺なんか悪い事したか?
「私なんて、誰も一緒に死んでくれないんだ……」
とかさめざめと言いやがる。
「お、おい、泣くなよ……いつかいい人見つかるって」
「私……あなたがいい」
「ちょ、ちょっと待てって落ちつけよ。気の迷いで決めるようなことじゃねえだろ?」
「気の迷いじゃないんだ!」
「や……あ……イケメンとか、たくさんいるだろ」
「イケメンとか怖い……あなたがいいんだ」
なにこれ。
幽霊以外に言われてみてえよチクショウ。
「と、というか、何でそんなに道連れにしたいんだよ」
「だって……だって……生きてる間もずっと独りだったのに……死んでからもなんて……酷すぎるんだ……」
眉をハの字に曲げ、絞り出すように幽霊は言う。
く、くそ。騙されねえぞ……
「でも道連れは酷いだろ」
「だから死にたがってる人を探したんだ」
なんだこいつ。
良い奴なのかい? 悪い奴なのかい?
どっちなんだい!
俺の人生経験じゃ判断がつかねえぞ。くそう。
「ま、まぁ、死にたいってのも嘘じゃないんだけど、でも死にたく無いじゃん?」
俺は何を言ってるんだ。
「そう……だよね」
「そ、そんな気にすんなって。話相手くらいにはなるからさ……」
あ、言っちゃったよおい。
俺のばか。
「……ホント?」
幽霊の目に少しだけ光が差したように見える。
うん。ダメだってその目は。
結構可愛い娘がさ、そんな目をしたらさ……
ね? 俺、童貞だよ? わかってる?
抗えると思ってんの?
「もちろん任せとけ!」
「じゃあ、聞いてくれるんだ?」
「おう」
そこから始まる鬱トーーーーク!
幼い頃に両親が離婚して、母親に育てられたこと。
母親が弟ばかり溺愛して、自分を虐待していたこと。
引きこもりの弟から暴力を振るわれていたこと。
母親に、下着などを勝手に売られていたこと。
学校でいじめにあっていたこと。
仲の良かった友人もいじめに遭い、不登校になったこと。
男子から性的暴行されそうになったこと。
そして、一番意外だったのは、それらを苦にしての自殺ではなく、事故死だったことだ。
なんでも飲酒運転の車にはねられて死んだんだそうだ。
……。
なんだよこれ。
「……言いたいだけ言ったら、すっきりした」
笑った。
こいつ、笑ったんだよ。
何で笑えるんだよ。
俺なら10回は死ねる内容だったよ。
「……ありがと。なんか、成仏できるかも」
幽霊の体が、薄っすら光りだした。
「待てよ」
今日何度めだ?
俺、何言ってんだろ。
でも、止まらなかった。
「お前まだ、良い目見てねえじゃん」
「……でも、もう死んでるし……」
「なんかあるだろ。……なんか」
「なんかって?」
「それは……」
頭の中を、かつての友の言葉がよぎる。
『お前……外に出ろよ。外には色んな事があるぞ』
そんなもん、信じてなかった。
信じてなかったはずなんだけど――
「外だよ。とにかく外に出るんだよ」
「え?」
手を引こうとしたが掴めない。
「……幽霊が取り憑きでもしない限り、幽霊は触れないんだ」
「じゃあ取り憑けよ」
「ほえ?」
何だよ。呪い殺すんじゃなくて萌え殺す気かこの野郎。野郎じゃないけど。
「いいから取り憑けよ。早くしろ! あと『んだんだ』言ってんじゃねえ。田舎のおっちゃんか!」
もうね。あれですよ。
時々オタクが見せる勇気ね。
漫画の読みすぎで発動するやつ。あれですよ。
何か、幽霊の方も、俺の気迫に押されてか、おずおずと取り憑いてきた。
「う、うん……」
「ひょう!?」
幽霊が背中に手をまわした瞬間、首裏から尾てい骨まで一気に寒気が駆け巡った。
こう、氷を襟から投げ入れられた感じ。
「ほ、ほぉ~……」
「だ、大丈夫? 何か拳法家みたいな声になってるけど……」
「全然大丈夫だし。寒くねーし。い、行くぞ」
なんか底冷えするみたいな寒気がするけど、我慢。
我慢強くないとニートにはなれない。逆に。
自室から出て、玄関に向かう。
なんだろ。
太陽まぶしい……
そうだよな。太陽って結構まぶしいよな。
基本、夜行性だからさ……
外なんか出たの、いつ振りだろ……
あんなに出るの避けてきたのに……気が付いたら、出てた。
出てみると、何もでもない。
「……はは……」
「……どうしたの?」
「なんでもない」
俺、バカだよね。
って言うか、それをわかってるフリして、ホントの意味じゃわかってなかったんだろね。
くだらない。
出るのなんか、簡単じゃんか。
それを……それをなんでこんな年までやっちゃったんだろ。
なんで……
やっぱり、わかんね。
わかんないまま、今に至るわけですね。はい。




