不思議なこと
ジュド達が帰ったその翌朝、いつものように朝食を作ろうと食品庫の扉を開いた朔夜は首をかしげた。
食品庫が満杯だったのである。満杯だったことが問題だったのではない。今、満杯であることが問題なのだ。ジュド達がやってきたのは二日前。食品庫はその時今の半分くらいの量だった。昨日は朝からジュドが朝食を作ってくれたという驚きの出来事があった以外はこれといった変化はない。勿論、食糧を買いに外に出たということもなかった。ジュド達は来たときは手ぶらだったため、彼らが補充したということもない。つまり、今食品庫が満杯であることの説明が付かないのである。
食品庫とは、いわば冷蔵室のようなものである。冷蔵庫の代わりといってもいい。しかし不思議なことに、食品庫の中が寒いと思ったことは一度もない。けれどそこに保存されてある食品は触るとひんやりしている。この家での不思議なことの一つだ。寒いとは感じないのに食品は冷えており、傷むこともない。そして次に不思議なのが、食品庫の一番奥にある丸い水晶の様なものだ。あれには触らない方がよいと、直々にフランから説明を受けているが何故なのかはわからなかった。見た目はただの薄水色がかった水晶に見えるというのに。
一人勝手に補充されている食品庫の中で途方に暮れていると、一つしかない入り口のドアからフランが顔をのぞかせた。
「…サクヤ?」
一人こんなところで佇んでいるのが不思議に思ったようで、そっと声をかけたフランに朔夜は振り向いた。
「あの、いつの間に補充したんですか?」
「補充…?ああ、ここか。勝手に補填するように設定している」
その言葉に今度こそ朔夜は混乱した。今、フランは勝手に補填すると言った。設定してあるとも。今までそういう不思議な体験に出くわしたことがなかった朔夜は、当然ここ…今彼女が住んでいるところも同じようなものだと思い込んでいた。しかし、それを証明する手立てなど何一つ持っていなかったことに今更ながらに気づいた。もしかするとこの世界は随分とファンタジーな世界なのではと一人頭を悩ませている朔夜の傍をフランが通り過ぎる。
一番奥の水晶に手を翳したかと思えば、すいと横に移動させた。そうすると今まで何の変哲もない水晶が光りだした。そうかと思えば、すぐに収まる。そこにあった水晶は、光る前とさほど変わったようには見られなかった。朔夜が近づいても、それは変わらない。
「何をしたの?」
「期限が切れそうになっていた」
「期限…?」
何もわからない朔夜にも、フランは嫌な顔一つせずに説明をした。
ここにおいてある水晶は温度調節を行う為のもの。しかし、水晶の中にある水が切れるとその調節が狂ってしまう。その前に、中の水を補充してやる必要がある、と。どうやら、それが先程の行為だったらしい。
不思議なことの二つ目である水晶を眺めながら、フランは魔法が使えるらしいと頭のメモに書き込んだ朔夜なのであった。