来客2
無事人数分のティーカップをトレイに乗せて持っていけば、男性二人はなにやら話し込んでいるようだった。二人の邪魔にならないようにカップを置けば、テーブルの淵でブラブラと足を降らすルシィの傍にもコトリと置いた。
「あら、ワタシのティーカップ、見つけてくれたの?」
何故だかとても嬉しそうに瞳を輝かせるルシィに内心首を傾けながらも頷けば、そっとカップを取り香りを楽しむ彼女のそばにあった椅子に腰かけた。
「ここにはたまに遊びに来るのだけれど、このカップを見たのは久しぶりなのよ?フランさんって不器用でしょう?ジュドさんがこちらのおうちに持ってきてくれたワタシのカップ、持ってきて早々すぐ失くしてしまったの!」
ありえないでしょう!?と頬を膨らませながら憤るルシィに朔夜は苦笑することしかできない。フランという人は何故かオルゴール以外の事となると不器用で、紅茶が美味しく淹れられるようになったのも極最近の話しなのだそうだ。家事を手伝ってくれているときに普通の皿よりも小さいソーサラーを落として割ることも少なくない。そんなフランのことだ、いつの間にか奥に奥にと仕舞われてしまった小さなカップを見つけることができなかったのだろう。
「だから、ワタシ久しぶりに自分のカップを見たわ。ありがとう!…いけない!アナタの名前を聞いてないわ!なんておっしゃるの?」
「朔夜です」
朔夜自身としては、フランの事例があるためなるべくゆっくりと発音したつもりなのだがやはりルシィは上手く聞き取れなかったらしい。一応は聞き取ってくれていたフランには感謝するべきだろう。
「サ…なんて?」
「朔夜…サクでいいですよ」
「そう?ありがとう、サク」
ニコニコとした表情を崩さぬままにお礼を言ってくるルシィに自然に朔夜も笑っていた。暫くは、ルシィがいろいろな話しをたくさんしてくれたのでずいぶん楽しい時間を過ごすことができた。
ふと、気が付けば随分時間が経っているようだった。時計が無いので正確な時間は分からないものの空が雨のせいというには薄暗くなってきている。フランたちを横目に見るがまだ熱心に話しているところだった。
「フラン達は何を熱心に話しているの?」
「二人が離すことと言ったら、オルゴールのこと以外にはないわ」
その発言には驚くばかりだった。しかし、考えて見ればフランがあんなに熱心に取り組むことと言ったらオルゴールくらいしか思いつかない。休憩や寝るとき…いや、もしかしたら寝ている時でもオルゴールのことを四六時中考えているような人だ。最近は一つのオルゴールで幾つもの曲を演奏できるものを試行錯誤して作っている。今現在で言えば12曲が限界らしい。朔夜自身はオルゴールについて詳しいことは分からないものの、前に見たオルゴールは24曲入っていた。…どうなっているのか、もっと詳しく調べておくべきだったかもしれない。
「大抵フランさんが部品部分をどう作っていくか考えて、ジュドさんがその部品を作るそれで出来上がった部品を組み立てていくのもフランさんよ」
ルシィの説明を頷きながら聞いていたが、ふと疑問が頭をよぎった。…誰が曲を考えているの?もしかしたらルシィかもしれないが、もしそうだったら自分から言っている気がする。まだであって間もないがこの小人の女性は可愛いくらい素直なのである。その彼女が言わないということは別の人が曲を作っているのだろう。…オルゴールとは思っていたよりずっと手間がかかる産物であったようだ。
結局男性二人の話は終わるところを知らず、朔夜とルシィは早々と就寝した。朔夜の部屋に簡易的なベッドを作りそれを貸した。気にいるかどうか不安だったが、予想以上に喜んでくれたことにほっとせずにはいられない朔夜なのだった。