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死神と契約書 番外編②-真夜中の子猫-

作者: ジン#

真夜中、家を抜け出した。

特に理由はなかった。ただ暗い夜の中へ身を置きたいという気持ちが一番近いかも知れない。

外灯の少ない道を闇の中をあてもなく歩いた。


しばらく歩いていると、茂みの影から小さな黒い塊が飛び出してきて目の前に止まった。子猫だった。

「おい、びっくりさせるなよ」

そういうと、子猫は、「ミャア」と小さく鳴いた。

俺は足を止めて、その場にしゃがみ込んだ。

首輪はしてないので野良猫のようだ。野良猫は警戒心が強くそのまま逃げてしまうことが多いが、この子猫は逆に伸ばした手に擦り寄ってきた。

「お前、人懐っこいな。人に飼われてたのか?…食べ物なら持ってないから甘えたって出てこないぞ」

俺は子猫の頭と顎のあたりを指で軽くさすってやった。子猫は目を細めてゴロゴロと気持ちよさそうにしていた。


「じゃあ、そろそろ行くな」

俺はゆっくりと立ち上がった。子猫はそれに動作に驚いたのか俺から少し離れてから、ちょこんと座ってこっちを見ていた。

「そんな目でみるなよ、本当に何も持ってないんだって…。わかったよ、何か買ってきてやるからそこで待ってな」

そんな俺の言葉に応えるかのように子猫は「ミャア」と鳴いた。


ところで、子猫って何食べるんだ?魚肉ソーセージとかでいいのか。そんなことを考えながら近くのコンビニへ向けて歩いていると、二台のバイクが俺のすぐ隣を通りに抜けていった。その数秒後だった。ブレーキを踏んだ音が静まった夜の空に響いた。嫌な予感がした。鼓動が高くなるのを感じた。俺は来た道を走って戻った。子猫が居た場所付近に二台のバイクが止まっている。そこから三人の声が聞こえてくる。


「おい、何急に止まってんだよ」

「何か引いちまったよ!」

「あははは、馬鹿だなお前何やってんの」

「きもちわりぃ。うわぁ、バイク汚れたんじゃね?ほんとうぜぇ!」

「洗車しろ、洗車。おい、もういこうぜ」


その頭の悪そうな会話を聞いたせいか、ほんのちょっと懐いただけの子猫に対して情がわいたのか自分でも信じられない行動をとっていた。

気が付いたら二台のバイクの前に立っていた。


「なんだお前?」

「邪魔なんだよ。テメーも引き殺すぞ!」

「…やってみろよ」

「あ?」

「…やってみろって言ってんだよ」


そう言うと、バイクのエンジンを切り三人は俺に近づいてきた。そして無言で殴りつけてきた。三対一の喧嘩なんて結果は見えていた。何十発殴られただろう。何十発蹴られただろう。意識が遠くなりそうにながらも、俺は食い下がった。何をしたかったのかわからない。何をさせたかったのかわからない。ただ、引けない何かが自分の中にあった。ただそれだけだった。


「はぁはぁ…、なんだこいつ、しつけーな」

意識がなくなりそうなままそいつらの方を睨んでいた。


すると、中のひとりがナイフを取り出した。


「テメーいい加減にしろよ!」」

「おい、やめろって!」


次の瞬間、殴られたとのとは違う痛みが身体に走った。痛いというより熱い。ナイフで刺されたことがわかるまで数秒かかった。


「ば、馬鹿なにやってんだよ!」

「逃げるぞ!」


三人はバイクにまたがるとそのまま逃げて行った。

熱く痛むところを押さえていた手をみると手は血で真っ赤に染まっていた。


「はぁはぁ……。痛ぇ…。あはは、俺、何やってんだろ…。俺、死ぬのかな…」


そんな俺に近づいてくる人影が見えたが、出血のせいか視界がはっきりしなかった。

その人影が俺の前で止まるのがわかった。


「残念だけど、あなたはここで死ぬわ」

話しかけてきた人影は女性の声だった。


「私は死神。あなたの残りの寿命で願いを叶えてあげるわ」

この女性は何を言ってるんだろう?俺は死ぬ間際に夢を見てるのだろうか?…それでも、死ぬことに関しては夢じゃないことは理解できていた。


「…ね、ねがいって…なんでもいいの…か?」

これが自分の声かと思うくらいかすれた、消え入りそうな声だった。


「願いはあなたの寿命を代価に叶える」

「…そうか。…じゃあ、…そこの…ねこ…たすけてやって…くれ。…かなう…か?」

「問題ない」

「よか…った…」


この女性の言う馬鹿げたことを信じているわけではなかったが、死ぬ間際の気休めとしては十分だった。

どこの誰だかわからないけど、その点については感謝していた。

もう消え入りそうな意識の中で、俺は自分の行動について顧みていた。

何でこんなことにムキになったのか。たぶんきっとあの子猫が自分と同じように見えたからだった。淋しく一匹でいるくせに、どこかで温かさを求めている。まるでひねくれた自分のように見えたからだった。まあ、これも俺が子猫に勝手に抱いた想像に過ぎないのだが。


しばらくすると視界が完全に真っ暗になった。意識も消えそうになっていた。その消え入りそうな意識の向こうで猫の小さな鳴き声が聞こえた気がした。

その声に小さく笑みを浮かべれたような気がした。

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