二刻
本編の始まりです
カリカリカリカリ……
【我が主よ。そろそろ休息を取れ】
想造主が物語を
書き紡いでいると
背後から声が聞こえた
声の主は魔王サタン
想造主の初子にして
友である存在
「サタンか。もう少しで書き終わるから、待っていてくれ」
【なら、紅茶を淹れておこう】
「助かる」
サタンは楕円形のテーブルに置かれた
白磁のティーポットの蓋を
人差し指で軽く叩くと
ポット先端から
湯気が出てきた
そのポットは
蓋を叩くという
スイッチを入れるだけで
すぐに湯が湧くように
想造主が戯れに考案し
造ったものだ
サタンは
二つある白磁のティーコップに
手慣れた様子で紅茶を注いだ
すると空間全体に
紅茶の良い香りが満たし
物語を書き紡ぎ終えたのか
カリカリと響いていた
文字を書く音が止んだ
「ふむ、ちょうど物語を書き終えたことだし、紅茶でも飲むか」
【ああ、そのほうがいい】
想造主は椅子から立ち上がると
サタンが淹れた紅茶に
手を取り一口飲んだ
「美味い」
【それは良かった。ところで我が主よ】
「なんだ?」
【我がここにいる理由が分からないのだが】
「ふむ、ならばあれだな」
【あれとは?】
「私がついさっき書き終えた話の展開が、今の状況というべきものだ」
【すなわち、メタフィクションみたいなものか?】
「そうとも言えるな」
【書き終えたということは、これから起こることは我が主には分かっているのか?】
「そりゃそうだろう。これから起きる未来は、私によって想定された未来なのだから」
【これから起きる未来を記したということは……この空間を舞台に何かが起きるのか?】
「ああ、私の手の平の上で起きる反乱がね」
【つまり、我が反乱の鎮圧をすれば良いのか】
「そうなるね。正確には、反乱者の滅びをもたらすことだけど」
【で? 反乱が生じるのはいつ頃だ?】
「もうすぐさ。この紅茶を飲み終えたら、奴は現れる」
【あと一口じゃないか】
「そう、この一口で奴の滅びは始まるね。では頼んだよ――」
この空間の平和の終焉は終わり
仕組まれた反乱が起きる
その反乱は叶わぬ反乱
絶対なる鎮圧者によって
砕かれるのだから――。
[叩くだけですぐにお湯が涌くポット]って欲しくないです?