初刻
説明回です。
会話は一切ありません。
カリカリと文字を書く音
それだけがこの空間に
響いている
異常なほど殺風景な
無機質で白い空間
あるのはただ
八畳程度の広さの空間の片隅で
カタカナのコの字のように置かれた
三卓の長テーブルと
背もたれ付きの椅子が一つ
古びた大きな振り子時計
数多の資料などが仕舞われた本棚
客をもてなすために存在するであろう
白磁のティーセットがある
楕円形のテーブルと
向かい合うように置かれた
二つの椅子
それだけが空間にある家具だった
この空間の創造者の名は想造主
彼は物語を紡ぐためなら
休息すらも 寝食すらも
構わないと言う風に
捨て去る
まるで狂気に取り憑かれたように
自身を責め立てるように
湧き上がる衝動に突き動かされるままに
己が望んだままの物語を
写し出す魔導書を
完全に支配し
白紙に万年筆で書き写す
ただそれだけだが
多大な労力を伴うもの
バラバラの道を真っ直ぐに
矛盾無きよう確固として
暴走から定めた道へ誘導させ
マラソン選手のように
ゴールへ向けて走り抜くように
物語というコースを
万年筆で走らせる
想造主はそれをやり続ける
己が身が朽ち果てる時まで――。
別著作の[ある作家の話]とは関係ありそうで、一切ありません。
書いてた当初は、[記憶の海に沈めて]いたので。