宇宙怪人ザンダボー!
「ゴールデンヒポタン先輩!事件です!!」
あわただしい靴音とともにこじゃれた紅色のベレー帽をかむった美少年がバンっと扉を押し開けて現れる。
「俺のことは艦長と呼べと言ったはずだ。いつもお前はあわただしいな、ディスコビッチ一等兵」
ヘドロン星産の高価なミルクティーとともに午後の優雅な時間を過ごしていた俺はもちろん取り乱しはせずに落ち着いて話を促す。
「落ち着いてヘドロ茶すすってる場合じゃないですよ!もうじき襲ってくるんですよ、ザンダボーが!」
大仰な身振りをつけながらこんなことを言い出すが、レーダーに敵襲ありとの報告は秘書官からうけてはいない。俺は子供の駄々をあやす要領でにっこり笑顔をうかべ、威厳とともに口ひげをしごく。
「何を言っているんだ、ディスコビッチ一等兵。レーダーに敵襲ありとは・・・」
途中まで言いかけたところで、突然けたたましい警報音がブーバーブーバーと艦内中に鳴り響いた。
「くっ、おそかったか!ゴールデンヒポタン先輩がちんたらヘドロ茶なんか飲んでるから・・・」
「おい、なんだその言い草は。俺は余った時間でミルクティーを飲んでいただけだ。それに俺のことは艦長と呼べ」
ディスコビッチ一等兵は俺の話を最後まで聞かずに、やってきたときと同じようにけたたましく俺の部屋を出て行く。
「おい、まて。ザンダボーってなんなんだ」
俺の叫び声はむなしく室内にこだまする。
艦橋に着いた俺がモニターいっぱいに映し出されたザンダボーを見たとき、なんてこった!とののしりとともにぼやきをこぼしたのは無理もないだろう。
「こいつがザンダボーですよ、せんぱい!」
なぜかここにいるのが当たり前のような顔をしてディスコビッチ一等兵がモニターに映し出された人のような顔でウサギのような耳っぽいものを頭部に生やし、うにゃうにゃと緑色の触手を四方八方にうごめかしながら俺の軍艦に向かってきているモンスターを指差して訳知り顔でなにかをわめきたてている。
「こいつはなんなんだ、ディスコビッチ一等兵」
「こいつこそ宇宙怪人ザンダボーですよ!こいつのこと知らないんですか?ゴールデンヒポタン先輩!」
「知るわけないだろうこんなモンスター。あと俺のことは艦長と・・・」
「こいつは近づく前にやっつけないと危ないですよ!早く撃ってください、例のあれ!」
「なんだかよくわからないが、確かに叩いておく必要はありそうだな。よし、総員戦闘準備。NQD砲、発射用意」
俺の指示とともに軍艦の船員が一斉に動き出す。
「NQD砲、撃てー」
どきゅーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!!!!!
激しい振動音とあたりを青白く照らし出す閃光とともに、軍艦の真ん中にある一番大きな砲塔から放出されたビームがモニターに映し出されていたザンダボーに突き刺さる。
ザンダボーは断末魔の叫び声を上げ・・たかどうかはわからないが、無残に焼け爛れた赤黒い肉片となって宇宙空間に四散していく。
「やりましたね、せんぱい!怪人ザンダボーは木っ端微塵になりましたよ!」
ディスコビッチ一等兵が、何かをすっきりやり遂げた顔で、俺に向かって片目をつむりぺロッと舌を出して親指を立てている。
「宇宙の平和は僕たちの手で守られました!」
平和を守ったなどと言われると年甲斐もなく照れくさくなるが、もちろん俺はそのような感情をおくびにも顔に出さず、威厳をもって口ひげをしごく。
「このくらいのことは造作もないよ。ところで、あの怪人ザンダボーというのは、いったいなんだったのかね」
「ザンダボーは人類の悲しみを背負って醜くなった姿をウサギのようなかわいらしい外見で覆い隠そうとして失敗した哀れなやつなんですよ!」
俺はそれを聞いていたたまれない気持ちになる。ザンダボーはどうやら人類の犠牲になった哀れな存在だったのだ。
「ちなみに生まれ持った触手を自らの欲望のために使おうとしたためにあのような姿になったとも言われていますね!」
「なに、それはいったいどういうことだ?」
「あ、そうこうしてるうちにジェニファーちゃんとの約束の時間が!じゃ、先輩あとはよろしくたのみますよ!」
「おい、まて」
俺の制止の声も聞かず、ディスコビッチ一等兵は艦橋から走り去っていく。
俺の叫び声が艦橋にむなしくこだまする。
艦長を美少女にしようかと思って、かわりにダンディな紳士になりました。