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戦国の詐欺師~異世界からの脱却譚~  作者: 赤巻たると
第三章 打倒、将軍家
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第五十話「ありがとう」

 


 出雲大社から少し離れ、風薫とともに小高い丘の辺りにやってきた。

 風薫は何も言わず、控えめに俺の身体を支えながら坂を登っている。

 貧血気味で辛かったが、あの簡素な神社内で話すのは避けたかった。

 さっきの巫女に聞かれてたら癪だしな。


 どこまでも見渡せる空は空虚で、俺の心境を反映してくれているように思える。

 眼下では、農民が晴れがましい顔で耕作をしている姿も見受けられた。


「このあたりも、整備が届いてきたみたいだな。

 毛利両川の統治は酷かったみたいだから、日和の内政が心地いいだろう」


「…………」


 珍しく、風薫から合いの手が飛んでこない。

 どうやら、話を逸らそうとしている雰囲気が伝わってしまったようだ。

 これはいかん。そろそろ本題に入るか。


「風薫、あんまりごまかして言うのもなんだから、単刀直入に言うぞ」


「……はい」


「――俺は多分、あと数日で帰る」


「そう、ですか」


「ああ、俺としても、もう少しお前やアヤメたちと楽しくやりたかったな」


 乾いた笑いで場を保たせてみる。

 しかし、風薫の表情はいぜん曇ったままだ。

 俺の顔を弱々しげに見上げてきて、服の裾を掴んだ。


「私も、ご主人様ともっとお話したかったです。

 まだまだ私は未熟ですから、ご主人様に色々教えて欲しかったです」


「はは、俺は人に何かを教えられる人間じゃないよ。

 教えられるのは変な知識ばっかだ」


「……どんなのですか」


「聞かないほうがいいと思うぞ。

 俺の持ってる知識と言えば人を騙すことに関してと、えっちいゲームの攻略法くらいだ」


 具体的に言えば、どの選択肢を選んだら好感度がうなぎ登りかを推測するのが得意だな。

 がっついた選択肢が逆効果なのは基本だ。

 最初は紳士らしい行動で好感を得るんだ。獣へと変貌するのは物語の後半でいい。


「……って、一人で何考えてるんだ俺」


「やっぱり、ご主人様は不思議な人です」


「そうか? 卑怯な人間だとしか思えないんだが」


「何か、人を引き付けるものを持ってるんですよ。

 一緒にいると安心できて、楽しくて嬉しいんです」


「それはこっちも同じだよ。

 風薫がいてくれたらものすごく安心できたし、楽しかった」


 山道をついて来た時はどうやって諦めさせようかと思ったり、俺の力で守れるのかなと本気で心配したものだ。

 結果的に、俺が守られてばっかだったけどな。

 正直言って、俺はこの世界で何かしたっけかってレベルだ。

 でも、世界側から見ると、見過ごせない異端なんだろうけどさ。


「ご主人様は、好きな人がいるんでしたっけ」


「んー、恋愛に関しては不得手なんだよな。

 好きって言えば好きなんだろうし、気になるって言えば気になるだけなのかもしれない」


 でも、それでも本当を言えば、俺は甘屋のことが好きなんだけどな。

 どんな時でも一緒にいてくれていた、

 歴戦のパートナーだ。詐欺師が稼ぎ、発明家が作る。

 見事な負の循環に裏打ちされた信頼は伊達じゃない。

 まあ、そういうのを抜きにしても、俺はあいつのことが好きで仕方ないんだけど。

 そうでもなければ、婚約なんてしない。


「……悔しいです」


「え?」


「あんまり表には出せなかったんですけど、私はご主人様のことが大好きだったんですよ?」


「それは何となく分かってた」


「本心では、ご主人様と結ばれたかったです」


「俺も、お前は特別に好感を持ってるよ。

 ひょっとしたら、運命のめぐり合わせによっては、お前に心酔してたかもな。

 だけど、これは忘れないで欲しいんだ」


 そう言って、俺は風薫の方に両手を置いた。

 真剣に話を聞いてもらうために、俺は風薫の瞳を一心に覗きこんだ。


「俺はな、元々はこの世界に来るはずじゃなかった。

 もっといえば、俺たちの人生は、本来交わるはずじゃなかったんだ」


 妙な戦国鎧のせいで、こんな戦乱が渦巻く世界に来るハメになった。

 何回も死にかけたし、ホームシックになりかけたこともあった。

 でも、俺はその結果に文句をつけるつもりは一切ない。


「俺はさ、この世界に来るまで『信じる』ってことができなかったんだ。

 情を見せれば裏切られ、背中を見せれば刺されてしまう。

 そんな張り詰めた人生を送ってきてたから、最初はお前の無防備な態度に困惑してたんだ」


 すり込み効果ってわけじゃないだろうけど、俺に積極的に関わってきてくれた風薫は、大切で重要な存在だった。

 京都の巫女に言われた通り、憐れみの目を向けられても仕方なかったんだ。


「でも、お前に出会ってから、俺は人を信じることを思い出した。

 俺を失格者から人間に引き上げてくれたのは、ほかならぬ風薫なんだよ」


「……お役に、立てたんでしょうか」


「何言ってるんだ。お前がいないと、この世界で俺は生きていけなかったよ。

 だから、お前には感謝の気持でいっぱいだ」


 風薫の頭をくしゃくしゃと撫でてやる。

 女の子らしいやわらかさを持つ銀髪は、俺の指をすんなり受け入れてくれた。

 安心感に浸ってか、風薫の眼が細くなる。

 それと同時に、風薫の眼の端から、温かいものが滴り落ちてきていた。


「……風薫?」


「あはは、嬉しいんです。お礼を言いたいのは私の方ですよ。

 今まで、誰にも認めてもらえなかった私を、初めて信じてくれたのは、受け入れてくれたのは、ご主人様だったんですよ」


「まったく。こんな良い少女を冷遇するなんて、酷い話だよな」


 俺がそうだったように、風薫もどこかで人生の階段を踏み外してしまった。

 己の内に秘めた才覚に振り回され、悲しい人生を送ってきた。

 そこに、人間不信に陥った詐欺師がやってきたんだ。

 何かが欠けてしまった同士――傷の舐め合いってわけじゃないだろうけど、共感できるところがあったんだろう。

 風薫の目尻に溜まった涙を指で拭ってやり、耳元でささやいた。


「俺は元の世界に帰るけど、やっていけそうか?」


「……不安ですけど、皆がいてくれれば何とか頑張れそうです」


「そうか」


 その言葉を聞きたかった。

 出会ったばかりの風薫だったら、打算的な面が表に出てきて、宇喜多家と協力するのをためらったかもしれない。

 俺をなんとしても止めようと、暴走して襲いかかってきてたかもしれない。

 だけど、俺と同じように、こいつも内面に大きな変化があったようだ。

 それがこの少女にとって最高のモノであることは、言うまでもないことだけど。


「そういえば、立場的には俺のほうが上なんだったよな。

 えっと、あんまり意識したことなかったけど、俺とお前ってどんな関係だったっけ」


「奴隷と雇用者です」


「……そんな殺伐としてたっけ? って、違うだろ。

 お前はとっくの昔に奴隷を卒業しただろうが。

 今はほら、頼り甲斐のない『詐欺師』と、満点花丸の『策士』だろ」


 人を騙し食らうはずの詐欺師。

 しかし、俺はいつの間にか、人を騙すことが苦手になってきてしまったのかもしれない。

 いや、違うな。人を騙すことの愚かさを、この世界にきて知ったのかもしれない。

 自分の信念のため、誰かの無事を願うため、必死になって努力する人間が、まぶしすぎて何もできなくなってしまったんだ。

 きっかけは、あの農婦を見たところからか。

 あれからこいつと出会い、ひたむきに頑張ろうするやつを見てきた。

 そんな人から搾取することは、詐欺師としても失格だし、人間として失格だ。

 ずいぶんと、俺も丸くなってしまったな。後悔はないけど。


「よし、風薫に一つだけ褒美をあげよう」


「ほ、褒美ですか?」


「ああそうだ。思えば、俺は頑張ってるお前に対して、何にもしてやれなかったからな。

 上の立場にいる人間がそれじゃいかんだろうよ。一つだけお前の願いを叶えてやろう」


 俺の知ってる戦国武将は、みんな家臣に対しては惜しみなく褒賞をプレゼントする。

 ところが俺はどうだ。今までねぎらいの言葉もロクにかけて来なかった始末。

 だから、その雪辱をここで果たして見せる。


「なんでもいいんですか?」


「もちろんだ。俺は金銀財宝なんて持ってないけど、それでもお前に何か形として何かをしてやりたい」


 それが俺の、上司としてのけじめだ。

 それにしても――こういう立場にいると、シェンロン的な気分になるな。

 まあもっとも、風薫はどこぞの欲の権化みたいな頼みはしないだろうが。

 あの作品における豚は、一種の尊敬を覚えるほどだったからな。


 風薫は少しの間、顔をうつむけていた。

 眉間に影を作り、何を頼むか熟慮している。

 まずいな、あまりに俺が何も持ってないから、困っているんじゃないだろうか。


「あ、そういえば俺って日和に一回も俸給を貰ったことがなかったよな。

 その金をあげるというのでもいいぞ」


「いえ、それよりももっと価値あるものをもらいます」


 腹が決まったようで、俺の代替案を鎧袖一触で払いのけ、少女らしい微笑みを浮かべた。

 少し頬に朱を差した表情になる。


「ご主人様、靴の紐が解けていますよ」


「む、ほんとだ」


 ヨタヨタの足取りでここまで登ってきたせいか、スニーカーの靴紐が荒ぶってしまっていた。

 これはいかんと思い、しゃがんで結び直す。

 すると、俺の行動を見た風薫は前方に回りこみ、もう一回声を出した。


「ご主人様、出雲大社から半裸姿の巫女が出てきています」


「な、なにぃッ!?」


 貞操観念が尋常でない巫女のサービスショットだと……!

 それはぜひとも拝観せねば。嫌いかけてしまっていた巫女に、再び望みを見いだせそうだ。

 すわ拝見せん、と光を超えた速さで前方を向いた。

 顔を上げたすぐそこには、小悪魔のように微笑む風薫の顔があった。


 そのまま顔を近づけてきて、キスされた。


 ――キスである。

 キス、すなわち接吻。

 はっきり言って、避ける避けないの話ではなかった。

 まさに電光石火。不意を突かれた俺は、そのまま棒立ちになっているだけだった。

 甘い匂いが鼻腔をくすぐる。

 あまりにも優しくて、慈愛に溢れた感触だ。

 少しの間唇を触れ合わせてきたが、少し名残惜しそうな微笑むを見せて、風薫は離れた。

 そしてすぐさま、とびっきり活発な笑顔になる。

 舌を少し出して、嬉しそうに手を胸に当てた。


「あは。責任は、とってもらいました」


「……な、ななな。いきなりそういうことをするか!?」


 急に顔が熱くなってきた。やばい、恥ずかしくて死んでしまう。

 言うまでもないが、世の中にはファーストキスという概念がある。

 もちろん、俺の元の世界での話だ。

 特別な人に対する親愛表現であり、俺からしてみれば初めての経験であった。

 とはいえ、そこまでショックはない。相手が風薫だしな。


「……てか、こんなのが褒美でいいのか?」


「はい、これ以上のものはありませんよ」


 楽しげに、朗らかに返事をする風薫。

 しかしその声は、いつの間にか湿りを帯びていた。

 よく見てみれば、風薫の目にはまたしても涙が溜まっていた。

 しかし、それは先程までの悲しみの涙ではない。

 笑いながら零している涙は、どこまでも温かい。

 そして、風薫は伝ってくる涙を拭わなかった。

 これから来る未来を、受け入れるために。


「私は、ご主人様に会えて本当に幸せでした」


「ああ、俺もだよ。

 俺もお前に会えたことが、何よりも嬉しかった」


 これは、一切の虚偽のない、心からの言葉。

 互いに助けてここまで進んできた、俺たちだけの言葉だ。

 それよりも――結局俺は風薫を騙せなかったな。

 何が最後の詐欺せんたくだ。カッコつけた結果、無残な失敗をしてしまったみたいに感じるじゃないか。

 まあいい、嘘をついて得られる幸せなんてたかが知れてる。

 重要なのは、俺が『詐欺』を出来なくなったんじゃなくて、しなくなったということだ。

 騙すチャンスは何度も転がっていたのに、この始末。

 これでは詐欺師として失格だ。

 簡単な嘘に引っかかって逆に詐欺られてたし。ファーストキスを持ってかれたからな。

 ほとほと危機感が薄くなってしまったものだ。


まあ、その事実は俺にとって、何よりも喜ぶべきことなんだけど。

 こいつが幸せになってくれるなら、そしてあいつと一緒になるためなら、血塗られた詐欺師なんて喜んで辞めてやる。

 だけど、今はまだその時じゃない。

 たとえ仮面が脱げかけていようと、この詐欺師としての虚勢を、最後までかぶり通してやる。


 風薫は小高い丘から、空を見上げた。

 雲ひとつ無い天空は、どこまでも澄み切っていて見渡すことができる。

 しかし、風薫はさらにその奥を見ているようだ。


「ご主人様の世界は、とても遠い所にあるんですよね」


「そうだな。俺が思うよりも、ずっと遠い所だ」


 少なくとも、ひょいひょい行き来できるような場所にはない。

 永劫とも言える長い時を超え、更に次元を隔てた所に存在する世界。

 そのことを知っている風薫は、少し寂しいんだろうな。

 でも、風薫はそれを口に出さない。

 おそらく、湿っぽい別れよりも、温かく幸せに溢れた別れが好きなのだろう。

 俺だって同じだ。別れは辛いものだから、少しでも優しい別離を選ぶ。

 空を見上げていた風薫は、その瞳の光を保ったまま、俺に向き合ってきた。


「でも、ご主人様が元の世界に返っても、

 いつか私の夢の欠片がご主人様に届くかも知れません。

 いつになるかわかりませんし、ひょっとしたら届かないかもしれません。

 でも、もし私の遺した何かがご主人様に届いたら――その時は喜んでくれますか?」


 とても抽象的な言葉。

 でも、その意味は何となく伝わった。

 だから、俺は自信を持って首を縦に振る。

 断定して、了解するんだ。


「もちろんだ。喜びまくってやるよ。喜びすぎて失神するかもしれないぜ」


「そうですか」


 それを聞けて、安心しました。風薫は一つ息をついてそうつぶいた。

 そう、どんなに距離が離れても、奇跡が起きれば何かが伝わるかもしれない。

 俺がこの世界に来たことだって、奇跡みたいなものなんだから。

 だから、俺は待ち続ける。元の世界で、それを待ち続けてやる。


「さて、それじゃあ戻るか」


「そうですね。風も出てきました」


 俺たちは、手を取り合って丘を降りる。

 神在月のその日まで、あと数日。

 遺恨を残さないように、最後まで突き進んでやる。

 そう思って後ろを振り返った刹那、岩場の影に誰かがいるのを見つけた。

 とっさに風薫の方を振り返るが、彼女は静かに首を横に振った。

 少し顔を赤面させている。はて、敵ではないということか。


 一瞬身構えてしまったが、敵意がないようなので近づいてみる。

 すると、そこにいたのは、見つからないように地面にうつ伏せで隠れていたアヤメその人だった。

 俺が岩場から覗きこむと、バレちゃった的な顔になってぺろりと舌を出した。


「ここで何してんだ、お前」


「いや、面白そうだったからにゃ」


「覗いてたのか」


「二人っきりで親密な空気だったから、風薫に手を出すんじゃにゃいかってワクワクしてたのにゃ。結局ヘタレだったけどにゃ」


「ほっとけ」


 さっきの話の一連の流れを、隠れて見てやがったのか。

 なんという悪趣味な真似を。

 お仕置きで背中でも踏んでやろうかと思ったが、身軽なアヤメはすぐに身体を起こしてしまった。

 というより、こいつはどうやって出雲まで来たんだ。歩いてきたとでも言うのか。

 中国山脈を徒歩で制覇とか、どこの修行僧だよ

 アヤメは砂を払うと、俺の後ろにいる風薫に向けてアイコンタクトをする。


「風薫。少しこいつを借りるにゃ。先に戻っててくれると嬉しいんにゃが」


「……あ、えっと。まあ、構いませんよ」


「ありがとう。今度は私の番だからにゃ」


 アヤメは何やら意味のわからんことを笑顔で言い放つ。

 風薫は少し名残惜しげにしながらも、承諾して先に帰っていった。

 どうせ、また後で話せるからな。今すぐさあ別れましょうってわけじゃない。

 すると、アヤメは俺についてくるようにと指示を出してきた。

 しかし、俺はこの場から動けないのだ。


「歩けないんだよ、俺」


「にゃ? どうしてにゃ」


「貧血でヤバイし右脚が消えかけてるし、左脚は槍傷が治ってないんだ。これで歩けたら奇跡だぜ」


「仕方ないやつだにゃあ」


 そう言うと、アヤメは俺に近づいて、足のあたりを払ってきた。

 払い腰でも喰らわされるんだろうかと危惧したが、何のことはない。

 ただのお姫様抱っこへのつなぎ技だった。


 ……ただの?


「おいアヤメ。この運搬のされ方は非常に抵抗を覚えるから、他の方法で運んでくれ。

 何なら肩だけ貸してくれたら歩けそうだからさ」


「ダメにゃ、治らない内に無茶はさせられにゃいにゃ。

 しかし、これが嫌となると……ふむ」


 風薫に一回された時に、著しい羞恥心が湧いてきたからな。

 しかも後になって。これ以上黒歴史は作りたくないのだ。

 俺の言葉が届いてか、アヤメは俺の身体を地面に近づけようと前傾姿勢になる。

 おお、珍しく聞き分けがいいな。

 やっぱり素直が一番だ。そう思って安心していると、全身を浮遊感が通過した。


「じゃあ、こうやって運ぶにゃ!」


 キメ顔で俺の首と足をつかむアヤメ。

 その両肩に俺の全身を載せ、荷物のように担いでいる。

 しかし、局部に凄まじい痛みが響いてきた。


「どわぁああ! これは地獄車だろうが!

 離せ、今すぐ離せ! ぐわぁああああああッ!」


 ベキベキとあちこちの関節が悲鳴を上げる。

 痛くないように気を使っているのか、そこまで深刻なものではない。

 しかし、ショック療法にもなりそうにない衝撃が断続的に襲ってくる。

 あれ、さっきこいつ『治らない内に無茶はさせられにゃいにゃ』とか言ってなかったか?

 明らかにこっちのが無茶だよ。

 むしろお前が無茶をして俺を破滅に導こうとしてるだろ。


「どこのレスラーだよお前は!

 ヤバい、このままじゃくっつきかけてる骨が軒並み折れちまう」


「折っていいのかにゃ!?」


「目を輝かせながら言うことか!? ダメに決まってるだろバカ猫!」


「にゃらさっきの運び方ににゃるが?」


「……分かった、もう抵抗しないから早く連れて行け」


 まったく、どうして融通が効かないんだ。

 まあ、男としてかなり恥ずかしい運び方よりはマシだ。

 山賊に連れて行かれているような錯覚を覚えるが、少しは我慢しよう。


「じゃあ、出発するにゃー」


 こうして俺は、突如現れてきたアヤメによって近くの川に行く事になってしまった。

 その時気づいたが、俺の左脚はもう、膝のあたりまで透けていた。

 そのことに気づいてか、アヤメは妙に早歩き。

 そう、時間は限られている。

 刻一刻と、タイムリミットは迫ってきていた――



 

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