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四年目のリサーチ

 今流行の海外ファンタジー映画を見終わった私と彼は、そのままデパートの中をぶらぶらとショッピングしていた。

 彼も私もDVD派なのだけれど、やっぱり3Dは映画館で見ないとね、という訳で外に出てきたのである。社会人になってから外でデートなんて久しぶりだから、私なりの精一杯でおしゃれをした。ワンピースだって卸したてだし、メイクも仕事用とはちょっと変えてみた。私の精一杯なんて世間ではほんのちょっとなんだろうけど、待ち合わせ場所で「うん、いいんじゃない」と、彼は私を見て言ってくれたから、もうそれだけで今日は幸せだ。

「どこか見たいとこある?」

 彼がエスカレーターを降りながらそう聞いてきた。そうだなぁ。食事するにはまだ早いし、かといって欲しいものもない。メンズも置いてあるお店で服とか見るのがいいかな、と考えていたら、降りた階の正面に見慣れないペットショップがあった。

「ここ、前は違う店じゃなかった?」

「ん? ああ、店舗入れ替えたみたいだね。見てく?」

 店内に張られた「NEW OPEN」のチラシを見ながら、彼はそう言った。私は「うん」と頷いて彼と二人ペットショップへ向かう。

 新しくできたペットショップは、私の知っている中ではかなり大きい方で、フロアの半分ほどがこのお店のエリアになっていた。人気のある犬や猫だけでなく、ウサギやハムスターなどの小動物、インコなどの鳥類や熱帯魚まで種類も豊富だ。そして、私が心惹かれる爬虫類コーナーもばっちりある。このペットショップ最高じゃないか。

 ついつい私の視線が奥の爬虫類コーナーへ向いてしまった間に、彼の興味は可愛らしい子犬へと向いたらしい。ちょんちょんと私の袖を引いて、あれあれと指をさす。彼が指をさした方を見れば、ガラスケースの向こう側で愛らしい子犬がころころと転がっていた。

「わ、可愛い」

「だろ? もっと近くで見よう」

 彼は私の手を引いて、ガラスケースの前までやってきた。黒い柴犬がとてとてとケージの中を元気に動き回っている。隣のケースではマルチーズだろうか。こちらはおやすみ中だ。さらにそのガラスケースの向こうでは、丁度ブリーダーさんがトイ・プードルを連れてきて、カットするところを見せていた。

 ふと周りにも目を向ければ、ケースの側には私たちの他にも家族連れや、カップルが何組かいて皆にこにこと幸せそうだ。私たちもそう見えているのかな。そうだといいな、なんて思いながらまた彼に視線を戻すと、彼は黒柴に夢中だった。どうやらその子がベストヒットしたらしい。目が輝いている。

「その子、気に入った?」

「気に入った。くそー、飼えればいんだけどな……」

 心底悔しそうにしている彼に私は笑みを零す。確か、今彼が住んでいるマンションはペット禁止だったはずだ。可哀想だが諦めるしかないだろう。

「犬がいいの? 猫とかは?」

 しかし、これはチャンスと私は探りを入れる。哺乳類から徐々に爬虫類へいけばいいだろう。四年も付き合って今更だが、避けていた話題なんだから仕方ない。それに、これで爬虫類も好きだ、もしくは大丈夫だということが分かれば僥倖じゃあないか。

「猫? 猫もいいよね」

 なんて彼はすぐ隣の子猫のケースにも目を向けた。好奇心旺盛な子猫たちが、集まる人間たちを不思議そうにじっと見つめていた。

「じゃあ、鳥とかなら飼えるんじゃない?」

「飼えるだろうけど……。やっぱこいつだなぁ」

 鳥類はどうだっ、と聞いてみたが、やはり気になるのはこの子犬のようだ。だから、マンションじゃ飼えないんでしょって。

「そういえば、今まで何か飼ってたことあるの? 聞いたこと無かったけど」

「そうだっけ? 金魚くらいだよ。縁日の」

 金魚か。ヒバリくんの餌にしていた時期もあったな。結局ヒバリくんは食べなかったけどね。私が少し遠い目をすると、彼は「ん?」と首を傾けた。慌てて何でもないよ、と言うと、「そう?」と彼はまた子犬に視線を戻した。

「じゃ、じゃあさ……、その……」

 ここで私は、爬虫類はどうか、と彼に聞こうと口を開いた。しかし、これが中々勇気のいることで、その、の先が上手く言えない。私今、告白したとき並に緊張しているんじゃないだろうか。「えーと」なんて意味の無い言葉を繋げている内に、彼の興味はまたしても別のものに奪われてしまった。

「あ、ねぇ。成犬は触らしてくれるって。行ってみよ」

「え? あ、ちょっ――」

 柵で囲まれたスペースがあると思ったら、犬と触れ合う為の場所だったのか。店員さんが何頭か成犬を連れてきて、そのスペースの中に入る。誰でも自由に中に入って触らせてもらえるらしい。彼はまた私の手を引っ張ってその柵へと近づくと、店員さんに断って中に入れてもらった。もちろん私も一緒だ。彼は嬉しそうに、ゴールデンレトリーバーの頭をぐりぐりと撫でている。その顔を見ているとなんだかまぁいいか、という気になって、私は今蛇のことについて質問するのを諦めた。

 しかし結局、その後も犬の話で持ちきりになり、他の話題といえば、食事の時に今日見た映画の感想を話すくらいだった。せっかくのチャンスだったのに、私は彼が蛇をどう思っているのか、聞く機会を逃してしまったのである。


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